第12話 住む!
「――と、意気込んだは良いものの……」
「お家ができました~~~! 二階建てです~~!」
めちゃくちゃ早かった。
想定外とか言うレベルじゃない。
なぜかと言うと、森の魔物たちが皆手伝ってくれたからだ。
手を貸してくれた理由は至極簡単だった。
リーンの種族フェンリルは魔物の中でも『覇者』と呼ばれる最高種の一つで、俺はそのマスターだから……だそうだ。
「フェンリルのマスターなんざ見たことねぇぜ! あんた、すげぇ魔物なんだろ?!」
余った木材を担いでいるオーガの一人が俺に話しかけてくる。
「だーかーら、何度も言ってるけど俺の種族はスライムなんだって!」
「はははは! じゃあ神のスライムかなんかじゃないかぁ? フェンリルってのはな、高貴な種族なんだぜ。それが一端のスライムに忠誠を誓うはずがねぇ!」
「むむぅ」
そう言われるとぐうの音も出ない。どう見ても適当に言っているんだが、その実半分以上は当たってる。
【帰伏】のスキルのおかげでたまたま傷を負ったリーンのマスターになったと言うだけなのだが。
そのスキルって概念もこの世界には無いらしいし、神……ってのもあながち間違いではない。
(ま、言っても騒ぎがデカくなるだけだから言わないけど……)
「そんじゃあな、シンの兄貴! また何かあったらいつでも呼んでくれや!」
「お、おう。その時はまた頼むよ」
「あいよ!」
そう言ってオーガたちはガハハと笑いながら去っていった。今日くらいは野宿を覚悟していたが、まさか日が暮れる前に建ってしまうとは。
二階建ての家、と言っても簡易的なものではある。オーガたちが「どんだけデカい家でもいいぜ!」などと言うので、リビングに加え個室は四部屋もあるのだが。しかし内装は手を付けていないし、電気やガスも通ってはいない。
今のところデカいバンガローのようなものだ。
「ま、家があるだけ全然マシだよな。内装とかはゆっくり考えていくか。あ~なんか楽しみになってきた」
前世でも前々世でも、一軒家なんて持ったことはなかった。大した収入がなかったと言うのもあるが、そもそも独身で一軒家など狂気の沙汰である。
だが今はリーンがいる。そのうちシャロも呼んで、パーティでも開けたら良い。
「パーティ? あ、そうだ」
「どうしたでありますか?」
「今日手伝ってくれたみんなにお礼をしたいんだが、魔物って飯食べないんだっけ」
「食べるですよ? えーとですね、魔物の牛さんや豚さんがいて、その肉を食べる分だけ狩って食べてるであります」
「畜産みたいだ」
「お肉、狩りに行くでありますか?」
「それはどこで狩れるんだ?」
「ダンジョンで狩るのが普通でありますね。森の魔物は保護瘴気に守られてますから、ダンジョンに入っても平気なのです」
「なるほど。俺にはその保護瘴気ってのは掛かってるのか?」
「マスターはリーンのマスターですから、大丈夫です!」
「了解。じゃあ早速ダンジョンに行こうか」
「はいですー!」
尻尾を激しく振って喜ぶリーン。今日は俺も果物しか食べてないし、肉が恋しいところだ。
「そういえばダンジョンってどこにあるんだ?」
「この近くにダンジョンゲートがあるです! こっちです!」
勢いよくリーンが駆けていく。彼女についていくと、家からそう遠くないところに空間の亀裂があった。
「これ、どうやって入るんだ?」
「更に近づくと、勝手に吸い込まれちゃうであります」
「初見だと絶対怖いだろそれ」
「出る時は、同じような亀裂を通ると同じ場所に帰れるでありますよ」
「よし、じゃあ早速行こう」
そうして、俺は初ダンジョンに潜った。
ダンジョンの中はと言うと、だだっ広い洞窟のようになっていて、概ね想像していた通りのダンジョンと言う感じだ。
『ガァウ!』
