3話"ねじれた時間"
だだっ広い平原で2人の少女は竜を見下ろしていた。
「今回の依頼は簡単だったね!」
一方は自身の背丈と同じくらい大きなハンマーを降ろしながら余裕綽々だ。
「あんまり強くなかった、まぁそっちの方が楽だからいいんだけど」
もう一方は鋭い視線を向けながらも気だるい態度で剣を背中の鞘に納める。ふと竜の足元を見ると手帳らしき物が落ちていた。
「なんだろ、これ」
■■ 日記
「名前の部分だけ掠れてるね。付近に村は無いからこの子が運んで来たのかな」
「ちょっと読んでみようか」「そうだね」
2人は小さなそれを覗き込む
忘れないように日記を書こうと思う。
6月3日(火)
こちらの世界に来てからどれくらい経っただろうか。数日くらいだったか、実感が湧かない、月日の概念はあるみたいだが。
そういえば急に力が増した、ちょっとジャンプしただけで数メートル跳べるし着地しても痛くない…不思議で仕方がない。
やたら巨大な猪を倒しながら歩いていると不思議な光景を目の当たりにした、ジュルガと言われる辺り一面が水晶の街。言葉は通じるようで安心したが慣れるまで時間が掛かりそう…力仕事はいくらでもあるみたいだ、当分は生活出来るだろう
8月24日(川)
あまり長続きしない性分なのを忘れていた。こっちの世界にもかなり慣れてきたと思う。土曜日は"センリョク"と読むらしい。勝手に漢字で書かせてもらおう。
あれから色々な仕事をしているがしっくり来ない。もっとこの力を試したい、何かいい仕事はないだろうか
10月13日(向)
また忘れていた。討伐隊に入ったが周りに合わせるのは苦手だ。けど戦っている間だけは辛い記憶を忘れられる。
瑞樹が事故に遭ってから、こっちの世界に来てから毎日が苦しい…でもいつかまた会えるかもしれない、生きなければ…
少女はページをめくろうとするが、ビリッと破れる音が鳴る。
「あ、血でくっついてめくれないや、最後の日付だけ見えるけど…8月12日(火)、1年前から書いてるみたい」
「火?カテイかな…今年の8月12日は水曜日だからスイバだったと思うけど」
「じゃあ2年前かな」
もう1人の少女が日記を懐に入れると2人は竜を解体する。
「んー、瑞樹…隣のクラスにそんな名前のやついなかったか?」
「いたような気がするけど、僕達がこっちに来てからまだ半年くらいじゃん?」
「珍しい名前だしそいつも事故ったって聞いたけど、2年前だしなぁ…ただの同姓同名か」
2人が竜の解体をしながら話をしていると青い鳥が巻物を落とす。
「次の仕事かな…センガで集合だって楓ちゃん」
先に中身を読んだ少女は楓に渡し小さな瓶を取り出して足下に投げ、割る。
「もったいねぇけど仕方ねぇか、急ごう」「オッケー」
中途半端に切られた竜を放置し、2人はセンガへ向かった。
(こっちの世界に来てからこんな展開ばっかだ、慣れない環境だからって言うより何か別の…魔法を使われてるんだとしたらどうしようもないし。店主さんの…名前聞けなかったな。貰ったブローチみたいに魔法を弾く魔法とか自分に魔法を撃てなくするとか、まぁそんなゲームみたいな事あるわけないか)
自身の置かれている状況をいまいち把握出来ていない瑞樹だったが、答えはすぐに分かるのだった。