ペットでした……?
肘つくな。
膝立てるな。
口に入ったまんま、しゃべるんじゃない。
そして、なぜまだパンイチが居る!
膝立ててる人に物申したいのに、それがパンイチって!
イケメンなのに昭和生まれの爺ちゃんと同じことしないでくれる⁉︎ 危ないでしょうが!
「チビちゃん、どうしたのかな。まだ熱い?」
クッション重ねて高くしてもらった椅子に座ったまま、食事に手をつけずに悶々としているわたしを、フリッツさんが覗き込む。初日にお兄ちゃん宣言をした、銀髪の少しタレ目のイケメンさんだ。イケメンさんなんだけど、頭のてっぺんにトサカがたってる。残念!
「ん?」
ふよふよ動くトサカに注目していると、もう一度首を傾げられた。
「あたまがへん」
ぶほっと、反対側で誰かが吹いた。
フリッツさんは首を傾げたいい笑顔のまま固まっている。
「へ、変? え?」
「あたまツンツンしてるの」
「ツンツン? うわっ!」
はっと壁の鏡を見たフリッツさんが、慌てて洗面所に駆けていった。
「ギャハハッ、優男も台無し〜!」
「赤いお兄ちゃんもツノがあるよ?」
大笑いしかけたまま、赤毛の人が3人走っていく。はねてたの一人だけよ?
「がはははっ、中途半端に髪伸ばしてっからだ! オレみたいに剃っちまえ! なあ!」
隣にいたボールヘッドのミドルエイジが顔を近づけてくるから、それは両手で防御した。
「お?」
「チクチクイタイの、い〜や!」
この人、とんでもない剛毛ひげなのよね。一回ジョリジョリされて金ダワシかと思ったわ! マジに拒否!
「や? え? イヤって言われた…………!?」
なぜかショックを受けてる模様。両手でベシッと頬を叩き、ザリザリと撫でまわし、椅子を蹴り倒す勢いで食堂から出て行く。それに続く、これまた両頬を押さえた騎士5名。うち、パンイチ一名。ついでにズボン履いてきて。
程なく戻ってきた頭びしゃびしゃの4名、顔に泡くっつけた6名。でも頭はぺったんこだし、口の周りはツルツルピカピカ。伺うような視線投げてきて息詰めてるから、にっこり笑ってちんまい親指立てたら、にへにへ笑って席に着いた。
手のひらコロコロ、おもしろい。
…………案外、生活改善簡単ではなかろうか。
幼女、恐るべし!
「あ〜、チビちゃん、また一人で来てる! ど〜して起こしてくれないの〜」
「身の危険感じてるからでしょう? お利口さんだわ」
「どゆこと!?」
「そのままの意味ですよ。あなたと同じ部屋で寝起きだなんて同情します」
「あたしは可愛がってあげてるだけじゃないよっ」
ひと際にぎやかなのが、皆様ご存じカチュアさん。
豪奢なクルクル金髪のアライダさんと、こげ茶ショートのモニカさん。
騎士団に3人だけの女性騎士さんたちである。
さすがに身だしなみはピシッと決めている。うん、カチュアさんもあの寝相が嘘のようだ。
三人そろって階段から降りてきたら、その辺りの男性陣がささっと退いた。力関係が謎だ。
「あら?」
アライダさんが小首を傾げる。それにつれて、ばさあっと黄金のくるくる髪が流れ落ちる。とても邪魔そう。
「なんだかお部屋がスッキリしていますわね?」
「おう! 俺たちが片づけたからな!」
「今日は大風ですか」
胸を張った面々をモニカさんがぶった斬った。
「なんでそうなる! 俺たちだってやるときゃやるんだ。なあ?」
「そうだそうだ、バカにすんな」
「そんなのどうでもいいけど、なんでチビちゃんごはん食べてないの?」
「パパまってるの」
「パパ? あ〜、団長かあ」
「団長待ってたら冷めちまうぞ。部屋出てくるの時間かかるし」
時間がかかるのは身だしなみをきっちり整えてくるからだ。団長さんに限って言えば、髪も撫でつけているし、髭も剃っているし、団服も皺一つない。マジメさんである。
ただ一つの欠点は…………
タッタッタッタ…………
足音が近づいてくる。
「…………速いな」
「大丈夫っす。団長の部屋からの廊下には物置かないようになってるっすからね〜」
「それもそう………… あ〜っ
ドガッ ガシャン ガラガラガラ!!!!
「ってぇ〜っ!!」
…………さっきのバケツ」
「あ~……」
++++
「すまん、一個注文しといてくれ」
めきょっとへしゃげたバケツをぶら下げて、眉を下げた団長さんが入ってくる。
へしゃげかたが半端ない。あれ、もう絶対使えない。わたしはドン退いたが、周りは「あ〜はいはい」と相槌を打っている。どんだけ日常茶飯事なんだろう。
「なにか問題でも?」
「いや、第三の進捗報告が来てな」
「あ〜、手間取ってるみたいですね。身元がなかなか判明しないとか」
「命じたゴロツキに完全丸投げだったみたいだからな。目についたのを手当たり次第とか、ふざけてるのか」
話しながら、団長さんが空いた席に座る。一番ドアに近いとこ。
…………最後に来たからかもしれないけど、団長が一番下座?
それに、そこ! 団長さんが来てるのに、まだ片肘ついてくちゃくちゃ食べるんかい!
騎士ってさ〜
清廉潔白品行方正じゃなかったっけ?
少なくとも、ラノベじゃそうよね?
…………妄想か? 妄想なのか?
「うん? なんだまだ食べてないのか?」
ついと、団長さんの視線がこっちに来た。
その視線に、哀れみとか同情とかが見えるのは、さっきの会話の続きだろう。
なんて言ったって、わたしもその事件の被害者だと思われてるらしいからね。違うけど。
たぶん、ダルマクさんがうまい具合にしてくれた結果だとは思うんだけど、そうじゃないから多少の罪悪感はある。ごめんなさい。
「団長、待ってたんだって〜」
「俺を?」
「うん! パパ、おはよ〜!」
「あ、ああ…………」
「あ〜! わすれてた! えっと、みなしゃん、おはようごじゃいます!」
しまったしまった。
挨拶は全ての基本。
椅子に座ったままだけれど、ペコリと頭を下げた。呂律は相変わらずの4歳児仕様だ。
「へ? あ、ああ」
「あ、お、おはよ〜」
「ござ、い、ます」
騎士さんたちが、カトラリーを置いて同じように頭を下げる。
おお。
いい傾向。
「だ、団長! やっぱり飼いましょう! うちで! こんなに可愛いペット、うちでキープするしかな…………っ」
「ペットって言うな! バカもの!」
椅子を蹴倒す勢いで叫んだカチュアさんの頭がはたかれてた。