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第19話 正体

 全員でダンジョンに飛び込む。中はがらんとした洞窟のよう。

 しかし四方から刺さる悪意と敵意のこもった強烈な視線。

 四人が背を合わせる。

 今世でダンジョン攻略をするのは初めてだ。

 だが、かつて――前々世で最強パーティと呼ばれたあの時よりも、今の方が心強く感じるのはなぜだろうか。


「魔物が来るでありますっ」「フィジカルエンハンス!」


 リーンが警告して先陣を切り、シャロが全員に身体強化魔法を掛ける。


「デュランダル――強制起動(アクセラレイト)!」


 そしてメルセナが刀の認証をし、抜刀。

 最後に俺は、


「起きろ――[黒雷瘴剣(ダインスレイヴ・マイズマー)]!」


 下位(サブディレクトリ)スキルを唱えると、黒い霧が雷を纏って実体化し、漆黒の長剣として手に収まる。

 まず俺たちの行く手を阻んだのは、オーガの群れだ。

 オーガと言っても、魔素の森に居るような友好的な印象は皆無。全員が赤い目を爛々と光らせ、暴力と殺戮の衝動に支配されている。

 当然、統率など取れているはずもない。奴らの脅威性はその高い暴力性だけであり、戦術・戦略性は皆無なのだ。


「たぁっ!」


 リーンがその圧倒な敏捷さでオーガたちの隙間を縫い、意識を分散させる。

 そして戦闘において、その間抜けな隙は致命的だ


「「せやぁぁぁっ!!」」


 二人の刃がオーガを薙ぎ払う。うん、[黒雷瘴剣]はエルフの勇者が使う伝説の刀デュランダルにも匹敵する威力を出せているようだ。

 そう、この剣は魔素の森を一部【帰伏】した時に瘴気の情報を習得したため、それを武器に転化したものだ。他に相性の良かった雷属性と闇属性も織り交ぜて、今の形になっている。


「みんな! 次の魔物が来るよ! マジカルヒーリング!」


 シャロが回復魔法を唱える。剣に吸われた魔素がかなり回復しているのが実感できる。流石シャロ、エールの聖女の二つ名は伊達じゃないな。

 次に天井を破壊して墜落してきたのは――ヒュドラだ。


「早速神話級の魔物のお出ましってわけか」


 メルセナとシャロが竦む。無理もない。

 以前魔素の森にマンティコアが出てきたことから、同等あるいはそれ以上の神話級の魔物と遭遇する可能性は高いと予想していた。


「だからこその[黒雷瘴剣]なんだよッ!」


 リーンと共に左右で挟み、同時に斬撃を加える。お互いに二本ずつ、計四本の首を落とす。

 フェンリルの闘争本能が刺激されているのか、リーンの碧眼はギラギラと輝いていた。

 そしてリーンから得たスキル[覇者の一柱]の恒常効果として、味方の戦意を高めると言うものがある。これは戦意を失っていない間はプラスに働くが、一度ゼロになってしまうと何を掛けてもゼロのままと言うのが欠点だ。


「リーン! このヒュドラは俺たちで始末するぞ!」

「了解でありますっ」


 リーンが更に高速で舞う。もはや目では追いきれず、残像すら出ている。ヒュドラの方も負けじと毒のブレスを吐いたり噛みつき攻撃を仕掛けたりしているが、全く見当違いの場所に命中している。


「そっちにばっかり気を取られてんじゃねえよ」


 剣を振るい、更に三本の首を切断する。剣に付与してある強力な瘴気は神話級の魔物に対しても有効なようで、通常であれば再生するであろう首が一切再生していない。


「わ……私は……私はもう……足手まといになりたくない!!」


 恐怖を振り払うように大声を上げるシャロ。


「二人とも避けてっ! エナジーエクスプロードっ!!」


 エナジーエクスプロード、これはこの世界で回復術師が使う数少ない攻撃魔法だ。戦闘範囲内に溢れている生命エネルギーを圧縮して炸裂させる、撃てる回数こそ少ないものの高威力の魔法だ。


『ギャアアアアアア……』


 残る二つの首に命中し、炸裂する。

 全ての首を失ったヒュドラは息絶えたかと思ったが、最後にごく小さな首を再生させ、まだ硬直しているメルセナに向かって射出した。


 ダメだ、シャロは攻撃魔法の反動で動けないし、俺もリーンも間に合わない!


