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第11話 深層エリアへ


 ――


 俺はリーンに連れられて、森の奥へ奥へと進んでいた。

 ポップアップさんこと【世界知識(ナレッジ)】にはありがたいことにマッピング機能がついており、俺自身と俺がスキルを掛けた対象が通った道についてはマッピングされているようだ。


「魔物って案外おとなしいんだな」


 道中何度も魔物とすれ違ったが、どの魔物も敵意を向けてくるようなことはなかった。

 生態系は複雑なようで、言うなれば動物園の動物たちが普通に街を闊歩している、と言った具合か。


「魔素の森の魔物は敵意を向けなければ襲って来ないのでありますよ」

「意外と平和なんだな」

「当然であります! この森は、魔物を暴走させる迷宮瘴気が無いでありますからね」

「迷宮瘴気? この森も瘴気みたいなもので覆われてると思うが、それとは違うのか?」

「全然違うのでありますっ。森の瘴気は正しくは瘴気ではなく、侵入者に恐怖を与える魔法を付与した魔素の霧のようなものなのです。主様は確か……保護瘴気って言ってました!」

「ほー。それでこの森は冒険者から迫害されることも少ないって訳か」

「そうなのであります! それで迷宮瘴気と言うのは、ダンジョンに湧いている瘴気でありますね。こっちは魔物の理性を壊し暴走させるこわーい瘴気なのであります」

「森の魔物とダンジョンの魔物は違うのか?」

「元は同じみたいなのであります。普通ダンジョンは異界そのもので、こっちの世界には扉しかできないのでありますが、魔素の森はなぜかダンジョン自体が世界に展開されてしまったよーなのであります」

「ふうん。バグみたいなもんか。しかしリーンはよく知ってるな」

「マスターの従者になってから頭が冴えるようになったであります! リーン、ずっと落ちこぼれとかバカとか言われて、悲しかったであります……それでこの前はドジっちゃって死にかけたのでありますが……マスターのおかげで、頭も良くなったのであります! えへへ、おかげで役に立ててるなら嬉しいのです!」

「うんうん。偉いぞリーン。てか【帰伏(テイム)】ってそんな副効果もあるのか」

《ありません》

「無いんかい!」

《おそらく、リーン自身が心理的に作っていた枷が、マスターの【帰伏】によって壊されたものと考えられます。彼女には、マスターと言う存在が必要だったのかもしれません》

「そういうもんかねぇ」

「? マスター?」

「いや何でもない」

「あ! 見えてきたであります!」


 見えてきたそこは、見晴らしのよい草原だった。この一帯だけ木々がなく、陽の光が燦々と降り注いでいる。緑豊かな公園を遥かに巨大化したもの、と言えよう。

 人型の魔物はもちろん、コカトリスやケルベロスと言ったファンタジー生物まで――家族でのほほんと日向ぼっこしていた。奥には俺が先程戦ったマンティコアのような魔物もいる。散歩をしているようだ。

 が、ここに居る魔物はサイズが幾分か小さい。まるで放し飼いの動物園だ。


「何これ? めっちゃ平和なんだけど?」

「もちちんなのでありますよう、森の主様が頑張って平和にしたってパパが言ってたのです!」

「ぬしさま?」

「はい! リーンはまだ会ったことはないんですけど、森のみんなは主様のことがだいすきなのです!」

「いい主なんだな」

「はいです!」


 率直に言って、驚いた。前々世で魔物と言えば、魔王が従えている存在で、人類の脅威でしかなかった。前世は魔物のいない世界だったが、ゲームやアニメで魔物が描かれているのはよく見た。しかし基本的には敵として描かれていた。


「これって、俺が人間だったらこうはいかなかったのかな」

《肯定。マスターの種族はスライムであり、彼らと同じ魔物と判断されている模様。人間は体内に魔素を生み出す器官がありません。この器官はフェロモンのようなものも生成しており、これを使って魔物は敵味方を本能的に識別します》

「マジか。っつーことは、下手に政治の陰謀渦巻く王国からはとっとと追い出されて良かったかもな」

「マスター!!」


 リーンが大声を上げる。そして、耳と尻尾をぴょこぴょこさせながら言った。


「ここにお家を作りましょー!」

「お家?」

「はいです! リーン、王国に行って思いました。人間の住んでいる建物はすごいなーって! だからリーンもそこに住んでみたいのです!」

「ふむ」


 誰もいない草原の真ん中に建つ一軒家、そして可愛い従者が一緒、と。

 俺の脳内に、これまで思い浮かべては消してきた一つの生活スタイルが再び形を取る。


(図らずもこれは……スローライフ生活ができるんじゃないか!?)


 思えばこれまでの二度の人生、うまくいかないことばかりだった。良かれと思ってやってきたことはどれも裏目に出て、最終的には無様な死を迎えた。

 だが三度目の正直とはこのことなのだろうか?

 本音を言えば、間違えて種族でスライムを選んでしまったこと、その後間もなく王子の姿になって死ぬような思いをしたこと、更には政治的な陰謀に巻き込まれて即刻退学になったこと――


 今回も前途多難なのかと、半ば諦めかけていた。


 でも、そうじゃないのかもしれない。


「よし! リーン、家建てるか!」

「はいです~~!」

「せっかく作るんだからデカい家にしよう」

「やったです~! マスターとお家に住めるの、嬉しいです~!」


 決めた。今世は好きに生きてやる。

 せっかくチートスキルも貰ったんだ、あれこれ悔やむより有効な使い方を考える方が有意義だろう。

 何となくの勘でしか無いが、この場所――魔素の森は、きっと俺の人生を好転させる。

 今は、その第一歩だ!

次話は明日18時更新です!

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