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まずは設定からですか?  作者: 天野 陽羽
〜ろ〜
70/72

説明されました



 朝起きて、部屋の窓から朝日に向かって柏手二回。今日も一日いい日になりますように!

 拝んだ後は、いつものようにテング―の洗礼をうけ、身だしなみを整えて部屋を出る。

 天気が良ければ、廊下のカーテンを開けて窓もどんどん開ける。外から風に乗ってテング―がふよふよ建物内をめぐって換気をしてくれるので、酒盛りの匂いや汗臭ささが消えて気持ちがいい。

 行く先々の隅っこや家具の下からほこりがヤナリーズに蹴りだされて、階段から下に蹴落とされる。お礼を言うと加速がついて玄関から庭へと蹴とばされていって、床もピカピカ。

 そして、階段の踊り場で、身だしなみ検査。パンイチがゼロにならないのはなぜだろう。

 その後、みんなで朝食。いただきますで食べ始めて、ごちそうさまをする頃に、ベンツさんが出勤である。

「さあ、ロズ! 今日はパパとなにして遊ぼうか!」

「そんな暇があるはずないでしょう。さあ、行きますよ」

「ま、待て、ベンツ! ちょっとぐらい!」

「さあさあさあ!」

 引き摺られて退場するパパを手を振ってお見送り。

 外回り担当の隊のみんなに行ってらっしゃいをして、そのままぐるっと庭を一周、井戸の周りでミッチーがチョロニョロと洗濯の泡交じりの水を、お姉さんたちの足を回避しながら溝へと誘導しているのを横目に、厨房に行ったりウルカさんのところに行ったりして、よっとばかりにリビングに戻るまでが最近の朝のルーチンワークである。


 さて。今日は何をしようか。

 鍛錬系も練習系も勉強系も、手がずるずるなので、禁止されてしまった。

 こんなの、皮がズレないように包帯でも巻いておけば、痛いのもすぐ慣れるというのに。そうして二三日もすれば薄皮が張り、動かしてひび割れてまたふさがって、皮膚が分厚くなって頑丈になるのだ。逆上がりができなくてやった地獄の特訓を思い出す。結局できることはなかったけれど。なので、できれば鍛錬場に行きたかったのだが、顔をひきつらせたウドさんに来ないでくれと頼まれたのでしょうがない。昨日、ウルカさんに何されたんだろう。


 とりあえず、何かしていないと落ち着かない。


“せやから『社畜』やねん”


 うるさいな。


 後をずっと着いてきているヤオの頭をぺしりと叩いた。







 昨日、ジョブを見て愕然とした。


 『社畜』


 そうか。ジョブだったのか。


 その現実は、かなりショックだった。

 

 おまけに、後押しするようなスキルまで、山のように持っている。



 生まれながらに、社畜を極める人生を歩むことになってたって、ひどくないはないだろうか。

 できるなら、お気楽OLしたかったのに! お茶くみ3年で結婚退職するはずだったのに! 元から夢のまた夢だったのか。

 運命きめる神様ってだれだったか。叶うなら、今からでも苦情を言いに行きたい気分である。


”いやいやいや。自業自得やし”

 唸るわたしの横で、しっぽをばっさばっさしながらヤオが言う。

「なんでじごうじとくよっ。わたしなにもしてないのに」

”えー。仕事してたやん。脇目も振らず必死こいて”

「そりゃ、するでしょ。おきゅうりょうもらってるんだし」

“残業早出、休日出勤、最長連勤二十日、週に一、二回の出張。帰ったら資格の勉強、寝るのは絶対午前様、ってのはやり過ぎちゃうん”

「おわらなかったらおわるまでやらなきゃだし、ひつようあったらとおでもするし、やくにたつならとったほうがべんりだし。あたりまえじゃない?」

“はー”

 ヤオが、とても大きなため息をつく。


“ええか”


 とんがった鼻が、ずいっと迫ってくる。


“なんかやったら、それが身について能力になんねん。それがスキルや。そのスキルをつこたらできる仕事がジョブやねん。ジョブが先とちゃうねん、スキルが先や。みっちゃんがそうやって仕事しとったから、ここに書いたあるスキルがついて、結果、『会社員』の中の『社畜』がぴったしや! ってことになってんねん。『社畜』は自分で引き寄せたジョブなん。ウチらのせいにせんといて!”



 ………………………………


「すみません」

“わかったらええねん”

 ヤオの鼻息が荒い。


「あ、で、でもさ! じゃあ、この『サムライ』は? わたし、こんなジョブつくようなスキルになるせいのうもってないよ?」


 運痴だし鈍臭いし猫背だしガニ股だし。

 円月殺法に憧れて剣道の授業がんばってみたけど、結果せいぜい『剣道5級』にしかなってない。

 今の理論で行けば、付くはずがないジョブではなかろうか。


“『みっちゃん』やったらな。今はちゃうやろ。ダルマさんと建御雷神さまが、『サムライになりたい』っていうみっちゃんのお願い叶えるために、『武芸』っちゅうスキルがつく性能にその体の設定してくれてるやん。しかも、ふつう最大値200やのに300に底上げしてくれてるし、はなから50は習得してるし。理由が理由やけど、大盤振る舞いやで?”


 ちなみに、この身体の性能に基づくジョブが、最初に教会に行った時に判明するジョブで、これは終生変わることはないらしい。

 それはそれで一安心。

 サムライになる未来は確定だった。

 


 生き方を変えない限り、『社畜』のジョブは消えないと判明したものの、そう簡単に変わるわけもなく、御用聞きにうろちょろしても、「ケガしてるんだからいいよ」と笑顔を向けられる。





「ひま~~~~~~~~っ」





 食卓に突っ伏して叫んだら、背後からクスクスとした笑い声。振り向くと、柔らかな薄い青のワンピースを着たアライダさんが日傘を持って立っていた。体の線が出にくいはずのワンピースでもわかる、ボンキュッボンはうらやましい限りだ。


「わたくし、今日は街にお買い物に行くんですの。お暇でしたら一緒にいかが?」


 街!


 考えてみれば、わたし、ろくに楽しい外出したことないよね! 連行されたり、誘拐されたり、売られたり、保護されたりしただけだし。


「いってもいいの」

「構いませんわよ。お買い物して、美味しいものでも食べましょうか。今日は、カチュアもいませんから、好きなお洋服が選べますわよ?」

 最後は小声でささやいて、パチンと片眼を瞑る。

 それはうれしい。ピンクもフリフリも強制されないということですね?

「いきましゅ!」

 ピシッと挙手して、今日の予定を決定した。意気込みすぎて、噛みました。


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