お手伝いしました
朝食後、みんなその日のシフトによって出かけていく。
団長であるパパ、トビアス・ワーグナー
副団長であるインテリメガネさん。ベンツさんこと、ベネディクト・フィッツェンハーゲンさん
フーゴさんはじめ他数人が執務棟へ。
他の面々は実働隊である。
郊外の魔獣の間引き。
王都内の巡回。
緊急時に備えた待機組。
オフ組。
ちなみに待機組オフ組は最低半日の鍛錬参加が必須だそうだ。
この他に、国境周囲のぐるりに何か所か拠点があって、外から侵入してこようとする魔獣への警戒もしているらしい。
当然、そこに行っている人たちにはまだ会えていない。
要するに、第二は魔獣特化。時々、盗賊団とか第三では対応できない荒くれものたち相手にも駆り出されるらしいけど、ひたすら年がら年中何か相手にばっさばっさやっている、ということになる。
以上、教えてくれたのはベンツさんだった。
四歳児にこんなに詳しく教えるものだろうか。普通わからないよね? わたしはわかったけど。
説明聞いて、ふんふん頷いている四歳児を、さも当然とばかりに満足げににんまりしているのはなぜだろう。
ともかく。
人気のなくなった居住棟。
さあ、おしごとだ!
ドアを開ける。
バンバン開ける。
どんどん開ける。
きれいに整頓されてたり、足の踏み場なかったり、カオスだったり、それは様々。
中を見て、いくつかはもう一度閉めたけど、それ以外は開ける開ける。
とりあえず、今日は換気だ。
いろいろ乗り越えて、窓も開ける開ける。
「テングーしゃん、カモーン!」
ぴゅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ
ふう。
すっきりしたぜ。
そして、あちこち閉めながら、さっき、換気前に閉めたドアに大きなバッテンを描いた紙を貼り付けた。
「なんじゃ、まだゼロにならんのか」
箒片手に階段を上ってきたウルカさんの片眉が上がる。
「あとみっつなの」
「儂にしてみりゃ、あと三つになったってだけでも大したもんだがな」
「みっつもあったら、あっというまにもとどおりのじゅっこになっちゃうの! ダメ、ぜったい!」
床をカサコソ動くGなんぞ、撲滅だ撲滅!
「まあ、この間最後通牒したしのう。帰って来てから見ものじゃの」
掃除をするはずの箒をスチャッと構えて、浮かべる笑みはゴッドマザー!
やっぱり格好いい。
テング―のおかげで、廊下に吐き出されたほこりを掃除するというウルカさんに手を振って、今度は下に降りた。ここも手すりをもって一段ずつだから時間がかかる。早く大きくなりたいな!
「あ、エルちゃんだ。ちょうどよかった、お手伝いしてくれないかい」
庭先を走っていると、声を掛けられる。
洗濯場で、メイドさんたちが桶で汚れものと対峙していた。
「おてつだいする! なにしたらいいの」
「ここで踏み踏みしてくれると助かるんだけどね。腰痛めちまって」
「たいへん! おやしゅみしてて! わたしやるから!」
腰痛は安静が第一だ。だましだましなんてしてるとヘルニアになってしまう。
靴を放り投げて、泡が立っている桶に飛び込んだ。
ここには洗濯機なんてないから、洗濯板と足踏みが主流だった。今はシーツを洗っているらしく、他にも二人ほどお姉さんがバシャバシャやっている。
「ほら、前もやったみたいに、一、二、一、二!」
「こけないように、縁をもって一、二、一、二!」
「いっちにい、いっちにい!」
四歳児の軽い体でする足踏みなんて、たいして足しにもならないだろうに、こうしてかまってくれる皆様の好意をありがたく受け取って、たとえにぎやかしに過ぎなかろうと、やるからには一生懸命。
ばしゃばしゃやる度にしぶきが上がって、キラキラ陽の光を反射する。
水遊びなんてするの、どれくらいぶりだろう。
プールだって海水浴だって、学生じゃなくなったらすっかりご無沙汰だったし。
そんなこと考えてたら、お約束のようにずっこけた。
「キャー、エルちゃん!」
「大変大変、泡だらけ!」
引っ張り出されて頭から水をぶっかけられる。
なにこれ、楽しくない?
「なんだ、どうした!」
ケラケラ笑っていると、血相変えただんちょ、んにゃ、パパが突進してきた。
それを見るなり、メイドさんたちが洗濯板や小さな桶や、とにかく蹴っ飛ばされそうなものをささっと回収していく。すごい。
「びしょ濡れじゃないか、何があった!」
石段に座っていたわたしを抱き上げる。
「おけでこけたの。ぬれるの! だめなの!」
騎士服が濡れる濡れる!
洗濯物増えるから!
「すぐ乾く。それで何ともないのか?」
「ないよ。すぐたすけてもらったし、すぐながしてもらったもん」
「そーかそーか」
抱っこしたまま撫でられる。
いや、でも、なんでここに居るんだろう。お仕事中ではなかっただろうか。
「いや、悲鳴が聞こえたからだな……」
じっと見ていると、すっと視線をそらされた。仕事放り出して来たらしい。
「ごめんなしゃい。もっときをつけましゅ」
「団長、すみません……」
後ろでメイドさんたちも小さくなっていた。
「いや、かまわん。構ってくれたんだろう? 大人ばかりでつまらないだろうからな。もう少し大きくなったらおとなしくしたらいい」
「団長~」
返事にみんなウルウルしている。
「とりあえず、着替えようか。風邪でも引いたらいかん。おい、ウルカ!」
「はいよ。チビ、おいで。団長もその辺散歩でもして息抜きでもするんだね。そのうち服も乾くだろうさ。前だけちゃんと見るんだよ」
「……わかってる」
きまり悪そうに口をとがらせたパパの後ろで、メイドさんたちがくすくす笑っていた。
サクッと着替えて、もう一度外に出る。
いやあ、参ったわ。
ウルカさん、あそこで全部脱がそうとするんだもん。
いや、わかるよ? びしょ濡れだから、その場で片付けた方が楽なのは。
でも、やだわ~。お外でスッポンポンは、いくらなんでもやだわ~。たとえ体が幼女でも、ねえ?
ということで、騎士さんたちの水浴び場で着替えました。
この時間なら、誰も、来ないと、信じて! 秒で!
今度は調理場へ勝手口から回る。
お昼ご飯の用意だろう。料理人さんたちが忙しそうに働いていた。
「こんにちは! おてつだいないでしゅか!」
なにせ体資本の男が大半だ。食べる量も半端ない。つまりは作る量も半端ない。
いつ覗いても、誰かが何かの下拵えをしているのである。
「おー、来たかエルちゃん。そこに座って豆出してくれ」
料理人さんが指し示した一角には、鞘つきえんどう豆が入ったカゴと、小さな木の椅子が置いてあった。
「りょーかい!」
椅子に座って、ポロポロ豆を出していく。
最初は野菜の皮むきでもと思ったんだけど、よく考えたら、ピーラーでしか剥いたことなかったので断念した。
ちゃんと包丁持てるようになったら、練習してみようと思います。
出来合いとレンジとオーブントースターで、日々の食事済んでたからさ。
まったくできないわけじゃないのよ? コンロでの料理ができないだけだから。
レシピ見ないと作れないけどね~
だからこの際、文明の利器がない調理方法を習得してみようと思うわけです。
今のままじゃ、転生あるあるの料理チートなんて夢のまた夢だし。
いつかはみんなに卵焼き作ってあげるんだ!
やること一杯だー。がんばるぞ!
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道子さん、根が社畜。
のんびりできない人。