「くっ……はぁぁぁっ!」


 万事休すかと思ったが、メルセナは飛来した首を寸前で斬り捨てた。

 まだ肩で息をしているが、命の危険に瀕して自らの力で恐怖に打ち勝ったのだ。シャロと言い、彼女たちの逞しさには目を見張る。


「この野郎が」


 胴体を剣で両断し、今度こそヒュドラは絶命する。急いでシャロとメルセナの元に戻ると、メルセナは顔を蒼白にしながらも言う。


「ははは……三人とも、流石、ですね……私も所詮は修行を積んだだけの素人、と言うわけですね……遠く及ばない……」

「何言ってんだ、初の実戦で神話級の魔物相手に戦えてるんだぞ。それだけで充分以上に凄いよ」

「シン殿……しかし私は、ヒュドラに怯えていただけで、何の役にも……」

「そんなことはない。味方が側に居てくれる――それだけで戦う力が湧いてくるんだ、メルセナはちゃんと役に立ってるよ」

「申し訳、ない……」


 己が一番己自身を咎めているこの状況で、外野ができることは全力で認めることだ。

 しかし、そんな俺たちを嘲笑うかのようにして、上空から一人の男が舞い降りた。

 ――黒の片翼。

 先のヒュドラも神話級の魔物だったが、コイツはその比ではない。リーンの顔にも緊張が走っているほどだ。当然俺にも怖気が走る。

 シャロとメルセナは、見るからに動悸を起こしていた。

 が。


魔法封界(ディスペル・フィールド)、起動……っ」


 シャロが懐から琥珀色の宝玉を取り出し、呟く。

 すると、今まで片翼の男が放っていた威圧感が軽減されていくのを感じる。

 メルセナの肩を抱きながら、安心させるようにシャロが言う。


「これは……多分、何かの、魔法、だから……これで少しは、防げる、はずだよ」

「すみません、シャロ……本当にずっと、私は……」


 メルセナの言葉を掻き消すようにして、腹を抱えて笑い声を上げる片翼の男。


「ケハハハハハハハハハハハ! ま~ったく、人間ってのは矮小で笑えるねぇ! そう思わないかい、キミ」

「……」


 挑発に安易に乗るような真似はしない。しかしこの男の声には聞き覚えがある――そうだ、ネゾーヌ・ゼマスだ。


「貴様、ネゾーヌなのか?」

「くくくくくくっ、だったら、どうするんだぁい? シンクス・リーアヴィルくぅん」

「どうもこうも、この場で殺すに決まってるだろう」

「ハッハッハッハハハハハハ! 素晴らしいジョークだ! こんなに心から嗤える日が来るなんて! 嗚呼、ありがとうルシフェル!」

「ルシフェル……?」

「そう! 僕はルシフェルと契約したんだ……そしてこの力を手に入れた……」

「何のために? 王国を支配するためか?」

「王国ぅ? くぅだらないなぁ! 僕は僕をバカにした貴様らを皆殺しにするために契約したのさァ!」

「……」


 ダメだ。話にならない。狂気に完全に呑み込まれているのに、凪のように正気だ。この男はルシフェルとやらに飲み込まれて――完全に壊れている。

 [黒雷瘴剣]を構え、斬りかかる。これ以上の対話は無駄でしか無い。

 しかし俺の斬撃は、黒く染まったネゾーヌの左腕にあっさりと防がれた。


「それ。闇属性だろう? 僕は闇属性の支配者なんだ。闇の頂点たる僕に、その攻撃は一切通じないよ」


 そして、右拳で剣を殴りつけてくる。


「ぐはぁっ?!」


 尋常じゃない威力だ。物理法則の外から攻撃されたような一撃。吹き飛ばされた俺は地を破壊し、深くめり込む。


「ははは! シンクス・リーアヴィルゥ! 無様無様無様無様無様無様無様無様ァ!!」

「その減らず口を閉じろ」


 ここで俺が攻撃の手を緩めるわけにはいかない。再突撃する時に横目で確認したが、シャロもメルセナの二人とも意識が朦朧としている様子だった。リーンが二人の身体を支えているが、この状況が長引けば例え無事に生き残ったとしても後遺症が残る可能性が出てくる。


「おやおや、学ばないねぇ? 効かないと言っているだろう。そんなに彼女たちが大切なんだねぇ? この僕を足蹴にした虫ケラは、誰一人として許さない! だが僕は寛容だァ。キミの望みどぉ~り、キミから殺してあげるよ」


 クソッタレ、本当に一切の斬撃が通用しない。


 剣をあっさりと払い、ネゾーヌが右手に魔力を凝縮させる。間もなくそれは一本の剣の形を取った。


「ぐぁぁっ?!」


 それに意識を取られた瞬間、強烈な衝撃波が腹部に炸裂し、またも地面に向かって成すすべなく墜ちていく。

 クソ、どうにかして対処法を考えないと本当に全員殺される――!


「死ねェ」


 地面に激突するより先に、ネゾーヌが手にしていた剣を投擲してきた。

 まずい、一瞬の思考のせいで反応が遅れた。これは確実に俺を殺す一撃だ、みんなを守るどころか先に俺が死ぬなんて――――


(ごめん、みんな――)


 死を目前にしても、視界に捉え続けていた三人。その中で、突然メルセナの身体が跳ねた。


「う、あぁぁあああっ!」


 メルセナがデュランダルを投擲する。すると、それは吸い込まれるかのようにネゾーヌの投げた剣に命中し、破壊した。


「なっ?!?!」


 困惑を露わにするネゾーヌ。

 九死に一生を得た。ギリギリで着地。反射的に掴んだデュランダルから、光の暖かさが伝わってくる。


(これは……)


 勝機が見えた。ありがとうメルセナ、君の強い意志が生み出した無意識の行動が、俺を勝利に導いてくれる。

 メルセナと目が合う。無論彼女の表層意識は、ほんの僅かしか残っていない。

 無機質な【世界知識】の声が響く。


《対象 メルセナ・パラロードに対し【魅了(チャーム)】を発動しますか?》

「ああ――【魅了】」


 そして、すまないメルセナ。この勝利のために、君にこのスキルを掛けてしまった。……懺悔は、戦いが終わった後にしよう。

 命令を念じる。

 デュランダルの使用権限を俺に委譲しろ。


「――――」


 次の瞬間、デュランダルの全ての情報が脳に流れ込んでくる。今だ――


「反転――[雷華楼剣(エンダート)]!」


 デュランダルと[黒雷瘴剣]が消失し、手にカッと熱が宿る。

 そして、一振りの光の剣が現れた。

 ネゾーヌは、未だ事態を把握できていないようだ。先の一撃に余程の自信があったのだろう。


「その傲慢が貴様の敗因だ! 消えろ――ッ!!」


 光の速さで吶喊し[雷華楼剣]を突き立てる。ネゾーヌは断末魔すら上げる余地すらなく、光によって掻き消された。

次話は明日18時更新です!

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