自分勝手も甚だしい(副団長)
「まったく」
私は深々とため息をつきました。そして、眼下に雁首揃えた面々を見下ろします。
「あの子はまだ小さいんですよ? それを大の大人が寄ってたかって振り回すなど」
結局、エルシアは気絶してしまい、今は医務室でオイゲンに診てもらう羽目になりました。
「待てい。こやつらはわかるが、なんで儂まで連座じゃ」
団長とティアナと並んで、床に正座をしているウルカが不平を漏らしました。
「とどめを刺したのはあなたの大声でしょう。叫ぶ前に状況を見てください」
「うっ」
年寄りを床に座らせているのは、普通は好ましくありませんが、ウルカですので問題ないでしょう。本人も自覚があるようで、顔中しわだらけにしてもごもご言っていますが、反論はしてきませんし。
「それで、ティアナ」
三人の真ん中、わたしの正面に居る妻を見下ろしました。ピクリと肩を揺らし、そろ~っとこちらを見上げてきます。
「いったい何がどうなってあんなことになったのですか。私は、もうすぐ手続きも終わることを団長に伝えて、諸々の用意をしていただくようにお願いしたはずですね」
「そ、そのつもりだった。だが、あんなに可愛いだなんて聞いてないぞ!」
それはそうでしょう。言ったらすかさず突撃しかねませんからね。それどころか拉致を企てたでしょう。そして先ほどの様子を見るに、それは英断だったと自負します。
「だから、ちょっと冗談で『うちに来る?』って訊いたら来るって言うから、連れて帰ろうとしたんだ。何が悪い!」
「え? あの子がそう言ったんですか?」
「ああ、そうだ。孤児院や弟子入りや下働きよりずっとマシだろう。そんなものに出すくらいならうちが貰うと言ってるんだ。文句は言わせんぞ」
「は、なんですか、それ」
「あの子はそのつもりで用意して出てきてたぞ。そう言い含めてたんだろうが」
「してませんよ!」
続くティアナの発言は、団長にとってはことごとく寝耳に水だったらしく、最後には蒼白になって絶叫していました。
いや、実際、私もそんな話は聞いていませんし、大体……
「「「「「「「「はんた~い! 反対反対反対、ぜったいはんた~い!!!」」」」」」」
ドアから雪崩打って来ましたしね、反対勢力。
とりあえず、立ち聞きなどマナー違反ですので、後ろに一列ずらりと正座です。
「それじゃあ、追い出すような話はしてないのか」
「してません」
「はんた~い」
「癒しなのに」
「お姉ちゃんだけズルい!」
「お兄ちゃんじゃなくなるのはイヤです」
「まだ謝れてないんすよ~」
「名誉挽回させてぇ」
「外野は黙りなさい」
ティアナと団長が膝を突きつけている後ろから発せられる騒音を黙らせます。
まったく、自分勝手な理由ばかりですね。
もっとこう、広い心にはなれないものなのでしょうか。
「団長にその意図はない、という事でいいんですね?」
「あたりまえだ。あったらあんな頼み事はせん」
ですよね。あって、その上であのような面倒くさいことを命令してきたのだとすれば、反旗を翻しますよ。
「もう一つお聞きしますが。もし、彼女がそれを望んでいたら、どうしますか?」
こちらも、団長に頼まれていろいろ手配はしたのですが、彼女にはなにも説明していなんですよね。
四歳という年齢もあり、しても理解できないだろうと思っていましたし。
しかし、この感じだとずいぶんと利発な子のようです。
確認してみてもいい気がします。
そして、返ってきたのは静寂でした。
みな、その可能性を全く考えていなかったことが丸わかりで、固まっています。
とにかく、後は彼女の目が覚めてからということになるでしょうか。
もし、彼女がトビアスの思い付きを拒否したら、どうするんでしょうね。
それこそ、ティアナがお持ち帰りをしそうです。
それだけは。それだけは、断固阻止です。
彼女にはここに居てもらわなければ。
やっとまともになりかけた第二を、再び無法者の巣窟に戻すわけにはいきません。
こいつらの尻拭いばかりしたくないんです!
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ベンツも同類。




