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第16話 楽しい食事と、そして

 ――


 満足に調理できたバーベキューだが、結論から言うと、大好評だった。

 特に、錬成魔法を応用して試しに調合してみた焼肉のタレ(試作版)が特に大好評。

 オーガの頭領など、あまりの旨さにフェンリルもびっくりの咆哮を上げていた。


「シンの兄貴ィ! こいつぁ一体どういう魔法なんだ!? 味が……味がたまらねぇぜ!」

「どういう語彙力だ。これは焼肉のタレっつってな、焼いた肉につけたりかけたりするとバカうまくなる魔法なんだ」

「のうシンよ? アホに付き合ってアホなことを抜かすでない。妾もこれは気に入った。どう作ったのじゃ?」


 アーニャがなぜかぴーったりと密着してきて、色っぽい声で聞いてくる。


「これはルンガの実を見て思いついたんだけどな、焼肉のタレは甘味と塩味、それに油分と少量の薬味があればそれっぽいのは作れるんだよ。醤油が一番面倒だったけど、錬成魔法で何とか及第点ギリギリのはできたんだ。で、後はそいつらを良い感じに調合して――って酒臭っ?! アーニャ、いつの間に酒なんて」

「もちろん、今の間じゃぞ~ぅ。ふふふ。珍しいおのこめ、逃さぬぞ~」

「うわぁ落ち着け酔っ払い! 森の主様だろ! しっかりしろ!」


 ばっとアーニャから距離を取るも、背後に強い気配を感じる。しかも二つも。


「シンく~んっ!!」「マスタ~~っ!!」


 降ってきたシャロとリーンに押し潰される。二人とも顔が紅潮している。まさか、二人とも酒……!?


《この世界では、人間は十歳で成人扱いで、魔物と魔族に成人と言う概念はありません。よって、ここにいる全員、何を飲んでも構いません》

「成人するのが元服より早い?!」

《それと追加情報ですが、シャーロット様のご年齢は十四です》

「意外と上なんだな。って魔法学校の入学年齢は基本十四だったか」


 俺がポップアップさんに気を取られていると、完全に酔いどれなシャロが顔をむぎゅうと掴んでくる。


「もぉ~! どこ見てるのっ、もっと私の方見てよぅ、シンくん~」

「わぁぁっずるいでありますずるいであります! リーンの方も見てでありますっ」


 横からはリーンがぎゅぅっと抱きついてくる。なんでここの女性陣はこう酒癖が悪いんだ?!

 一方でオーガたちはと言うと、あまりにも焼肉のタレが気に入ったようで、生肉に直接つけて豪快に頬張っていた。うぇぇ、人間経験の長い俺にはきつい光景だ。


「こうなったら俺も飲む!」


 見回すと、元凶はやはりアーニャらしい。いくつも並べられたワインボトルにスターロードの姓が刻まれている。

 くっついてくる二人を何とか引き剥がし、ワインに辿り着く。


「異世界のワイン、どんな味なんだろう」


 興味本位で飲んでみたが……。


「うまっ?!」


 想像以上の旨味だった。この世界にそんな高度な醸造技術があるのか? それとも魔法の力なのか?

 真実を確かめるべくワインボトルのラベルを見る。そこには手書きで『二百年もの』と書かれていた。


「……なるほどな?」


 つまりこれは魔法に加え、エルフだからこそ可能な時間による熟成の暴力と言うわけだ。となると本数も限られてるだろうな……。


「なのにみんなして飲みすぎだろ!?」


 こういう貴重な酒はちびちび楽しみのが道理なんだよ! ……と言う俺の心の叫びは、無論どこにも届かない。無念……!


