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まずは設定からですか?  作者: 天野 陽羽
〜ろ〜
54/72

お仕事しました

 じゃじゃ~ん!


 エルシア・ローゼルート・ワーグナー



 爆・誕!!





 ……なんか変なミドルネームがくっついてるけど、まあ、深くは考えまい。



 なんだかんだありまして、今わたしはそういう名前になって、第二騎士団の居住棟に住んでいる。

 わたしが養子になった途端、だんちょー、とと、パパは、隊舎から出て王都にある屋敷(!)に引っ越す計画を立てたらしい。

 だがそれは、第二騎士団全員総出の反対にあったそうだ。

 かなり、かなーり、往生際悪く抗ったらしいけども、最終的にこのわたしの一言に敗北した。


「ちがうおうちにいったら、おにいしゃんたちまともにできないの。おにいしゃんたちをまともにしゅるのが、わたしのおしごとでしょ?」


 そこまで頑張る必要ないとか、仕事なんて建前だとか、わめく口をベンツさん、インテリ眼鏡の副団長さんに塞がれてたけども。


 ついでに言うと、

「俺たち、まともじゃないんだ………」

 と、他のみんなも崩れたらしい。

 なにを今さら。


 居住棟の二階三階が居住区、一番下が共有スペースと、使用人居住階。

 わたしが今までお世話になっていたカチュアさんの部屋は、二階にある個人部屋。

 だんちょー、いやえと、パパも、そこの大きな部屋に住んでいた。

 今回、三階の家族対応部屋に移動した形である。


 ちなみに他に執務棟があるそうだ。


 建物自体は、なんとなく日本の学校の校舎をヨーロッパ風に味付けした感じ?


 コンクリではなく、石と木材。光を通す場所は、プラスチックもアクリルもないからみんなガラス。

 光源は火と魔石(!)。熱源もしかり。

 上水道と下水道は完備されてます。素晴らしい!

 布製品はもちろん綿中心。無地ばかり。

 衣類とかにある装飾は、みんな刺繍! レースは手編み! キラキラビーズはガラス? ガラスだよね?

 

 ……この間、ドカドカ着せられた煌びやかなピンクのドレスたちは、一体どれだけの労力の賜物なんだろうか。ていうか、きっと高いよね!

 良かった、破いたりしなくて。

 


 隊舎に居る使用人さん達とも仲良くなった。

 今まで、見かけたことなかったり、会っても話したことがなかったんだけど、ちゃんと紹介してもらった。


 案内やら紹介やら。

 こうしてみると、今まではやっぱり『一時預かり』状態だったんだなあと思う。

 王立騎士団の内情を、そうほいほいばらすわけにはいかなかったんだろう。その辺りの情報統制の観念はしっかりしていたようだ。安心安心。

 てか、王立って……

 ここ、王国だったのね。初めて知ったわ。王様とか王子様とかいるんだね。お城もあるのか。すごいファンタジー。


 まあ、とにもかくにも。

 

 めでたく、第二の、構成員に、なったぞ、バンザイ!




 さあ、バリバリ働くぞ!



++++



 だんちょ、パパの隣の部屋に与えられた自分の部屋で目を覚ます。

 ピンクから変えてもらった淡い青をメインにした壁紙。ふかふか絨毯。

 これまた白とピンクで統一されたものが選ばれそうになって、木目主体に変えてもらった小さな家具たち。

 ずいぶんとこざっぱりとした子供部屋になった。

 ピンク嫌いだし! 花柄とかレースに囲まれて生きるのって、アラフォーにはつらいものがあるのよ。主にメンタル的に。

 カチュアさんがものすごく反対したけど、意見は押し通させてもらった。

 首傾げて上目遣いで「ダメ?」って言ったら、解決した。美幼女すごい。


 寝間着を脱いで、簡単なワンピに着替える。踏み台使って顔を洗って口をゆすぐ。髪はブラシでさっととく。編んだり結んだりはしたことないのでできません。小中高、仕事に邪魔で、ずっとショートだったので。


 そして、晴れていることをガラス越しに確認してから、サクッと窓を外へと押した。

 朝の清涼な空気が流れ込んでくる。縁に手をついて乗り出すと、昇りかけの朝日が木立の向こうに見えていた。


 パンパン!


 柏手二つ。


 今日もがんばります!


