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まずは設定からですか?  作者: 天野 陽羽
〜い〜
52/72

厳かなるあれこれ 壱(神々side)

 ずる、ずる、ずる……

 う~、あ~、は~……


 持ち上げることもできず、不可抗力で何かを引きずる音。

 その音とともに、思わずこぼれ出ているような各種の声音。


 それらを発生させながら、彼らはようやく目的とするドアにたどり着いた。


 あげるも億劫な手を伸ばし、ノブを廻す。

 そして、倒れこんだ。

 床に、そのまま、全員が。


「うわ~、悲惨~」


 部屋に待機していた少年のような一柱が、手をかざす。

 柔らかな光があたりを満たし、ようやく倒れ伏した者たちは手を支えに身を起こし、ソファーへと沈みこんだ。


「やっと、やっと終わった。今日という日が……」

「虫はやだ。数多すぎ。やってもやってもずっとバッタ……」

「虫なんてまだいいでしょ。見えるんだから。微生物、見えない。入れるのなんて、もうカンよ、カン。きっと、たぶん、入った!」

「あー、わかるわかる」

 力ないながらも笑いが起こる。


 魂と入れ物、二つ一組でずらりと並んだそれを順に入れていくのが、中級神の主な仕事である。

 虫や微生物などは数が多すぎるので、無になり手を動かさなければ終わるものではない。


 そこへ行くと、人は少ない。

 あくまでも『比べれば』ではあるが、息をつく暇くらいはある。

 だが、虫や微生物と違って文句を言う。おとなしく入ってくれない。

 次の入れ物が気に入らないとか、死んだことが理解できていないとか、死んでも思いが残って魂だけで戻ってやる、とか。そういう問題を起こすのだ。

 あの手この手を駆使して説得し、口先三寸で丸め込み、入れ物に入れていく。その苦労と言ったら筆舌に尽くしがたい。一日が終われば、燃え尽きたようにぐったりだ。

 一番不人気なシフトだった。




「もう、今日は『カラ』があって大変だった……」

 ひと際やつれてソファーに埋まりこんでいる一柱のつぶやきに、その場に居た全員、同情の視線を向けた。

 

「で、でもさ。そろそろ、ヤマトが調達候補だったんじゃないか?」

「俺もそう思ったさ! でも、リストの一番下になってたんだ! チクショー!」

「うわ、いつの間に…… 一番下じゃ、ごまかすこともできないか。不運だったな~」


 悔しがる神に、慰める神。


 その神々の会話を、少し離れたところでダルマクはドキドキしながら聞いていた。

 ヤマトが最後尾に回った理由。

 もちろん、あれである。

 愚弟のやらかしは、兄の責任。必然でないのに『ヤマト』を使ってしまったことがばれたら、総スカンだ。



「ああ、でもさ。最近、スムーズには進むんだよな。リストがすぐに届くから」

 重苦しい雰囲気を変えようとしてか、とある神がいきなり脈絡もなくそんなことを、明るい口調で言った。

「そうそう。リスト待ちのタイムロスがないからなあ。落としても、拾って戻すしな」

 他の神ものる。

「『風精(ヴィンガス)』だろ。最近よく見るようになったあれ」

「知ってるか、数が増えると物も運ぶんだぞ。この間、3匹ぐらいで書類を運んでた」

「まじか」

「もう一つの方『家精(ハウスガイス)』だったか、あれも助かるよなあ。髪が邪魔だと思ったら結い紐持ってきてくれるし、インクがなくなったら補充してくれるし」

「喉乾いたってぼやいたら、お茶はこんできたぞ」

「まじか」


「ダルマク、あれ、お前が呼び戻したんだって?」

「え? ええ。そうなんですよ。下に行ったときに見かけまして。お役に立っているようで、何よりです」 

 話を振られたダルマクは、それまでの強張った顔を崩し、少しばかり得意げに、そう答えた。


 


 彼女の呼びかけで、『風精』と『家精』が動き始めた。

 ヤマトの神が彼女にそんなことを言っていた気もするが、そんな簡単に行くかと話半分で聞いていたら、まさかだ。

 下で動き始めたら、上でも起きた。ある時突然、ふよふよふわふわ漂い始めたのである。

 精は基本神に付くものだ。

 彼女に最も多く関わった神族は良くも悪くもナタルである。彼女にはナタルの神力が色濃く残ってしまっていて、その神力をたどったのか、まず初めにナタルの周りに群がり始めた。

 ナタルはお仕置きとして殿舎の掃除中で、最初は気味悪がって追い払おうとしていたのだが、周りに居た神たちの会話から精だと知ったとたん、いろいろ察していい気になったに違いない。それはそれは得意げに胸を張り、偉そうにしはじめた。苦しゅうない。そんなセリフが聞こえてきそうだった。そしてそれはとても目立っていた。

 それを目にした時の気持ちを考えてみてほしい。


 見習いに過ぎないナタルがそんなことになっていたら、不審に思われる。

 ヤマトに対してやらかしたポカがばれたら、袋叩きもいいところだ。

 故に、ダルマクは咄嗟にナタルを蹴り飛ばし、体の位置を入れ替えた。そして周囲には、自分が呼び寄せたのだとごまかした。

 人の管理を任せられるダルマクは、中級神の中でも上位だ。みな、あっさり信じた。


 メッセンジャーに使える『風精(ヴィンガス)

 なにげない気遣いを見せる『家精(ハウスガイス)


 多忙な神々は大喜びである。


 通りすがりにお礼を言われたりして、最初は後ろめたかったのだが、最近はもう慣れた。


「いやいや、どうってことないですよ。あはははは~」


 ニコニコ対応するその様は、なるほど兄弟である。


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