目標決めました
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「………どこ?」
ぽやぽやしたまま起き上がった。
ぼ~っと周りを見回してみる。
まず、ベッド。木のベッド。布団の類いは綿だな。
壁、板壁。床も天井も板張り。窓は木枠に板ガラス。網戸はなし。机、椅子、本棚、木。照明は、ガラスのホヤがあるだけ、電球はなし。
………これだけでも、違和感半端ない。
人工物がまったくない自然素材だけの建物なんて、材料費人件費建築時間、一体どれだけかかるやら。道楽にしても度が過ぎるでしょ。
現実的にあり得ないわ。
視線を落として自分の手を見る。
………ちっちゃい。
ベッド脇の鏡を覗き込みながら、ほっぺをペシペシ叩く。
幼女だね。
どーしてこーなった。
観光に来たナタルの野郎に体当たりされて、体から魂弾き飛ばされて、そのまま戻してくれればいいものを、戻せるって知らなかったヤツは、魂を自分の世界に放り込んで証拠隠滅を謀った。
ほっときゃ消滅すると高をくくって放置(許すまじ!)している間に、何かに入り込んで入れ物をゲットした私は自力で体のセッティングをしたらしい。『子供を蹴り飛ばした!』でこどもに。青い空を見た次に見たのが、団長さんのドアップだったので、この色合いの人間になったんだろう。という説明は、受けた。
受けたけど! さ~………………………
今ひとつ実感が湧かない。他人事のように、「あらそう、大変だったね」と思ってしまう。大体、自力で外見作ったってなんじゃそりゃ。その前に、何に入り込んだ、わたし!
だが、目の前の手は意志に従いグーパーするし、叩いたほっぺは痛いので、夢じゃないこともわかるけど。
………待てよ?
じゃあ、最初に会ったのが蝶々だったら蝶々になってたのかな。蝶々のこども……… 毛虫っ!?
わ~! 団長さんだっけ? 見つけてくれてありがとう!
あの人アップで見たから人間になれたのよね? でなきゃ、毛虫でプチっとされて、一瞬で終わってたかもしれない。
団長さん、恩人だよね、大恩人!
よし、恩返しをしよう!
受けた恩は返さねば!
こんな訳の分からない状況で、生きていくには目的が要る。
恩返し。
とりあえず、それが目標だ!
おし!
+++
「あれ、起きた?」
一人でふんすと張り切っていると、薄く開けたドアの隙間から、 お姉さんが覗き込んできた。栗色の髪をキリッと上げた、つり目がちの美人さんだ。お兄さん達と同じような制服らしきものを着ているので、お仲間だと思われる。
そばまで来ると、ペタリと掌を額に当てて、
「熱はない、と。顔色がちょっと悪い、かなり痩せてるねえ。お名前、言える?」
『可愛く『なにも覚えてませ〜ん。知りませ~ん。うふっ』ととぼけるように。そうしたら、名前もつけてもらえるし身の振り方もどうにかなるから!』
というアドバイスというか指示をダルマクさんから受けている。『うふっ』ってなんだ『うふっ』って。
というわけで、可愛くなってるか甚だ疑問だが、黙ってこてんと首傾げてみた。
アラフォーに幼女の演技は難しいんだよ。
「うっ………… え、えーとね、お年はいくつかなあ?」
…………何歳なんでしょうね? こっちが訊きたいです。もひとつ首を傾けてみる。
「か………っ」
お姉さん、顔真っ赤になりましたよ? くわっと見開いた目の圧が凄いんですけどっ!?
「おー、起きたか。………って、カチュア何やってる」
「団長! だってヤバくないですか? この子! 本当に第三に渡すんですか? ここで飼いましょうよ!」
「飼うって言うな、保護と言え。しょうがないだろう、あの件の関係者かもしれんし」
「だって、何も覚えてないっぽいですよ? 名前も年もわからないみたいで!」
「何?」
団長さんが、近くの椅子を正面に持ってきて腰掛ける。
「名前、言えるか?」
「………」
首、傾げてみた。
「う…………っ」
団長さんも唸って片手で口を隠してそっぽむいた。
反応が面白い。なんだこれ。
「ほら〜、ね? ね? 囲いましょう!」
「囲う言うな。ん〜、と、とりあえず、食うか?」
膝の上に、見るからに大きなやつを細かく切り分けました的な、二口サイズのバラバラサンドイッチが乗った籠が置かれる。
見た目はともかく、お腹は空いてる。この体、ちゃんとお腹は空くんだね。よかったよかった。
こっくん頷いて、手を合わせて「いただきましゅ」。
………「しゅ」?
おお、言葉も幼児化されるのか。わざとしなきゃいけないのかと思ってたから助かるわ〜。
一切れを両手で持って一口齧る。パンは硬いけど野菜は新鮮でシャキシャキしてる。いいわ、これ。
………?
なんか静か。
顔あげると、団長さんと女の人の他に4人増えてて、全員胸抑えてうずくまってた。
もう一度言おう。
なんだこれ。




