5話"知ってる顔"
ずっと屋内にいたから気が付かなかったがおそらく昼時だろうか、慣れない香りだが香辛料と焼いた肉の香りに腹の虫が鳴る。
「飯も食いたいけど先に準備しないとな」
ゲームなら必要な物はなんとなくで用意出来るけど自分の命は一つ限り。ゲームみたいに戦える訳じゃないし、コンテニュー出来るわけでもない。中途半端の知識で行くのは危ないし
どうしたものかと悩みながらも街を眺めていると、一つの建物が目に入る。コンビニのような建物なのに似合わない木製の看板にはでかでかと「四葉魔道具店」と書かれている。
「言葉は通じるんだし、行くだけ行ってみるか」
外装にミスマッチな木製の扉を開くと中は驚くほど広く美しい。本棚にはビッシリと本が並べられていて、まるで天井を突き破るほど高く
「んー?」
外との違和感に店の入口であれこれ考えていると奥から店員と思われる人が出てくる。
「その反応、ここは初めてかな?まぁセンガのど真ん中に建ってるからそんな人ばっかりだけど、て、あれ!?」
自分より少し背の高い彼女はこちらをまじまじと見つめる。扉をくぐると見えなかった顔が光に照らされる。
「あっ!瑞樹!」
「音…倉なのか?」
「そうだよー!四葉だよ!」
カウンターを乗り越えてこっちに駆け寄るクラスメイト。ここに来てまだ2日程度だったが、知った顔を見つけ顔が綻ぶ。
「え!?ちょっと泣いてるの?大丈夫?」
…
「めっちゃ恥ずかしい…」
「仕方ないよー、知らない場所に放り出されてずっと1人だったんでしょ?」
「ずっとって言っても2日だけどさ」
「2日?瑞樹はここに来た時どこにいたの?」
「ここからずっと北東の森?だと思う」
メカシさんに見せてもらった地図を思い出しながら話す。
「あー、あそこね。よく生きてたね」
「シ…旅人に助けて貰ったんだ」
「優しい人で良かったじゃん、冒険者って変なの多いから」
「へー、そうなんだ」
しばらく気を落ち着かせる為に当たり障りのない話をしているとパーカーのポケットから財布が落ちる。
「─まさかキミに限って無いとは思うけど変な仕事に手出したとかじゃないよね?」
「違う!違うって!これはえっと…その」
ツバキの事は隠しながら仕事について話した。
「相手の事もよく分からないのに受けたの!?」
「そりゃこんな世界で野宿なんて死にそうだし…」
「だからってさぁ…分かった、私も行くよ。どうせ私も用あったし」
「ごめん、助かる」
「謝んないでよ、キミが向こう見ずなのは昔から知ってるし。んで、何が必要なの?こっからは商売だよ、へへ」
さっきまでは友達として見えていた音倉が大きく見えた。普段は優しそうに振る舞っていても、やる時はちゃんとやるやつだって事を思い出す。
「何て言うか…そっからが分かんなくてさ。武器とか防具とかアイテムとか、何が必要なんだ?」
ここに来てからこれといった情報も無いため、全て任せる。シガーさん達に教えてもらった事は基礎的な話だったし
「うーん、じゃあこっちで適当に見繕うね。予算はどれくらいある?」
「金貨が20枚だから…どれくらい?」
「内容からして結構貰ってるとは思ったけど、2000ルクか。討伐隊でも無い限りはこれだけで1ヶ月は生活出来るよ?それを会ったばかりの人に…なんか気になるなぁ」「ははは…」
音倉の趣味に付き合わされながらも準備を整え、出発…となるはずだったが不意に腹の音がなる。
「ん?お腹減ってるの?」
「先に準備をしようと思ってたんだ。それに慣れてない所で飯屋探すのも怖いし…」
「じゃ、まずはどっかでご飯食べよ!おすすめのところあるから!」
と腕を掴まれ、外に連れ出された。
連れて来られた店でおすすめのメニューを文字通り噛み締めながら食べた。ドラゴンの肉らしい。
「かってぇ…」