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まずは設定からですか?  作者: 天野 陽羽
〜い〜
35/72

特撮でした




 そうこうしている内に、騒ぎがだんだんこちらにも近づいてきた。


「ど、どうしよう。こっちに来る………っ。さ、さあいい子だから、それは諦めなさい。早くここから逃げなければ……」

「でもでもでも、旦那様あ。この子着せ替え人形にちょうどいいと思うんですのよ。だから……」

「おい、誰か居るぞ! そういえば、貴族の馬車が居たな!」

「くそうっ。もう知らん! 勝手にしろ! 私は捕まるわけにはいかないんだ!」

「あ、こら! 下手に逃げたら危ないぞ!」


 なんとか女を連れて逃げようとしていた貴族は、とうとう諦めたらしい。擦り寄ってくる女性を振り払って、背を向けた。

 

 直後、消えた。


 代わりにそこに居たのは…… 咆哮を上げる巨大な熊だ。やっぱり熊出た!

 真っ黒で、大きく開いた口から、上下に交差する長く鋭い牙がみえる、なんかすごい奴!

 振り上げた手の爪には、引き裂かれた布切れが引っかかっていた。


 …………もしもし?


 なんか凄いことになってませんか?


 女性の悲鳴が響き渡る。

 それがよそ事に思えるくらい、頭が真っ白になった。



「わ~! ファングベア、確認!」

 その場に駆けつけていた捜査員らしき人が叫んだ。


「カルテットホーク、確認!」

「ヘルハウンド、大挙~!」



「なんでこうなるんだ!? 爆破といい魔獣といい、私たちの担当範囲外なんだよっ! くそぉ~ おい、居るんだから手伝え! 守護狩人(シュッツイエーガー・リッターオルデン)、協力を要請する! 頼む、さっさと片付けてくれ~」

「要請承諾! 全員、掃討!」

「おー!」


 ブワ…………ッ


 圧が押し寄せてきた。覇気とでもいうのだろうか、さっきの閉塞感の比じゃない、圧倒的な熱気が、掛け声の方から押し寄せてきて、その辺りに漂っていたマイナスの雰囲気を根こそぎ吹き飛ばす。


 何かが来る。

 ものすごく、強い、なにか。


 そして。


 熊も弾けた。


 いや、ほんと。

 ユーはショックだ。

 バラバラと、各パーツが辺りに散らばる。


 なにが起きた?


 足元に転がってきた牙をはやした熊の生首から顔をあげると、少し離れたところに居たどす黒い汚れを付けた剣を手に立っていた人と目が合った。

「え」

「うわ。うわー! 本当にいた! ヘルマン! チビが本当にいた~~~~っ!」

 ゲレオンさんが剣を納めながらこっちに走ってくる。


「ゲーオンしゃ……? あー、しゅとっぷしゅとっぷ!」

 剣を鞘に収めながら目を見開いて、ゲレオンさんがこっちに走ってくるけど、ちょっと待って! そこ、見えない壁が……っ。



 ゴン!


 

 そのまま激突して跳ね返された。


「ゲーオンしゃん! しゅごいおとしちゃの! だいじょーぶ!?」

「ってぇっすね! なんすかこれ! てか、じゃまっすよ!」

 ぶつけた額をこすりつつ、振り向きざまに後ろにいた別の熊をまた分解した。はやっ! いつ剣抜いたの。というか、なんでまたバラバラ! 最初の熊の首の横に、ごっつい爪がくっついた手が落ちる。だ、断面……っ。

「見ればわかるでしょぉ。魔術障壁だよぉ、それ。魔獣といい、無駄なところで金かけてるねぇ」

 のんびりとした口調で話しながら、ヘルマンさんが歩いてくる。

「それでエルちゃん、大丈夫ぅ? どこか、痛かったり…… うるさいなあ、もう」

「あ、うん、だいじょー……」

 変わらない、やさし気な笑顔にほっとして、大丈夫だと言いかけた言葉は、途中で引っ込んだ。

 ヘルマンさんが右手を軽く振ると、空に向かって走る稲妻が4条。盛大に火花を散らしながら、飛んでいた大きな鳥に絡みついて、地面に引きずり落したのだ。ぶすぶすと漂う焦げたにおいと、びくびく引きつく羽が三枚以上あるくちばしがやけに鋭い鳥の死骸。



 …………特撮スタジオだっけ、ここ。



「チビちゃん、元気そうだねえ。良かった良かった。こんなとこからは、さっさと出ようねぇ」

 そんなシュールな状況を背に、ヘルマンさんはニコニコ笑っている。

「よし。じゃあ、一発スパッと」

「切れるけどぉ、今晩の手入れ時間、倍になるよぉ?」

「え~」

 気合十分に剣を構え直したゲレオンさんが、ヘルマンさんに言われて口を尖らせた。

「この手は、力づくが一番だよぉ。チビちゃん、一番奥に行っててくれるぅ?」

「う、うん? あ、あのっ」

「うん、何かなあ」

「どーちて、ヘルマンしゃんたちがいるの?」

「どうしてってぇ。伝言確かめに来たんだよぉ」

 だから奥に行っててねぇ、首を傾げてにっこり笑う。

 伝言とは何ぞや? とりあえず言われるままに格子の方へと引っ込んだ。

 ヘルマンさんはそれを確認して、くるりと背を向ける。



「団長~! 本当にチビちゃんいたよ~!!」




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