みんなハッピー (いろいろ)
いまだ、検挙のあわただしさが続く最中、団長室へと呼び出しがかかった。
やっとか。
出費もかさんだし、手間もかかった。
だが、結果として物証を発見して罪を確定、検挙へと導いたのは一課だ。ひいては私だ。
つまりは、私の手柄なのだ。
それにしても、あの中の誰かは結局わからずじまいだったが『高額取引の場にいた子供』がさっさと白状さえしていれば、ことはもっと早くに済んだのだ。奴隷商人どもは、わざと商談を見せつけて、自分の立場をわからせるという話だったからな。変に知恵がついていうことを聞かないあいつらのうちの誰かだったはずなのに。どいつもこいつもとぼけて舌を出す、しぶといガキどもだった。まったく忌々しい。
大体、最終的にあいつらはあの館に売り飛ばすつもりだったんだ。
証言を取って、保護者に返す名目の馬車ごとやつらに襲わせようと思っていた。所詮低俗な奴らだ、商品の補充のために動くだろう。しかも、自分たちの内情を少なからず知っているガキを、放っておくはずがない。道筋さえ漏らせば勝手に襲っていただろう。なのに、団長が変に気を回して護衛などつけたお陰で大損だ!
最終的に手元に残せたのは、あのチビ一人。あいつもいちいち鼻につくやつだった。実入りも大したことはなかったし、返す返すも腹立たしい。
だが、ワーグナーにも汚点をつけてやれたことだし、まあ、悪いことばかりではないだろう。奴隷商とのつながりを捏造して引きずり落すつもりだったが、あのガキが言うことを聞かずそこまで持っていけなかったことだけが残念だ。
しかし、これで終わりにはせんぞ。
いまに、見ているがいい!
団長室の前に立ち、その扉をノックする。
褒賞か、昇進か。副団長への打診かもしれん。
さて、いったいどういった用件だろうか。
++++
なあなあ、聞いたか? あの噂。
噂? どれのことだ?
あの、牢屋のさ。
あ~、あ、あれ、な。 ぶふっ
あ、なんだよ。てことは本当なのか!?
お、おれ、この間、取り調べの補助だったんだ。す、すごかった、ぜ……っ、げほっ。なんせ、床一面、毛虫……っ。
毛虫? 俺が聞いたのは小麦粉で全員隅から隅まで真っ白だったって奴だぞ?
あ、もしかして、あの牢屋の話か? 例の奴隷商人の一味が入れられてるやつ。
奴ら、最初はギャーギャー威勢が良かったのに、寝ぼけるわ漏らすわ、情けねえったらありゃしねえ。しまいにゃ誰も居ねえのになんか居るってビクビクしやがってよ〜。取り調べもしてねえのに、なんでも話すからここから出してくれって泣いてやがったんだぜ?
笑えるよな〜
トドメが小麦粉と毛虫か〜
やってねえことまで白状しそうだな、おい。
同じ建物でも、他の事件のやつらはなんともないって話だしなあ。なんかの恨みでも買ったのかね。
買ったんだろ、きっと。人を売り買いするような奴らだぞ。買いまくりだろ。
あれ?
どした。
いや、俺この間、団長について、特牢に着いて行ったんだよ。そーいや、あっちもなんかげっそりしてて………… 毛がなかったんだよ。あれもその類かね?
毛って。そりゃもとからだろ。
いや、少なかったけどあっただろ。でもなかったんだよ。なかったどころか、瘡蓋だらけでさ。一面。いや、一面どころか、全部………… なんか、なかった気がする。一本も。
…………全部?
そう、全部。あるはずの毛が、一本も。
…………
恨み、買ったのかね。
買ったんだろ。きっと。
『ウ~ラ~メ~シ~ヤ~!!!!!!!!!』
++++
やれやれ。
バカな奴だね。
取引の場にいた子供。
あんな目立つところに飛ばしてやったのにさ。
一番騒ぎ立てて、いちばん捜査の足を引っ張りそうなところ。
どーして気づかないかなあ。
案の定、団長、対処にてんてこ舞いで、胃薬の量、増えてたし?
だいたい、近衛の奴らって偉そうで嫌いなんだよ。優雅なお茶会が台無しになっていい気味だ。
まあ?
あの赤ん坊だとわかったとしても、何も聞き出せやしないだろうけどね!
なんせ、赤ん坊だし。おんぶされてただけだし! ふふっ。
さあて。
時間稼ぎができたおかげで、きれいに切れたのはいいけど、稼ぐ手段が減ったなあ。
『幸せ』にしとかないと、神様が余計な気をまわすし。
のんびりしといてもらわないとね~
どうしようかな。




