サムライデビューしました
時代劇好きとして、この好機を逃す手はない。
チャンバラに突進した。
だって、太秦にも行ったことないんだよ? 是非ともこの目で見なければ。
“ちょ、みっちゃん、早っ!”
何回かつんのめったりぶつかりそうになったりしたけど、そんなことは知ったこっちゃない。ひたすらめざして突っ走る。
やはり刃物を使うのは危険だからなのか、今度は私の背より高いフェンスが設置されている。でも、板じゃなくて格子状だったから、ちゃんと隙間から見ることができた。
まずは素振りをしている集団がいる。これは真剣ではなく、竹光? 竹はないかな。多分木製。薄いチュニックを着ていたり、上半身裸だったりする騎士たちが、気合と共に剣を振るう。両手で持ち構え、見慣れないステップで縦に横にと空気を切る。剣道とはかなり違う。
周りがゆらめいて見えるのは、立ち上る熱気故だろう.飛び散る汗が見える気がする。いや~、いいわ。カッコいい。早くわたしもやってみたい!
(な、なあ、なんかちびっこいるぞ)
(うわ、見てる見てる)
(あれって、もしかしてあのうわさの?)
(え? あんなかわいいのっ? ずりいな本隊!)
(でも、なんかリキ入りすぎじゃね? 顔食い込んでないか?)
その奥でさらに数人、真剣で素振りをしている人たちもいた。
振り下ろすたびに、フォンッという音がする。刀より、重さも抵抗もありそうな剣を、あの速度で振ることが出来るとは、恐るべし。
しかも、その大半が見たことあるよ? パンイチ軍団だよ?
……わあ。
こうしてるとまともに見えるわ。腐っても騎士だったんだな、ちゃんと。へ~。
(エルちゃんだ! エルちゃんがいるぞ!)
(見てるぞ、俺を。俺だけを!)
(よし、ここはいっちょ格好いいところを!)
(めっもかわいいが、一回くらい褒められたい!)
うん? なんか空気変わった。
あ、落ち葉切った!
わ、こっちも!!
やればできんじゃん。凄い凄い!
ヒュンって、ブォンッて、振って、あ、決めた。その笑顔要る?
要るもの、握力、腕力、背筋もかな。腰決めなきゃいけないから、やっぱり脚力もだよね。てことは、筋トレか、歩きか!
鍛えて、わたしも、ヒュンッて、ザンッて、チンッてして、背中で語るサムライにっ。
「え、エル坊。ちぃっと下がれ、顔食い込んでるから」
いきなり、グイっと肩を後ろにひかれて見上げたら、後ろに居たウドさんが噴出した。
「ウドさん?」
「い、いや、うん、まあ、可愛いから、いいか。なんだ、見物か」
なぜか笑いながらわたしをひょいと抱え上げる。
「うん、きらって、ぶおんってかっこういいの!」
「そうかそうか。よっし、お前ら、ちょうどいい、いっちょもんでやる。エル坊に格好いいとこ見せてみろ」
「「「「「「「うおっす! 中隊長! お願いしますっ!」」」」」」」
「お、おお?」
みんな食いつくように頭を下げた。
ウドさんは、わたしを塀の際におろして、木剣を抜いた。
登場したばかりなのに、既に上半身裸って、なんでだろう。そんなウドさんが、みんなが持っている剣より二回りほど大きい木剣を手に仁王立ちしている様は、ほぼ山賊だよ。
そして、あっという間に一対多数の乱戦になった。
そして、ウドさん、木剣振り回して、次々なぎ倒して行って、圧倒的。
こうしてみると、剣って、叩き切る感じなんだなあ。一振り一振りが重い重い。なので、殴り飛ばされる距離も遠い遠い。
それをわははと笑いながらぶっ飛ばしてるから、ほぼ悪鬼。
でも、飛ばされる方も、やはり心得ているんだろう。飛ばされちゃ立ち上がり、ギラギラしながら突っ込んでいっている。
……楽しそうだなあ。
やりたいなあ。
こう、びしっと、ばしゅっと!
「どうだ、エル坊。お前もやってみるか?」
ひと段落着いた頃、汗を拭きながらウドさんが、エアチャンバラをしているわたしに夢のようなお誘いをしてくれた。
「うん、やる!」
もちろん、答えなんて一つよ。
「え。大丈夫なんですか? こんなちっこいこ」
「ケガしません?」
「小さいうちから慣らしておくんだよ。逆に、小さいほうが体柔らかいからな。ケガもしねえって」
話しながら、普通サイズの木剣を二つにへし折り、持ってた鉈で断面を整えたミニ木剣を渡してくれる。
ぎゅっと握る。
ふふ。日本刀じゃないけど、サムライへの第一歩!
「まいる!」
やってみて、ちょっとびっくりした。
時代劇も殺陣も大好きだけど、もちろんやったことはない。剣道も体育の授業でかじったくらい。
でも、なんだかスムーズに振れるのよ。
持っているのが木剣でも、どうしても剣道スタイルになってしまうんだけど、ちゃんと、ピッと止めることもできるし、腰も入ってる。 と思う。
いやん、もしかして才能あり?
振ってると、ウドさんの目も変わった。キランって光った。
棒切れを横に構えて打ち込んで来いって言う。
あ~、これも授業でやった!
「めん、めん、めん、めん、め~ん!」
ひとしきり叩いて、振りぬけば、周りから「おお~!」って歓声が上がった。
きらっきらした笑顔で、騎士さんたちが手を叩いていた。
いける。
いけるぞ。
ものすごい、達成感がある。
これは、ジョブ「サムライ」の恩恵か!?
もちろん、まだまだではあるけれども、「筋はいい」くらいにはなってるんじゃない?
授業でさんざん「へっぴり腰」と笑われたわたしはもういない!
やっても無駄、ではなく、やればやるほど身になる未来がそこにあるに違いない。
ダルマクさん。
これだけでもう、ナタル許してもいいよ!




