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第15話 みんなでバーベキュー

「んぅ……ここは……」


 いざ火起こしに掛かろうとしたところ、シャロが目覚めたので俺は飛んでいった。


「シャロ! 大丈夫か?」

「ん……? あれ、シンくんだぁ……ふにゃ……」

「あぁおい抱きつくな苦しいむごご」

「あー! シャロさんずるいでありますぅ!」

「うわぁ! リーンまで抱きついてくるんじゃない! 潰れるうぅ」

「じゃれあいでありますな~っ」

「違ううううう」


 寝ぼけまなこのシャロと勘違いしたリーンに上下から挟まれ、天国の中で死ぬ俺を尻目に、アーニャが「主様たる妾がこのこんろとやらの謎、見事解いてみせよう! ずばり薪とやらをこの辺に入れて、こう火をつけるとみた」などと嬉しそうに独りごちながらせっせと火の用意を始めている。

 くそう! アーニャの奴、まさか満点の正解を出しやがるとは……! バーベキューの火起こしと言えば男の役割だって前世から決まってんのにいいい。


「わぁっ、ほんとにシンくん?!」

「はい、ほんとにシンくんです」


 じゃれついてくるリーンを退かすと、正気に戻ったシャロが目を丸くした。


「えぇっ、でも、シンくんは学校を追い出されて……それで……危険な魔素の森に一人で……私、もう会えないんじゃないかって……うぅっ」

「何言ってんだ、落ち着いたら連絡するって言っただろ?」

「そうだけどぉ、そうだけどぉ……!」

「まぁとりあえずルンガでも食べると良い。うまくて気分もよくなるぞ」


 まだ何か言いたげなシャロだったが、キリがなさそうだったので手頃なサイズのルンガを口に放り込む。

 もしゃもしゃと反射的に咀嚼した後ごくりと喉を鳴らし、ぱぁぁぁっと笑顔を煌めかせた。


「ひゃ~~~~っ、おいしい~~~っ!」

「だろ、俺も最初に食べた時はびっくりしたよ」

「シンくんシンくん、これ何の果物?」

「ルンガ、って言うらしいぞ」

「え?! ルンガって……お母さんから聞いたことあるけど……もう百年以上前に絶滅したって言う幻の果物だよ?!」

「そのルンガがこちらにたくさんあるわけですよ」

「う、うそ……一回食べてみたかったんだ……幻の果物……待って待って、さっきは何となく飲み込んじゃったからもう一個味わいたい! 食べても良い?」

「もちろん、好きなだけ食べても余るくらい採ってきたから大丈夫」

「やったぁー!」


 目を輝かせながらルンガに飛びつくシャロ。なぜかついでにリーンも一緒にもぐもぐと食べ始めた。

 ま、二人が笑顔なら採ってきた甲斐があるってもんだよな。美少女二人が元気に果物を頬張る姿はなんというか、程よく野性味があってすごく可愛い。


「何をニヤニヤしておるのか、シンよ」

「うぉ?! だーから、気配を消して突然声掛けるのやめてくれって」

「ふふふ、気付けるようにせいぜい精進することじゃの。ほれ、ばーべきゅーこんろととやらはこれで準備完了なんじゃろう?」


 見ると、満遍なく薪に火が行き渡り、コンロは準備万端になっていた。

 ……見せ所を取られてしまった……!


「いや、まだ調理が残ってる!」

「もちろんお主にも花を持たせてやるつもりじゃから安心せい。女の前で格好いいところを見せたいと言うのは、男の性じゃからの」

「よっしゃ、見てろよ」


 これでも多少は料理の心得があるのだ。サラリーマンもある程度やっていると、一人の外食にも飽き、単純な冷食にも飽きるもの。

 すると、ある日突然料理に目覚める日が来る。


(使わないまま終えた調理器具も結構あるけどな……)


 残念な過去を振り返っても仕方がない。重要なのは今だ。

 バーベキューは焼く順番が大切。火の通りの悪いもの、及び味の薄いものから焼く、これが鉄則だ。

 今回は炭ではなく、薪を適度に燃やしながら火力を調整する。……のだが、この調整がまず難しい。だが薪でうまく焼ければ、炭で焼くよりも濃厚な味わいになるのだ。ちょっとした挑戦にはなるが、せっかく異世界のものを食べるならより旨く食べたいと思うのが人情だろう、と言うことで臨んでみた。なお肝心となる初期の火力調整はアーニャがしてくれているので、後は適宜調整するのみだ。


「まずは野菜だな」


 採取をしていて驚いたのだが、この魔素の森には普通に前世で見慣れた食材が自生している。畑で大量に生産されている様子の記憶しかなかったから新鮮だった。ルンガのような特殊な植物は、むしろ珍しいものなのだそうだ。


 食べやすいサイズに切った人参、ピーマン、とうもろこしを網に乗せる。端には、大きく切ったダンジョンボアの塊肉を乗せる。じっくり遠火で焼くことで低温調理に近い旨味が出せる。