「ふん、酔いどれどもめ……俺は薪バーベキューを極めてやるんだ……全くみんなして酒に溺れるとは」


 別に悪いことじゃないけど。みんなでバカやって酔えるってのは良いことだ。


《およそ十歳の外見で言って良い台詞ではありませんね》

「ここぞとばかりに話し相手になってくれるポップアップさん!」

《マスター、相当酔っておられますね》

「たりめーよ、二百年もののまともなワインなんて異世界じゃなきゃ飲めないからな! 大体俺はスライムなの! 見た目は子ども、中身は魔物!」

《はいはい。お肉が焦げますよ》

「おぉっと危ない」


 俺もその酔いどれの一人として、残りの食材を飽きるまで堪能した。



 ――



 好き放題飲み食いした翌日。その場で眠りこけた俺たちは、昼過ぎになってようやく目を覚ました。


「うー、頭痛い……」

「ずきずきするですぅ」


 テーブルには『昨日はありがとう。オーガたちは先に帰しておくよ』とアーニャの書き置きがあった。


「一気に飲むからだ。ほら、あっさりめに作った野菜スープだぞー、うまいぞー」

「スープ~、のむー」「のむですう~」

「ほい。熱いからゆっくり飲むんだぞ」

「「はーい」」


 そうして口元までカップを運んだ二人は、その匂いに釣られてずずぅと飲んでしまう。


「「あっつ!」」

「言わんこっちゃない」


 予定調和とはこのことか。


 スープを飲み、ふぃぃ~と落ち着く二人。

 しばらくした後、シャロが寂しそうに独りごちる。


「毎日ここに来たいなぁ……」


 俺はなんて返すべきか躊躇してしまった。腐ってもここは魔素の森の深層エリア。真実が人間の常識と全く異なっている以上、安易に他人に明かすのは得策ではない。

 そうなると、この場所まで高頻度で来ると言うことは――何度も一人で魔素の森に潜っている頭のおかしい人間、と言うことになってしまう。そんな目立ち方をすれば、どうなるか分かったものではない。国家機関であるトーネリア魔法学校は、所詮王国の狗だ。それに俺と同行していたシャロが怪しい動きをすれば、拘束・送還だってあり得るだろう。


 そんなことになれば、余計会うことは難しくなる。


《……設定完了。対象 魔素の森 当邸宅区域を【帰伏(テイム)】可能です。実行しますか?》

「今更テイムしてどうなるってんだ」

《はい。【帰伏】することにより、当邸宅区域を定義上迷宮化します。それによりダンジョンゲートが生成可能になります》

「ふむ、それで?」

《そのダンジョンゲートをシャーロット様の寮の自室に展開、彼女の意思表示によってのみ展開されるよう設定することで、当邸宅への瞬時の移動が可能になります》

「どこで◯ドアじゃん!?」

《その通りです》


 心なしか、ポップアップさんが誇らしげな声で喋っているように聞こえる。


「それが出来るなら一番だよ! しかしダンジョンゲートを任意の場所に展開するなんてできるんだな」

《はい。その設定に時間を要しました。現状のスキルの範囲内ですと、まず【魅了】によって生成済みのビーコンを起点とし、[覇者の一柱]によってその座標の揺らぎを抑止します。それから――》

「うん、難しいことはとりあえず置いといて! つまりシャロは誰にもバレずにここに来れるんだよな?」

《その通りです》

「よし! なら迷うことはないだろ! 【帰伏】!」


 巨大なスキルマーカーが、家を包み込む。そして数秒黄金色に煌めいた後、すっと消えた。


《完了しました。また、同時にシャーロット様の寮の自室にダンジョンゲートも生成致しました》


 おぉ、凄いな。これで解決って訳か。


《詳細はシャーロット様に直接送信致します》

「ふぁぅ?! 頭に何かイメージが……え、ゲートと、お家が……え~?!」

「ま、そういうことだ。今後は楽に来れるよ」

「やったぁ……! 嬉しいな」


 今までで一番ではないかと思えるほどの柔らかな笑顔だ。


「って待てよ、今後は良いとして、今日は……? 朝帰りどころか昼帰りだぞ!?」

「ん? どしたのシンくん」

「シャロ、昨日寮に帰ってないよな、もしかしてこれってやばいんじゃ……」

「昨日は元々、荷物がある別のホテルに泊まる予定だったから事前に外出申請してあるんだ」

「ほっ……なら良かった……」

「あ、でもホテルの人には謝らないとだ……どうしよう……」


 その時、ひらりとテーブルからアーニャの書き置きが落ちる。なんと裏面には『シャロちゃんのホテルについては妾が都合をつけておいた。安心して戻ると良いぞ』と追記してあった。


「よかったぁ~」


 へにゃりと座り込むシャロ。

 神様主様アーニャ様! 俺も完全に失念していたから、本当に助かった。


「じゃあシャロ、今日はひとまずこの辺で。ゲートで帰ると寮に出ちゃうから、リーン、街まで送ってくれるか?」

「もちろんであります!」

「今度はシャロが気絶しないように気を配るんだぞ」

「はいです!」

「シンくん色々ありがとう、アーニャちゃんにもありがとうって言っておいて」

「おう」

「またねっ!」

「またな」


 そうして、異世界にて三度目の生を受けた俺の、長い長い転生初日が終了した。


 だが―――リーアヴィル王国では、不穏な動きが続いている。

 それは今の俺には知る由もないことだったが、間もなく巻き込まれることになるのだった――

次話は明日18時更新です!

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