一斉検挙したものの(第三騎士団長)
やっとのことで突き止めた、奴隷商人の首魁と目されるテーラーの一斉捜索が、ついこの間、捜査一課によって行われた。その場にいた店員を全て確保、客は一人残らず任意同行。書類や帳簿などは全部押収。それを片っ端から調べていると、奴らも危機を感じていたらしく、近々高跳びをする計画を立てていたことがわかったらしい。これはなかなかギリギリだったんじゃないか? そう胸を撫で下ろした矢先、その逃亡資金を調達するために、最後に大掛かりな売買を行う予定があることが判明したという。
しかもそれが発覚当日!
間の悪いことに、カールハイトが急遽休みを取って不在だったということもあり、俺が代わりに一課の実働隊を率いて、現場に踏み込んだ。
そこは、一見、なんということはない高位貴族の別邸に見えて、内部構造は呆れるほどに異常だった。
美しく整えられた庭。点在するガゼボ。そして建物に沿った小道。この小道がまずおかしい。普通、こういう端に位置する道は使用人が通るもので、それゆえに通ることができればそれでいいという程度のもののはず。だというのに、道幅は広く、色とりどりの花が咲き乱れ、ベンチまで置いてある。そのベンチが、建物の窓一つに一つだ。
そしてその窓が、大きく開け放たれ、風を取り入れることも身を乗り出して庭を眺めることも自由にできそうなほどに大きいのに、魔術障壁が設置されている。
ベンチに座れば、なに隔てることもなく、部屋の中が眺め放題だ。
そしてその部屋。
ひとつひとつが美しく整えられているのだが、まるで統一性がない。ある部屋は花柄の壁紙にぬいぐるみがいくつも置いてあるのに、その隣は壁一面の本棚に床に散らばる書類。そして、そのインテリア全てが動かせないときた。ベッドの寝具もぬいぐるみも本棚の本も机の上の筆記具も、全てが固定されていた。用意されていた飲み物も果物も、全てが精巧な作りもの。
そして、窓に対する側の壁は、鉄格子だ。
ショーケース。
誰かが言っていたが、言い得て妙で。
実際、そうした部屋のいくつかに、その部屋の雰囲気に合わせて飾り立てられた子供や女が入れられていたのである。
道をそぞろあるきながら部屋を覗き、ベンチに腰掛けて品定めをして、商品を選ぶ。
まさにそのためだけの館だった。
反吐が出る。
おまけに、戦闘員は居るわ魔獣まで飼っているわ。
捜査検挙を主とする、穏健なる警察には少々荷が重かった。こんなことなら、一課だけでなく、特殊の4課も連れてこれば良かったと思っても後の祭りである。誰が残党の逃走資金確保の即売会があるという情報で向かった先がこんなだと思うよ?
無理やり第二がついて来ていたのは、幸運だったと言うほかはない。
あいつらが来ると、一の小競り合いが百の戦争になるから、来させたくはなかったんだが、圧力に負けた。死ぬかと思った。
だがそのおかげで、群れで襲って片端から腹に噛み付いてくるヘルハウンドも、腕の一振りで十人は薙ぎ倒すファングベアも、上空から急降下しては獲物を掴み、上から落として殺すカルテットホークも、あっという間に始末できたのだから、文句は言うまい。
ただ、もう少し小綺麗にやってくれんかな。少しだけ、そう思う。
そして今。
その第二騎士団のことで、頭を悩ませている。
今日は出勤だった捜査一課長 ヒルデブレヒト・カールハイトが、朝一番で駆け込んできたのだ、喜色満面で。
余程の好情報でも見つかったのかと思えば、顧客名簿を差し出して、
「これを見てください!」
近々に結んだ売買契約者の欄に、『トビアス・ワーグナー』とあったのだ。四歳女児を売った者として。
「団長! やはりワーグナーは、こういうやつだったのです! 粗雑で横柄で礼儀を知らない。四歳児とは、件の女児に違いありません。無理矢理引き取って行ったのは、こうして売り飛ばすためだったのですよ! なんとしても阻止すべきでした! 力及ばずこのような事になったことが悔やまれます。このような輩が団長職にあるなど、許し難いことです!」
カールハイトは唾を散らす勢いだ。
……今はソレじゃないだろう。
というか、結局のところ押し負けたんだな。根性無しめ。
まあ、俺もあいつらに凄まれたら負ける自信があるけどな!
「別邸の調べはどうなっている」
その辺りは後で確認するとして、改めて進捗状況の報告を促す。
「私の指示で、順調に進行中です。これまでも、私の指示で調査を進めた結果、奴隷の監禁場所を突き止め、裏に潜むテーラーに辿り着いたのです。テーラーの客の中にも関係者が居るでしょう。見ていてください。それを必ず見つけ出すようにと、しっかりと、私が、指示を出しておりますから、近々辿り着くでしょう。このような! 騎士にあるまじき! 行いをしていた! 下劣な輩を! 見つけ出したように!」
「わかった。これは預かる。捜査に戻れ」
「では、早速ワーグナーを呼び出して尋問をするのですね!」
「バカもの! そうじゃない。とにかく、お前は、別邸の、捜査に戻れ!」
また目をギラギラとさせ始めたカールハイトの手から名簿を抜き取り、追い返した。不満露わに出て行ったが、こんな名簿一つで決めつけられるか。
……ここまで、捜査がずるずる延びていたのも、その指示の結果だろうに。なぜにああも自信満々になれるんだろうな。
いろいろと話を聞くに、どうにも子供たちから証言を引き出すことだけに固執していたらしい。押収物の洗い直しも手をつけたのは最近で、そこから件のテーラーの情報が見つかった。捜査が進んだのはそこからだ。
苦情の対処に手を取られていたばかりに、後手に回ったことが悔やまれる。
ため息をつきつつ取り上げた顧客名簿を見た。
ーー第二騎士団長 トビアス・ワーグナー (エーバー)
確かに、検挙前日の日付にそう書いてある。
……後ろ暗いことをする時に、役職まで名乗るか? ご丁寧に、通称まで添えて。
馬鹿馬鹿しいことこの上ないが、それでも一応は確認を取る必要はある。
第二騎士団に向けて、昨日、挨拶もせずにいなくなった不届き者に出頭要請を行った。
あー、胃が痛い。