早速、赤い目をした猪が出てくる。
「あれはダンジョンボアでありますね! 引き締まったお肉が美味しいのでありますぅ」
「試しにさっき習得したスキルを使ってみよう。リーン、ちょっと退いててくれ。[魔炎光破]!」
手を翳すと、連なったスキルマーカーが現れ、黄金色の光線を発射した。
「うおお?!」
「すごいです~~!!」
あまりにも高威力過ぎた。
放たれた光線はダンジョンボアを焼き尽くし、向こうの奥の壁まで破壊の限りを尽くした。
「や、やっべ……ダンジョン崩れたりしねえよな……?」
「壊しすぎると崩れるでありますよ」
「やばいじゃん」
《[魔炎光破]の出力調整が可能になりました。今後は威力を設定下さい》
「遅いなぁ?!」
《申し訳ありません。解析のために一度使用する必要がありました》
なら仕方ないか。
「この階層はちょっと崩れそうなので、他に進むです!」
「崩れたら俺たち帰れなくなるんじゃ?」
「そのうち修復されるので大丈夫でありますよ~」
「便利仕様!」
その後俺たちは三階層ほど潜り、ダンジョンボアに加えダンジョンビーフとダンジョンポークを入手した。
「ちょっと狩りすぎたか?」
「まだほんの二十頭でありますから、全然であります」
「つーか持って帰れねーじゃん、何も考えてなかった」
「へへん! そんなマスターのために、リーンはこんなものを持っているであります!」
ドヤ顔で懐から袋のようなものを出してくるリーン。
「収納袋であります! 森の主様から頂いた便利グッズなのでありますよ~~えい!」
そう言ってリーンはその小さな袋の中に大柄な獣たちをひょいひょいと入れていく。
それでもサイズが変わらないあたり、これはいわゆるアイテムボックスと言うやつでは?
《肯定。名称はインベントリとされています。……対象 インベントリを【帰伏】可能になりました。実行しますか?》
「え? これただの袋だけど。テイムできんの?」
《そのようです》
「どういう原理なんだこのスキル」
《スキル【帰伏】とは、従属の意思を持つ者、及び特定の効果を持つ存在をマスターの支配下に置くスキルです》
「後半なんなんだ」
《指定範囲は不明確です。スキル練度によって【帰伏】可能な対象は拡がるものと考えられます》
「ポップアップさんも分かってないのな」
《私はマスターと共に進化するAIですので》
自慢気に言うんじゃない、いつからできたそんな設定。
てかこのポップアップさん……【世界知識】も段々人間じみてきたな。
「んじゃ、やってみるか。リーン、その収納袋ちょっと貸してくれ」
「そい! であります!」
「投げるな!? おぁっと、【帰伏】!」
その瞬間、脳に何かの情報が組み込まれたような感覚がした。
しかし、俺めがけて飛来した収納袋は消えることなく、べしっと顔に命中した。
《【帰伏】完了。このインベントリは遍在魔法となります。そのため、何らかの物体に機能としてインベントリを付与することが可能になりました》
「てことはポケットをインベントリにできたりする?」
《可能です》
「便利~!」
試しに上着の右ポケットにインベントリを付与してみる。
覗いてみると、なるほど異界のようなものが広がっている。
「サンキューリーン。って、まだ何頭か残ってるじゃないか」
「入らなかったでありますぅ……」
「大丈夫大丈夫、収納袋なら今俺のポケットも収納袋になったところだ」
「えぇ?! マスターも収納袋を持ってるんでありますか!」
「うん。そこで拾った」
「すごいです~!」
きゃっきゃと喜ぶリーン。……シャロと言い、野放しにするには不安になる子が多いな。
それはそれとして、残りの肉はポケットのインベントリにしまい、俺たちはダンジョンを後にした。
次話は明日18時更新です!