 気合を入れると、ぶわっと風が吹き込んでくる。

 せっかくすいた髪をぐしゃぐしゃに巻き上げながら、ふよふよがなだれ込んできた。それも、背中(?)にちっちゃい黒い翼をパタパタさせているふよふよ、テングーたちだ。ぐるぐる周りを回って、スカートも襟も全部バサバサにしてから、ささっと窓から出て行った。

 彼ら流の挨拶らしい。

 ……明日から、これ済んでから着替えよ。二度手間だわ。


 やれやれと、手ぐしで髪をすきながら振り返ると、今度はテングーたちに吹き飛ばされて部屋の隅に追いやられたであろうスリッパが、ずりずりと絨毯の上をこちらへ移動してきていた。ちっちゃい足がついたふよふよ、五個一組によって。

 足元に一足きちんと並べて、シュタタッと散らばっていく。

 ヤナリーズ、働き者!


 せっかくなので、そのスリッパを履いて廊下に出る。

 そして、手すりをしっかりつかんで、一段ずつ降りていく。

 目指すは階下へ続く個室階の廊下。起きてきた騎士さんたちが食事や洗面のために一階に行くには必ず通らなければならない場所。

 ひっくり返したリンゴの木箱が置いてあり、そこに立つ。

 前にはずらっと起きたばかりの騎士が一列に並んでいる。

「おはよーごじゃいます」

 ペコリと頭を下げれば、ぴょこぴょこと相手も頭が上下した。

「ではよろしくおねがいしましゅ。はい、いちばんのひと!」

「は、はい!」

 先頭のお兄さんをサッとみる。

「おひげのこってるの。めっなの」

「そっかー。めっかー。剃ってくる」

 回れ右して洗面所。

「はい、にばんめのひと!」

「おー」

「おかおギトギトなの。めっなの」

「ギ……、めっは可愛いいのに。洗ってくる」

 なんか半泣きで洗面所。




 皆さん、『めっ』が楽しいらしい。


『髭剃り残し。アウト!』

『油ギッシュにも程がある。アウト!』


 しか言っとらんっつーの。

 誰だ、この幼児語自動変換機能の辞書組んだの。

 恥ずかしいわ!


「しゃんばんのひと!」

「はいはい。ゴシゴシピカピカでツルツルだぜ!」

「ぼたんにこじゅれてるの。めっなの」

「あれー、ズレてたか。いやあ、参った参った。あっはっは」

 なんか棒読みで離脱していく。




『参った参った』じゃねーわ。

 ヘラヘラすんな。Mか?



 そもそも、最初はこんなんじゃなかった。

 初めの頃のように、手すりのところにいて、通りがかった騎士さんたちに注意してたわけよ。

 そしたら、毎朝「今日はどう?」って聞いてくるようになって、人数増えて、大渋滞。

 五日目くらいから、今の形式になったのよね。

 高校の校門指導みたい。


 しかし、もう十日になろうというのに全然減らないのはなぜ?

 最近、服が裏返しとか、前後逆とか、ありえないケースも出てきてるんですけど?

 前みたいにダラダラじゃなくて、時間決めたから、起きてからの余裕がないせいかな。それだったら、早く起きろとわたしは言いたい。


 いやいや。

 焦ってはダメだ。

 急いては事を仕損じると言うではないか。

 こういうのは、じっくり長い目で見なければいけないのだ。

 新人教育やった時を思い出せ!



「あ~、エルちゃん、また一人で降りてきてる。もう、危ないからお兄ちゃんが迎えに行くからって言ったでしょ」

 ふんす、と意気込んでいたら、ひょいと、フリッツさんに抱っこされた。

「でも、みだしなみチェックはおしごとなの。みんなみなきゃだめなの」

「一生懸命なんだね。えらいえらい。じゃあ、明日からもっと早くに迎えにいくからね。一人で降りちゃダメだよ?」

「でもはやおきするのしんどくない?」

「しんどくない! ぜんっぜん! こっち心配するとか、もういい子!」

 なんか、ぎゅうぎゅうされてます。


「そうだよねえ。エルちゃんはお仕事一生懸命しているだけだもんね。つまりはほら、チェックする必要がなくなったら、エルちゃん、早くに一人で階段降りなくていいわけだ。わざとの野郎も増えてきてるし」

「……? なあに?」

「なんでもないよ。ちょっと、今日の訓練の時に、ぼくからもきちんとしなきゃダメだって注意しとくよ」


 にぃぃぃっこり


 そう言ってさわやか王子さまは、アイドルスマイルを浮かべていた。

 うん?

 そう?


「ありがとー」

「どういたしましてー」


 抱っこされたままハイタッチをしたのだった。


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