現実逃避しました
「エルシア!?」
「うわ、ほんとだ! なんでそんなショボいワンピ!? センスない!」
「お兄ちゃんが来たからね~、もう安心だよ~」
ドドドドドドッ
土ぼこりを巻き上げながら、団長さんが足元をウロチョロする黒い犬をドカドカ蹴散らして走ってくる。後ろに続くカチュアさんはなんか怒ってるし、フリッツさんは爽やかに手を振っている。
なんで第二がこんなにいるんだろう。
久しぶりに会えてうれしいけどさ。もう当分会えないと思ってたから。
奴隷商の事件って、第三担当よね? なのに、さっきは警察って聞こえたし、第二が居るし。あの課長にしびれ切らして手伝い始めたのかしら。
「無事か! 痛いとことかないか! 心配したんだぞ。本当だったとか、くそ、カールハイトの奴〆る! おい、なんかあるぞ。これなんだ!」
「魔術障壁ですよぉ。レベル3くらいですかね。よく観察できるけど逃げられないようにでしょ~。まるでショーケースみたいだなあ」
「ショーケース、だとぉ」
ほんわか説明をしているヘルマンさんの言葉に、壁をゴンゴン叩いていた団長さんの背後になんか黒いものが立ち上がった。
(あー、はいはい、みんな下がるっすよ~)
(げ、団長スイッチ入った。)
(ヘルマン、わざと焚きつけただろ!)
(これが一番手っ取り早いしぃ?)
団長さんが、一歩足を退いた。
ぐっと体勢を低くして、
「俺の、娘は、見せもんじゃねぇっ!」
なんか叫びながら肩から突進してきた。
ドゴォッ
ひえ!
いま、部屋揺れなかった!?
格子を持つ手に力が入る。
ピシ……
凝視しているうちに、細いヒビが入った。
ピシピシピシ……
そこから徐々に広がっていく。
え? ちょ、ちょっと待って……?
目をこすっている間に、ヒビは壁一面の広がって、次の瞬間には、
音を立てて爆散した。
わたしは格子にはりついていた。
パラパラと、ガラスの粒が足下に転がってくる。
ちょっと待って?
この壁、ゲレオンさんが突撃しても、ヒビ一つ入らなかったんじゃなかったっけ?
防弾ガラスとまではいかなくても、かなり頑丈な強化ガラスみたいなものよね?
それが。
こなごな……
(うわ~、相変わらずイノシシ~。)
(騎士なのに特技肉弾戦ってなんだろうね。)
(団長だしねえ。)
のほほんとした会話が遠くに聞こえる。
……えっと。
勧善懲悪ものは大好きなのよ? 時代劇なんてその最たるもので。
悪が滅びる過程で、スリルやサスペンスがあったって、それはそれで大歓迎。大立ち回りやバトルなんかはもうそれはそれは大好物なわけで。その過程で、多少のバイオレンスやスプラッタがあったって、そんなものは許容範囲内。ノープロブレム! むしろバッチこい!
けどね。
残業して帰ってたら突然神様とこんにちは。
ぶつかって出ちゃったからって、魂、異世界にポイされて。
そこで四歳児になってだらしないむさい男どもを躾して。
第三に連れて行かれて意思疎通のできないハゲちょびんに毎日毎日怒鳴られて。
誘拐されて売られそうになったら、目の前で熊がバラバラ、鳥が感電、強化ガラスが人力で粉砕って。
手足や頭になったクマの残骸も、ビクビクしてる鳥も、足元の細かい破片も、みんな現実なわけで。
臨場感ありすぎてね~
ちょっと、おばちゃん、いっぱいいっぱいかもしれない。
徐々に慣れるので、今は、大目に見てください。
ぱったり。