 ジビエ肉は臭みが一番の不安材料だが、ダンジョン産の魔物は魔力を当てて肉内部の魔素を打ち消すことで、臭みも消えるらしい。もちろん俺の知識ではなく、ポップアップさんこと【世界知識】の教えだが。臭み取りが楽なのは良いことだ。


「おいしそうな匂いです~っ!」

「お腹空いてきたね、リーンちゃん」


 ちらりと二人の方を見ると、すっかり仲良くなったようだ。リーンはシャロの膝の上で頭を撫でられており、アーニャはその隣でルンガを絞ってジュースにして飲んでいた。いつの間にか三人が打ち解けている。

 平和な光景だ。

 未開の地、などと恐れられている魔素の森でまさかゆったり大自然バーベキューが行われているなど、王国の奴らは考えもしないだろう。こんな深層エリアまでわざわざ捜査に来るものなどいようはずもないし、実質的に俺は自由を手に入れたことになる。


(こういう生活を守っていけたら良いな)


 ふと微笑みが漏れる。前世で死んでからまだ一日も経っていないだろう。魔素の森に来るまでは他人に良いように転がされていたが、運良くここに辿り着けた。改めて思うと、自分の幸運には感謝せざるを得ない。


「そうだ! アーニャ、家を建てるのを手伝ってくれたオーガたちが居るんだが、彼らを呼ぶことってできないか? せっかくだからみんなで食べた方が美味しいかなって思ってさ」

「ふむ、呼び寄せることは可能じゃが。主らはそれで良いのかえ?」


 そう言ってシャロとリーンを一瞥する。

 リーンは元気に頷いていたが、シャロは困惑していた。


「え、オーガ……って魔物の……?」

「あぁそうか。シャロ、お主はこの魔素の森の真の生態を知らんのじゃったな。この森の魔物は人と同様、集落を作り交易をして暮らしておるのじゃよ」

「そ、そうなんだ……? でも、私魔物と話したことなんてないよ」

「人間と魔物では言語魔法の構成が異なるからのう。お互いに理解できんのじゃよ。全くもって邪魔なプログラムじゃ」


 そうか、俺は魔物と人間に片足ずつ突っ込んでるから何の違和感もなかったけど、普通はどっちかだもんな。


「あれ? じゃあアーニャたちハイエルフとかは何なんだ?」

「ハイ〇〇とつく種族は、魔物ではなく魔族じゃの。人間と魔物の中間になる。故に両方の言語魔法を備えておる。稀有な種族ではあるがの」


 なるほど。じゃあシャロが魔物の言語魔法を習得するのは難しいか……。


《マスターから魔物の言語魔法を複製し付与することで、シャーロット様も魔物と対話可能になります》

「そんなこと出来るの?」

《はい。【魅了】の副効果で、術者から被術者に対して強制的に情報を付与できます》

「強制って。なんか物騒だな」

《人間と魔物の言語魔法には、互いに干渉し合い両立できないように設定されています。よって、単に魔物の言語魔法を掛けてもブロックされます。マスターのスキルは魔法の概念の外にありますので、干渉プログラムに邪魔されることなく言語魔法を付与できます》


 やっぱスキルってとんでもねぇな……。


「シャロ! 俺がその言語魔法を掛けるよ」

「シンくんが?」

「ああ」


 命令を念じる。

 魔物の言語魔法をシャロに付与。


《命令が入力されました。設定中……完了。対象 シャーロット・フォン・エクラレインに、魔物の言語魔法をインストールしました》

「んぅ、頭に何か入ってくる……」

「それが魔物の言語魔法だ。もう理解できると思うぞ」

「うん!」


 その時、オーガの群れがどやどやとやってきた。


「おーう! シンの兄貴! 主様から通信受けてやってきたぜ! 何、メシごちそうしてくれんだって?!」

「あぁ、家をこんな早く建てられたのもみんなのおかげだからな」


 すると、話しかけてきたオーガの頭領がシャロの方を振り向き、ニンマリとする。一方でシャロは、またも目を丸くしていた。あ、この様子ならちゃんと魔物の声聞こえてるな。


「なんだァ、シンの兄貴ぃ、奥方連れとは恐れ入りやしたぜぃ」

「お前もそれ言うのか?!」

「んん? だって、お二人共同じ匂いがしやすぜ」

「えぇっ、シンくん、私匂うかな?!」

「安心してくれシャロ、物理的な匂いの話じゃないから。ってシャロは……その……友達だよ! 友達! 奥方とかじゃないけど、大事な人には変わりない。くれぐれも変なことはするなよ」


 シャロが目の前にいる状態でこういうことを言うのは少し照れくさいな。


「ほほん、二人とも、顔が赤くなっておるぞよ?」


 意地悪そうな声でアーニャが言う。


「「赤くなってない!」」


 綺麗にハモってしまった……!

次話は明日18時更新です!

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