許可取りました
その日の夕食時。
一日の仕事や鍛錬を終えて食堂にやって来た騎士さんたちが、こっちを見るとみんな一度は足を止める。
「なに、あれ」
「やっば………… 可愛さ倍増…………」
「疲れ吹っ飛んだぞ。今から外周ランニングできそうだな、おい」
「愛でたい………… むっちゃ愛でたいんだけどっ?」
ぼそぼそ話しながら、空いてる席に座っていった。
うん、ごめんね。気になるよね。けど、ここで退くわけにはいかないのである。
わたしは椅子に座って、子ぎつねを膝の上に抱っこして、ほっぺを膨らませて対抗していた。
「やなの! わたしがぎゅーってしたからいたくなったの! だからわたしがおせわするの!」
「オイゲンに診てもらったんだろう。だったら治ってるから元いたところに戻してきなさい」
「や!」
「野生の動物は、いつ噛んだり引っかいたりするかわからないんだぞ? 危ないから戻しておいで」
「このこはそんなことしないもん。あぶなくないもん、いいこだもん!」
団長パパが珍しく怖い顔して退いてくれないのだ。
言いたいことはわかる。野良の動物は何するかわからないから。
しかし、しかしである。
この子は野良ではないのだ。一応、恐れ多くもお遣いなのだ。そんなことするわけがないし、大体どこに返せと。わたしのためにわざわざ日本から派遣されてきたんだぞ?
本人だって、これでポイント稼いでランクアップをもくろんでるんだから、むしろwin-winなんだから!
わたしは子ぎつねをことさらぎゅっと抱きしめて、幼女の必殺技『うるうるオメメ』でパパを見上げる。
さあ、どうだ!
「うっ」
「ぐはっ」
「もう、他の野郎の顔なんて見たくねえ……」
あ、パパ以外にも被弾した。
”うわー。あんた、うまいことやってるなあ。アラフォーに見えへんで。ついで、ちょっと緩めて”
ほっといて。生きてくためには必要な技なのよ。
「団長。少し落ち着いてくださいな」
そこに現れたのは、アライダさんだった。豪奢な金髪縦ロール。凛としたボンキュッボンの正統派ご令嬢のような女性で、なぜ騎士団に居るのか謎である。
「エルシアさん」
「はいっ」
アライダさんはわたしの正面で腰をかがめ、視線を合わせてくる。名前を呼ばれるだけで、背筋を伸ばしたくなるような迫力がある。まっすぐ見つめられたりなんかしたら、ごまかしなんか絶対できない。ごくんとのどが鳴っちゃった。
「どうして狐さんのしっぽを引っ張ってしまいましたの?」
「シュヴァンツだとおもったの。おっきかったから、たくさんおくすりつくれるでしょ? ザビネさんが、ここののきずぐすりつくるのにいるっていってたから、がんばってあつめなきゃっておもったの」
薬草を集めてたことと理由は嘘じゃない。ついで、しっぽを引っ張った経緯も、嘘じゃない。だから、大丈夫よね?
「え? 俺たちの薬?」
「俺たちの?」
「俺たちのために、薬草取りに行ってくれてたの?」
「俺たちのために……っ」
あ、外野がまたざわざわし始めた。
”チョロすぎへん?”
いちいち、腕の中から突っ込みが入る。うん、否定はしない。
「なら、わたくしたちにも責任の一端はございますわね、団長。『わたくしたちの』薬を作るためだったんですもの」
アライダさんが、片手を頬にあてて首をかしげながら視線をパパに送る。
「俺たちのための薬なんですよ!」
「団長だって使うでしょ!」
「せっかくチビががんばってくれてんのに、狐の一匹や二匹!」
「なんなら十匹飼ってもおつりがくる!」
周りからも、援護が入る。
「し、しかし……っ」
「『わたくしたちの』ため、ということは『第二』のため。ひいては『パパ』のため、ですわ。ねえ?」
「そう、いう、ことに、なる、の、か?」
言い返そうとしていたパパが、ちょっと顔を赤くして、もごもごと口ごもってしまった。
アライダさん、そしてみんな、ありがとう!
「でもね、エルシアさん。団長がおっしゃっていたことも間違いではありませんのよ。もしこの子がエルシアさんにけがをさせたら、許可を出した団長も責任を感じてしまいますわ。そうならないように、きちんとお世話できますか?」
「できるのっ! あと、このきつねさん、とってもかしこいとおもうの。いったらわかるとおもうの」
さあ、ここでそれを証明するわよ、子ぎつねさん。やってみせるのが一番なんだから。
「きつねさん、おて!」
「きつねさん、おかわり!」
「きつねさん、ふせ!」
「きつねさん、いっかいてん!」
「きつねさん、とってこ~い!」
「きつねさん、……」
結果、めでたく許可が下りました。
”ちょ! うち、犬ちゃうねんで! 神使になにさせるんや~~~~っ!”
ごめん。




