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第20話 平和と言う幸福

 邪悪な気配が消滅し、威圧感も無くなっていく。

 同時にダンジョンが凄まじい音を立てる。崩壊だ。


「リーン! 脱出するぞ!」

「はいでありますっ」


 リーンがメルセナ、俺がシャロを担ぎ、大急ぎでゲートを後にする。

 現実世界に帰還すると、ゲートは校舎に大きな振動をもたらしながらも、間もなく消滅した。


「終わった、のか……?」

《近辺に先程のルシフェルのような魔力は感じられません。よって、状況は終了したと判断します》

「良かった……」


 疲労がどっと迫ってくる。だがのんびり休んでいる場合ではない。


「二人を回復しないとな。リーン、パワーヒールを頼めるか?」

「了解でありますっ、パワーヒール!」


 スキルを多用した俺では魔法にどのような影響があるのかわからないため、リーンの方が適役だ。パワーヒールを掛けると、二人はびくりと身体を震わせ、意識を取り戻した。


「こ、ここは……?」

「……わた、しは……」

《二人とも無事なようです。ルシフェルの魔力の残滓なども確認されません》

「それは一安心だな……」


 窓の外から射す陽の光が、いつもよりも眩しく見えた。




 ――




 あれから一週間が過ぎた。

 トーネリア魔法学校はリーアヴィル王国側と事態の収拾に向けた方向性の違いで、大きな軋轢を生んだらしい。

 特に第二王子のダスティルが出張ってきたせいで、余計にこじらせたそうだ。

 独立性を維持したい学校側と、これを機に学校の軍事利用を強めたい王国側。これでは全くの平行線で、話が進む機運などないだろう。永遠に揉め続けるか、どちらかが折れるしかない。


 そして学校側からは、浅ましくもシャロとメルセナを経由して俺に復学の要請をしてきた。内容は要約するとこうだ。


『この度は王国側の政治的謀略に巻き込まれた結果、我が校の生徒を危険に晒してしまった。それに対処してくれたシンクス殿に対する我々の態度は、恩を仇で返すようなもの。誠心誠意の謝罪の意として、貴殿を特別待遇で復学して頂きたく思う』


 とのこと。なんでこう権力者って言うのは上から目線なんだろうか。

 言うまでもないことだが、最初に王国側に対し屈服した連中が今更手のひらを返してきたところで遅すぎると言うものだ。

 そう都合よく利用されてやるほど、俺も間抜けではない。



 また、あれからメルセナも部屋の疑似ゲートを通って魔素の森の我が家に遊びにくるようになった。

 いや彼女に関しては遊びにくるというより――


『たった百年修行を積んだ程度で、私は驕っていました! どうか私に武術の稽古をつけてください! 師匠!』


 と、息も荒げに弟子入りを申し出てきたのだ。いくら断っても引き下がらないので、結局リーンがメルセナの師匠として稽古をつけることになった。

 ネゾーヌとの戦いの最後に自分がデュランダルを投擲したことについて、メルセナは全く覚えていなかった。本当に本能から人のためにあろうとしているその心は、美しいとしか形容できないだろう。フェンリルであるリーンの訓練の厳しさは異様とも言える難易度だが、メルセナは全力で食らいついている。

 リーンはと言うと……本気で遊べる相手が増えて嬉しい、と言う感じの表情だ。

 まぁWin-Winのような感じだし、良いとしよう。



「どしたの? シンくん。ぼーっとして」

「あぁ、ちょっとこの一週間のことを思い出しててさ」


 シャロも、相変わらずうちに遊びにくる日々だ。

 しかしそれだけではない。先の戦いでもっと力をつけたいと願った彼女は、今はアーニャに師事して魔法を学んでいる。学校では到底教わることのできないような高度な魔法理論に頭を沸騰させているが、それでもシャロは――


『今度何かあった時はちゃんとシンくんの役に立ちたいから、頑張るね!』


 と、こちらも必死で食らいついている。


 ううむ。二人とも意識が朦朧としてる中だったから覚えてないんだろうけど、二人の協力は間違いなく意味のあるものだったんだぞ――

 などと言うのは野暮だろう。

 本人が頑張ろうとしているなら、素直に応援してあげるのが友達だと思う。


「入学してすぐこんな事件が起こるなんて思わなかったよね。私、未だに現実味がないよぅ」

「そうだよな、俺も驚きの連続だったよ」


 王国は、学校は――ひとまず平和の顔を取り戻したが、それは表面上の話だろう。

 ネゾーヌの処分は秘密裏に行われ、公的には行方不明者として処理されたらしい。

 おかしな話だ。

 この件は、まだ終わっていないのかもしれない。真の黒幕が他に居たとしてもおかしくない。


 それでも――


「でもやっぱりシンくんはすごいね……! 私ももっと頑張らないと……」

「そんなに焦って頑張らなくても良いと思うぞ? シャロはシャロなりに頑張れば良いんだから」

「ううん! あんまりゆっくりしてたらシンくん取られちゃいそうだもん」

「ん? 俺が何だって?」

「ななななな何でもないっ、シンくんのバカ! エッチ!」

「なぜに?!」


 ぷくーっと頬を膨らませるシャロ。そういえば最初と比べてシャロの表情もどんどん豊かになっている気がする。それだけ打ち解けてきた、と言うことだろうか。


(そうだとしたら、こんなに嬉しいことはないよな)


 一陣の風が吹く。爽やかな日だ。

 ……俺は、この世界で出会った大切な人たちとの穏やかな暮らしを守りたい。

 この先もずっと。

 そのためなら、俺は何度だって世界に牙を剥く。

 三度目の人生、ようやく掴みかけた『本当の人生』をこんなところで手放す気はない。


 ま、とりあえず今は――こののんびりとした平和な日常を謳歌するとしよう。

最終話になります!

お読み頂きありがとうございました

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