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まずは設定からですか?  作者: 天野 陽羽
〜い〜
33/72

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「おお、結構上玉だな。ジジイどもが喜びそうだ」


 そんなありがたくないお言葉をいただいたのは、体の自由を取り戻すのと同時だった。

 袋から引っ張り出され、布はひっぺがされ、紐は切られて転がされた。

 ぐるっとあたりを見回せば、天蓋付きのベッドに曲線を描いたタンスにテーブル。ふかふか絨毯に花柄の壁。人形も飾ってあったりして、かわいい子供部屋。


 だけど正面に鉄格子。



 まじか。

 牢屋じゃん。

 


「騒がねえな。ここ弱えのか、こいつ」

 

 はあ!?

 弱くないわよ! 入牢がショックすぎただけよ!

 格子の向こうで自分の頭をさした指をくるくる回している男をギッと睨む。


「おじしゃん! ここどこ!」

「……威勢のいいガキだったな。知らなくてもいいんだよ、お前は」

「やなの! ここ、だれのおうち!?」

「誰のだっていいさ。その見た目じゃ、すぐにでも買い手がつくだろうからな。今日も昼から常連が来るし、ここに居るのもそんなに長い間じゃねえだろうさ。じきに衣装も届く。客が来たら愛想振りまけよ」

 男はニヤリと口端を上げた。


「こどもうりゅひとわるいひと! しゅぐにちゅかまるもん!」

「ははっ! そーかそーか。そいつは大変だ。まあ、俺たちにゃ関係ねえな」


 おとなしくしてろと言い置いて、笑いながら格子の前から男が去った。

 急いで格子に顔を押し付けて見ると、前にに廊下が延びていて、男が視界から消えていくところだった。

 できる限り! 力いっぱい! 顔をめり込ませて左右を見る。かろうじて、同じような格子がいくつも並んでいるのが見えた。


 ヒリヒリするほっぺをさすりながら、今度は反対側の窓に行く。

 白い華奢な窓枠に白いレースのカーテンが風に揺れていた。

 ちょうど夜が明ける時刻だったのか、空がうっすらと明るくなっている。

 乗り出して周りを見ようとしたんだけど、ゴンと額がぶつかった。

 窓は外側に向かって開いているので、ガラスがあるわけじゃない。でも、指を曲げて背で空間を叩いてみると、硬質な音がした。

 なにこれ、見えない壁?

 そして、窓の外は小洒落た庭。そしておしゃれな小道が壁に沿って伸びている。本当に、壁にピッタリ沿うように。ここ歩く人に、部屋の中丸見えじゃない?

 

 ……要するに、この部屋ってショーケース、か、な?

 そんな、まさか。まさか、ねえ?

 

 衣装届くって言ってたし、常連くるって言ってたし、いきなり店頭に並べられる感じですか?


 は、はは、ははははははは……


 冗談!



 慌てて部屋にあるドレッサーの鏡を覗き込んでみた。

 肩までの銀髪。碧いぱっちりおめめ。もちもち触り心地の良さげなほっぺにピンクのくちびる。

 美幼女だ。

 紛うことなき美幼女だ。

 望んでないのにモデルできそうな美幼女なのよ!

 売れそうじゃない? これって!

 まずいまずいまずい!

 だから下方修正させてって言ったのに!


 ……自分で容姿設定したって言ってたっけ。

 これって、ほぼ最初に見たパパのまねっこなんだと思うのよ。

 ああ、他の人が見つけてくれてたら!


 …………………………………………


 ふっ。下手に美形揃いよね、第二って。

 コンラートさんかフーゴさん辺りが、まだマシなくらいで。

 それでも、方向性が違うだけで、決して平凡じゃないのよ!


 ウロウロウロウロ室内を行ったり来たりしている間に、格子の下の差し入れ口から洋服が突っ込まれた。

 広げてみると、どこかで見たようなフリル山盛り、リボンてんこ盛りのバッサバサのピンクのドレス。即座に丸めてベッドの下に蹴り込んだ。


 日が昇る。

 窓の外の庭が、色鮮やかに目に映る。

 植え込みを揺らす風が、窓から流れてくる。


 ……!


「テングーしゃん!」


 そうよ。風が入ってくるならテングーなら!


 窓辺に駆け寄り、見えない壁に両手をついた。

 途端に、強風とも言える風が部屋に吹き込んでくる!


 だけど、入ってくるのは風だけで、緑のふよふよは、べしべしと見えない壁にぶつかって跳ね返された。


 どういう仕組みよ! これ!


「あけてよ〜、いわなきゃいけないこといっぱいできちゃの〜。あくちょうゆるしゅまじなの〜」


 ラメくんじゃないけど、あいつらお縄にしないと平和は来ない!


 跳ね返されたふよふよたちが、窓の外でたむろっている。

 半泣きで見上げていると、彼らは少し離れたところで一列に並び始めた。


 先頭がビカッと光る。 

 そして、窓に突っ込んできた!

 一斉に!


 ガガガガガガッ


 一点集中でビカビカ光るふよふよが、次々に見えない壁に激突する。

 何もないはずの空間に細かいヒビが入ったと思ったら、小さな穴が開き、勢いに任せて突っ込んできたふよふよが、向かいの格子でまた跳ね返って、わたしの手の中にもこもこになった。


 おお。

 なんか凄いな。


 あ、そうだ。感心してる場合じゃないわ。

 わたしはテングーをベッドの上に置き、寝巻きの首元についていたリボンを引き抜いて、デスクにあったペンで走り書きをする。


「テングーしゃん! これをだんちょうしゃんにわたして!」


 知ってる限り、第三で頼りになるのはパウリーネさんだけど、指示する立場にないもんね。会ったことないけど、この際トップに頼る!


 風に乗って舞い上がったリボンがベッドから飛び立ったふよふよたちと共にするりと穴を抜けていく。

 空高くに消えたリボンを見送り、もう一度ベッドに倒れ込んだ。


 

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