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まずは設定からですか?  作者: 天野 陽羽
〜ろ〜
59/72

念願がかないました




 一週間後。

 御大層に封蝋を施された手紙が、騎士団に届いた。

 執務机に置いたそれを、パパと足台に乗ったわたしとが見下ろしております。


「これが、かんていけっかなの?」

「そうだ。普通は見るのは本人だけなんだがな、子供の場合は親も見ることができることになっている。……俺が見てもいいか?」

「うん! パパだもん」

「そ、そうかっ」


 心なしか強張っていたのは、そのせいかな?

 当然じゃない? 団長さんはパパだもん。



「よ、よし。じゃあ、開けるぞ」

 少しぎこちない動作で、オープナーを使って封を切った。

 そこに入っていたのは、厚みのある、しっかりとした紙が数枚。そして、小さな薄い箱が、一個。

 その箱を脇に避け、パパが机の上にそっと紙を置いて、三つ折りを広げていく。

 わたしも緊張して、生唾をのんだ。

 会社の採用通知を開けた時以来ではなかろうか。


「まずは、一枚目。これは、前置きと名前だな。鑑定結果が出たので知らせるという旨と、お前の名前だ。『エルシア・ローゼルート・フォン・ワーグナー』」


 身を乗り出して覗き込んだけども、なに書いてるのか全然わからない。あれ? 前は文字読めてた気がするのに、なんでこれ読めないの?

 まあ、書いてることは少なそうなので、パパが言う通りなのだろう。

 なんか、名前がまた長くなってる気がするけど、まあ、考えてもしょうがないだろうから、いいか。


「残るは二枚。これは、小さいときにわかっていないと、ちょっと大変なことが書いてある。だから、パパもいっしょに見る。他、ここには書いていないのは、自分だけの内緒だ。ロズにしか見えないし、他の人にも言えない」

「パパにも?」

「基本的にはな。まあ、おっきくなったらわかるから、それまでのお楽しみだ。いいか?」

「うん」

「よし、いい子だ」

 頷くと、わしゃわしゃと頭をなでられた。


「よし、じゃあ、二枚目だ。これには、魔力値が……」


 魔力!

 魔力?

 え?

 魔力あるの?


 ぐぐっと乗り出して、机の上の紙を覗いた。


 文字は、わからないけど、数字はわかった。



 3(100)



 ……さん かっこ ひゃく



 100の内の3か~。0じゃないってことは、あるんだな。魔力。ほー。これ、少ないうちと多いうちのどっちだろ。なにかできるのかな。ウィンドカッター とか? ファイヤーボール とか? 教えてもらったらできるのかな。ほほー。


「すごいね、パパ。まりょくあるね! まほうつかえるね!」

「あ、ああ。そうだな。普通に生活できそうだ。良かった良かった」

 あら、そういうレベルで魔力が必要なのね。

 それにこの反応。そんなにたくさんはなかったっぽいな。いくらなんでも3だからな。多いはずないか。

 そういえば、ナタル、ダルマクさんにげんこつくらってたっけ。

 てことは最低限かあ。残念。



「よし、次は、3枚目。これが一番大事だ。大事だけど、絶対じゃない。こうしなきゃいけないってことじゃないから、参考にするくらいだ。いいな」

「うん」

 わかんないけど、とりあえず、うん。



「ここに書いてあるのは、ジョブだ」


 ------ジョブ!


 来たーーーーーーーー!


 思わず叫びそうになったじゃない。

 来たよ来たよ来ましたよ。

 力貸してくれるって言ってたもんね。手配してやるって言ってたもんね。

 約束守ってくれてるよね。

 守ってくれてなかったら、化けて出るからね!

 

 パパが、ゆっくりと魔力が書いてあった二枚目を持ち上げる。


 だめだ。

 ドキドキする。

 文字しか書いてなくてわからない。

 早く、早く読んで。



 パパの目が文字を追うように動いていく。

 ちょっと、眉が寄った。

 「……だ、これ?」


 なに?

 どうしたの?

 聞こえないよ?

 はっきり言って~!

 


「ロズのジョブは……」


 ジョブは!?



「サム、ライ、ケンゴー、カイ、シャ……」




 よっしゃああああああああ!


  


++++



『侍だと?』


 希望を訊かれたから答えたのに、建御雷神に聞き返された。

「はい!」

 

『『サムライ』? なんですか? 聞いたことがありませんが』

 ダルマクさんが建御雷神に訊ねる。


『それはそうだろうな。この日の本で、昔、覇を成した剣をもって功をたてた武の者だ。そちらで言えば『騎士』が近いか?』

「騎士みたいなキラキラしたのと一緒にしないでください。侍はもっと渋くて格好いいんです!」

『お? おお、すまん』

 そこは絶対譲れないので、力説しておく。


『今ここで言うほどなりたいのか』

「はい!」

 力いっぱい、体全部で頷いた。



 小さなころは、じいちゃんばあちゃんが桜吹雪のお奉行様やご老公のテレビを観てて、それを近くで一緒に見てた。

 大河ドラマは戦国武将だった。

 三男坊は上様(うえさま)で、本所の銕(ほんじょのてつ)お頭(おかしら)で。

 文庫本も集めて、DVDも集めて、寝に帰るだけのマンションはそれ一色だ。

 どれだけ、そっちに行きたいと思ったことか。

 習ってみようと思ったことは何度もあったが、如何せん、時間もなければ、運動神経もなく、観光旅行で木刀を買って帰って納得するしかなかったのだ。ちなみに七本はある。



 花は桜木 人は武士

 勧善懲悪 義理人情


 現実的に不可能な悲願を成就できるチャンスが来たのだ。

 

 決して逃してなるものか!




『ありがちなのは『勇者』とか『聖女』とか『悪役令嬢』とかなんですけどねえ。その辺りがヤマトの流行りのはずなんですが。お年を召しててご存じないのでしょうか』

『『仙人』でも『富豪』でもないのか。年に似合わず、存外血の気が多いやつだ』


 なんか後ろでボソボソ言ってたけど、失礼な。

 知ってるけど興味ないし、隠遁生活なんてつまらないし、大金なんて持っててもビビるだけじゃないのさ。



 そして、結果。



 ジョブ  サムライ

 ジョブ  サムライ

 ジョブ  サ・ム・ラ・イ!!!



 やったあああああああああっ!




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