鑑定してもらいました
「さ、さて。改めまして。誤用向きをお伺いしても? 信仰権のご取得ですかな? 今ならば、多少の融通は……」
「いや、先程取り次の修道士にも伝えたはずだが、五歳になった娘の鑑定をお願いしたい」
「鑑定でございますか……」
驚いたことに、こういう状況にもかかわらず、司祭は信仰権を売り込んできた。そして、速攻却下されて、あからさまにガッカリしている。
「何か不満でも?」
「あ、いえいえ。承知いたしました。しかし、団長様は未だ奥様は居られなかったと記憶いたしておりますが…… ああ」
そこで、にやりとなんとも嫌な感じの笑みを浮かべる。
「お噂には窺っておりますよ。第三騎士団が取り扱っていた事件の孤児だとか。奴隷商の商品を引き取るとは、いやはや、お心が広い……」
ガン!
間にあった大理石のテーブルが、大きな音とともに十センチは向こうにズレた。上にあったティーカップも弾みで動いて、少し紅茶がお皿にこぼれて広がる。
大理石が動いた!?
これ、絶対重いよねっ?
「今、なにか言ったか?」
テーブルの下で足を戻しながら、パパがガンを飛ばす。
「い、いや、しかし、出自もなにもわからぬ流民には違いございませんでしょう。そのようなモノをわざわざ懐内にお入れになるとは」
バチッ
司祭が手にしていたギラギラゴテゴテした数珠のようなものが、火花を散らして弾け飛ぶ。
「慎みなさい。”王立第二騎士団長 トビアス・フォン・ワーグナー子爵”がご令嬢 エルシア様ですよ」
手にパリパリと雷まとわせて睥睨するヘルマンさんに圧されて、司祭は椅子ごと壁際まで後じさった。
「い、いえいえいえっ、しかしっ」
「聖事は今後、西のルフェーゲル教会に任せても?」
「いっ? いえ、いえいえいえいえ! 鑑定をさせていただきます。お嬢様の鑑定を、今すぐに!」
さっきまでのふてぶてしさはどこ行った。
平身低頭、足元に擦り寄り、頭を下げる。ヘルマンさんに。
ダメだ、こりゃ。
でもね。
今、変な単語、聞こえなかった?
いやいや、そんなバカなことが……
そっちの方に気を取られて、気がついたら鑑定が終わってました。
ラノベあるあるで、広間の祭壇にでも行って置いてある水晶玉とかに手をかざし、「魔力0,スキル無し、無能!」とかって宣言される個人情報保護法まるっと無視した公開処刑なのかと思ってたんだけど違ったわ。丸いお盆にしか見えない鏡のような円盤に、手のひらペタッとくっつけて、テンカウントするだけだった。
結果は後日、騎士団に届くとのこと。
掌紋認証とか、指紋認証とか? 意外にハイテク。
お布施と称して、パパの手から銀貨が司祭が手にする小型賽銭箱に次々落とされていくのを見て、冷や汗が出た。
「へ、ヘルマンしゃんっ! あんなにたかいのっ? ど、どうしよう、わたしかえすのいっしょうかかっちゃう!」
「んー? 返す必要なんてないよぉ。こっちの要望分払ってるだけだし。大体、団長、エルちゃんのパパなんだから。払うのは親の役目だしぃ」
さっきとは打って変わって、いつも通りにふにゃふにゃ笑いながら、ヘルマンさんが言い放つ。
い、いや、それでもね!
そこで、はたと思い出した。
「そ、そうだ、ヘルマンしゃん! ししゃくのれいじょうってどーゆーことっ?」
「どういうことってぇ…… そういうこと?」
「どうしてっ? なんで?」
「え~、だって、団長、子爵だしぃ」
……なんてこったい!
「じゃ、じゃあさ……」
「ん?」
「じゃあ、なんとかでございましゅわ~とかいわなきゃいけないのっ? おうぎでかおかくしてお~っほっほっほっほってたかわらいしなきゃいけないのっ? まいあしゃ、いちじかんもにじかんもかけておしゃれしておけしょうして、かみのけぐるぐるドリルにして、てぃーかっぷゆびでつまんでおちゃのむの? どれしゅもこるせっとギューギューでごはんもたべれなくて、つまさきだちしなきゃいけないたっかいはいひーるでよちよちあるいて、くっついてだんしゅしゅるのっ?」
ラノベでよくみるお嬢様。
ベル〇らに出てくるアントワネット。
いや、むりむりむりむり!
仕事以外はすっぴんでスニーカーでジーンズ履いて、仕事行って帰ってバタンキューの社畜に、できるわけないじゃん!
「…………」
ヘルマンさんの両腕つかんで必死の形相で質問攻めにしてるのに、見下ろしてくるヘルマンさんはぽかんとした顔で。
しばらく後。
爆笑が教会の敷地内に響き渡った。




