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まずは設定からですか?  作者: 天野 陽羽
〜い〜
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掃除してくれました

 わたしが立てたのは「幼女が健気に頑張る作戦」である。

 騎士のお兄さんたちは、だらしがないけど総じていい人たちである。だらしがないけど! 

 このままじゃあ、だめでしょう。

 汚部屋や怠け者は総じて貧乏神や疫病神の好物なのよ! 居着かれたらどうすんのよ。

 団長さん(パパ)が困るでしょう!

 ただでさえ、みんなが出払った後に来る家事担当のメイドさんに、毎日謝ってるのに!


 なので、良心に訴えることにした。


「片付けなさい」

「ちゃんとしなさい」


 言うのは簡単だけど、だいたい反感を買う。

 元の人生の経験談。「口うるさいおばさん」「行き遅れのお局」散々だった。

 可愛い系後輩がわたしに任せてください!と言うので見ていたら、


「じゃまで通れな〜い」

「いった〜い、なんでこんなのがここにあるの〜」

「あれどこに行ったのかしら、こまったわ〜」

「ちゃんとしたら格好いいですね!」

「いつもより素敵です!」


 …………片付いたよ。身だしなみがキッチリしたよ。

 手のひらコロコロ、チョロかった。


 それを思い出したのである。

 元のわたしじゃ使えたものじゃないけど、いま幼女! 4歳の幼女!


 チョロかった。


 

 しかしまあ、弊害もあったよね。

 まさかこんなにワイルドに物をどけるとは思わなかったわよ。

 コップや瓶どころか、お皿まで蹴っ飛ばしたおかげで、ナッツやクラッカーも床一面。

 団長さんがペコペコする回数増えるじゃない。


「ねーねー」

 近くにいた騎士さんのズボンを引っ張った。茶色の髪の、確かコンラートさん。

「…………なんだ?」

「おそうじどうぐ、どこ?」

「…………裏の廊下にあるはずだが」

「ありがと〜」

 裏ってあっちかな。ほうきを発見して引きずってくる。4歳児には苦しいが為せば成る!長い柄を両手で抱えてピーナッツを…………


「待って待って」

 ほうきが消えた。

 後ろにいた別の騎士さんがはき始める。

 掃いてくれるのね。んじゃあ、床拭こう。戻って雑巾とバケツをガラガラ引きずってくる。あっちこっちにお酒くさい水たまりあるし。

「やんなやんな。酔っちまう」

 雑巾が消えた。 拭いてくれるらしい。

 じゃあ、コップやお皿集めて…………

「チビはこっちな」

 脇に手を突っ込まれて体が浮いて、部屋の隅の棚に降ろされた。いくら目の高さだからって、こっち幼児よ? フツーに怖いよ?


 でもまあ、眼下で、騎士さんたちがせっせとお片づけしてるし、ま、いっか。


 片付けが終わりかける頃、玄関の方からガヤガヤ声がしだす。

 あー、朝練組が戻ってきたな。

 彼らも問題なのよね。泥だらけの靴で入ってきて、汗臭いシャツやタオルを投げ捨てて通過していくから。

 ただいましろや。ドアマットで泥落とせ、せめて! 疫病神いらっしゃっい!になるでしょーが!


「あーどろ「おい! そのまま入んな! 泥落とせ!」」

 

 掃除組の騎士さんの声が被った。


「は?」

「は?じゃねーよ! せっかく掃除したのにまた汚すな!」

「な、なんだよ急に。なんだって掃除なんか………… 」

「どうでもいいだろ! とにかく泥落せや!」

「はいはい。しっかし今日も暑かったよな〜 早く水浴びよ」


 朝練騎士が引っ掛けてたシャツをべしょっとソファーに投げる。

 「バサッ」じゃなくて「べしょっ」だからね。濡れ具合が窺える。そんなことするから、ソファーがシミだらけになって、果てはカビまで生えるんだぞ! 昨日見つけてびっくりしたわ。


「あーそれはかご「そんなとこに置くな! 洗い場持ってけや!」」


 他の掃除組がまたどなる。


「今片づけたとこなんだぞ! ちらかすんじゃねえよ!」

「かたづけたあ〜? なんだよ、今日は一体どうしたって…………」

「なんでもいいから放り込んでこい! 水飲むのはそれからだ!」

「へいへい………… 投げて来たぞ!これでいいんだろ!」


 ぶつくさ言いながらも、シャツとタオルを洗濯場に置いて、騎士さんが戻ってくる。


 なんだかんだ言ってもちゃんとしてくれるんだから、いい人だね〜。


 目の前通って行ったので、ちょうどいい高さの頭をなでなでした。アラフォーの身にすれば、20代の騎士たちなんぞは年の離れた弟みたいなものである。ちゃんとできて偉い偉い、うんうん。


「…………へ?」

 立ち止まって、こっちを見る。


「よくできました、おつかれさま〜」


 なでなで。


「…………ぐっ」

 口を押さえてその場にくず折れた。


 ありゃ?


「あ、ちょ、ずるいぞ! 俺も掃除したぞ!」

 掃除組がくわっと来たので、

「うん、とってもキレーになったね!」 

 なでなで。

「…………っ」

 また視界から消えた。


 え〜と?

 どした?


「お、俺も、俺も!」

「あ、おれも、頑張ったっす!」

「床なんかピカピカだしっ」

「俺も…………っ」

「横入りすんな! 並べ!」

「あ〜、だりい………… な、なんだ?」

「泥落とせ! シャツほんな!」

「はあ?」

「い〜から、洗い場持ってけや! そしたらな…………」

「なにっ? わかった!」

「よっしゃあ!」


 あらあら。

 こんなにはしゃいじゃって可愛いなあ。

 よーし、いくらでも撫でてやろう!



 結果、きれいに片付いたリビングで、壁に寄りかかったり、ソファーに突っ伏したり、床に倒れ込んだりして、でかい図体の騎士が真っ赤な顔してあっちこっちの転がる図が完成した。

 なんか、余計に足の踏み場がなくなった気がするんだけど。



 …………少なくとも、貧乏神は来ないかな〜。たぶん。



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