小型はもっと可愛かった(第三騎士団長)
「失礼します。第二騎士団長トビアス・ワーグナー、要請に従い出頭しました」
普段はほぼ対等に話すが、今回は出頭要請に応じた立場を考慮したのか、いやに畏まった口調の言葉が、ノックに続いてドアの向こうからした。
「入ってくれ」
「は」
返事と同時に入ってきた男は、相変わらずデカかった。
頭半分は背は高いし、幅も厚みも二回りは大きい。第二、第四は総じてこんな奴らの集まりで、貴族中心の第一、捜査中心のうちとは一線を画している。
こいつが来ると、部屋が一気に狭くなった気がするんだよな……
「すまんな。というか、昨日はどうした。魔獣を片付けてもらったのは助かったが、なぜ途中で居なくなった」
「すみません。急を要する事態になったので……」
出動直前に乗り込んできたかと思えば、現場に連れて行けとごねて、交渉中にも押し退けて飛び込もうとするし、突然突撃して魔獣を始末した途端に、部下ともども姿を消した。
あまりの猪っぷりに、呆れる他はない。
「もうしわけありましぇん。たぶん、わたしのしぇいなんでしゅ。だんちょうしゃん、わるくないでしゅ」
ーは?
俺は、まじまじと、正面の男を見た。
短く刈り込んだ銀の髪、鋭い碧の瞳、角ばった顎に深い眉間の皺。
見た目は整っている方だろう。いかんせん、ゴツすぎる身体と『第二』という圧が凄すぎて、男女問わずに恐れられている男である。
なんだ、さっきの舌ったらずの声は。
「ワーグナー、お前、そんな芸ができたのか」
「え。いや……っ」
「だんちょうしゃんがしゃべったんじゃないでしゅ! しゅみましぇん、したでしゅ!」
下?
ワーグナーがいる。
正確には、『洗礼式当時の』ワーグナーだ。
その年に五歳になる爵位持ちの子供が一度に集まることになる式典に、学園生の時に駆り出された。その時、飛び抜けて可愛らしい男の子がいると、女子生徒が大騒ぎをしていた相手がワーグナーである。
確かに、すこしつつけば泣き出しそうな線の細い美少年だったよ。あの時は。
そのワーグナーをもう少し小柄にして、性別を変えたらこうなるだろうと思えるような少女が、ワーグナーの脚の陰から顔を覗かせていた。
「……娘か?」
「まだです」
まだってなんだ。そうだと言われても疑わんぞ?
「とつぜんおじゃましてしゅみません。エルシアといいましゅ。こちらにたいざいちゅうは、パウリーネしゃんには、たいへんおしぇわになりました。どうもありがとうごじゃいました」
ワーグナーの後ろからちょこちょこと歩いて姿を現した、ふわふわのピンク色のワンピースを着た少女が、両手を前に揃え、深々と頭を下げた。
「お、おう」
かわいいな、おい。
訂正しよう。ワーグナーそっくりではない。ワーグナーより数倍かわいいぞ。
あ。
まじまじと見下ろしている内に、はたとある可能性が思いつく。
「おい、ワーグナー。もしかしてこの子が」
「ええ、そうです」
「お前が引き取って奴隷商人に売ったって言う子供か」
「ここから攫われて奴隷商人に売られた子供です」
「……は?」
「そういう事になってるんですか」
「いやいやいや待て。ここから攫われたってなんだ。引き取り先が見つかるまで第二が保護してたんじゃないのか」
「無関係だからダメだと言ったのは団長でしょう」
「それをごり押しして無理矢理引き取っていったと言ってたぞ」
「誰がですか」
「カールハイトだが?」
「しょれ、いっかのかちょーしゃんでしゅか」
声に見下ろせば、少女が思い切り眉間に皺を寄せてこちらを見上げている。
そんな顔も可愛いでしかないな。正面でワーグナーが胸を押さえて唸っている。
「ああ、そうだよ? それがどうか……」
「わたしうったのかちょーしゃんでしゅ」
「は」
「ここでひとりでおへやでねてるときに、ふくろにつめてはこんでわたしておかねもらって、『わたしはとびあしゅわーぐなーだ』っていったのかちょーしゃん」
胃が……
胃薬をくれっ!




