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あ~、疲れた。
ベッドに転がりぐったりである。
みんなが居なくなって、一人になったから3階の小さな部屋に移動になった。当直室の一つらしい。
一人ぼっちになった寂しさなんて、感じる暇さえない日々が過ぎている。
同席していたお兄さんが頑張ってくれたおかげで、今日はなんとか切り抜けた。
でも、あの人やばいよ~。
いっちゃってるよ~。
ンで、ばかだ。
お人形?
思わず、鼻で笑いそうになったわ。
しかも、第二をこき下ろすなんざ、許すまじ!
ぐぬぬ、どうしてくれようか。
う〜〜〜〜〜〜…………
『ウ〜ラ〜メ〜シ〜ヤ〜』
「ひゃい!」
枕に顔を埋めて唸っていたわたしは、耳元の声に飛び起きた。
わあ。目の高さに、ヤナリーズのピカピカふよふよがぴょんぴょんしてる…………
『ウラメシヤ! ウラメシヤ!』
「ま、まってまってまって! どーしちぇ!? 」
なぜわたしがまだ恨まれてる! それと言葉と態度が合ってないんですけど? 何でそんなに、ピカピカぴょんぴょんなの!
『ハコアカナイ、イツアク。シカエシデキナイイッテル!』
「はこ?」
ぴょんぴょんぐいぐいくるピカピカふよふよを両手で静止しながらちょっと考えた。
箱って、曰く証拠がつまってる箱よね。
「え。 まだ? うしょお」
だって、クルトくんのやらかしで、手紙、はやばやとオープンになったじゃない。だったらカギだって……
『ウラメシヤ!』
突然、ピカピカふよふよがぎゅいんと窓に向かってすっ飛んでいった。そして当然びたんと窓にぶち当たる。
この部屋に連れてこられたときに、窓には近寄らないこと、そして窓を開けないことを懇々と言い付けられたから。
「だ、だいじょうぶ?」
しかし、そんなことを言っている場合じゃない。勢い良すぎたのか、むちゃくちゃ平べったく窓に張り付いてしまっている。
『ウラメシヤ〜』
ペりんと剥がれたふよふよは、ふらふらと舞い上がり、元の形へと戻った。
………うん、『ウラメシヤ』の意味わかってないな。もう気にしないでおこう。と言うか、自動翻訳機能、あんまりあてにしちゃいけなくない? どこから引っ張ってきたのよ、これ。
浮いたふよふよが、まだ窓の前でふらふらしているので、ちょっと気になって、窓を閉めたままで外を見る。
地上に見覚えのある人がいた。
『カギ! カギ! ハコアケル! シカエシスルイッテル! ウラメシヤ!』
突進しそうなふよふよを咄嗟につかんで引き止める。
うん、つかめるほどの存在感できててよかった。
『ウラメシヤ! ウラメシヤ!』
喚きながら小さな手からはみ出ている部分が、逃れようとバタバタしている。
もう、名前『ウラメシくん』にしようかな。
……あ、いや、ちょっとまずいのかな、著作権。
もう、真ん中とって『ラメくん』でいいや。
「ラメくん、どーどー。ちょっとかんさつね」
なんだかね、クルトくんの手の辺りでキラキラしてるのよ。
部屋の中の椅子を引きずって窓辺に置いて、乗って背伸びして窓の鍵を開けた。
………うん、子どもを一人にするなら、踏み台になるものは撤去しておこうね。自分でやっておいてなんだけど。
頭の重さで落ちても嫌なので、ちゃんと椅子から降りて、窓の敷居に手をかけてうんと背伸びをして、改めて下を見た。
「%%あ#s〜%%あ〜 エイっ! だめ!? じゃあ、##**-%%〜 エイっ! これも!?」
……なにをしているんだろう。
なに言ってるのかわからないところは呪文かな? エイって言ってるところを見ると、それで発動するということだろうか。
アブラカタブラ〜 エイ! って感じで。
ただ残念なことに、呪文のところでは手のひらの上で浮いている金色のものが、エイ!の瞬間、地面に落ちるのよ。
確か、あの子、魔術師だったよね。
で、どう見てもあれ、例の鍵に見えるんだけど。
……なんで、あんたがまだ持ってんのさ。
思わず眉間に皺が寄る。
そこで、わたしは気づいた。
クルトがゴソゴソしている植え込みの向こうで、同じようなローブを着た人や、第三の制服を着た人が、わーわー言いながら荷物を運び出したり広げたりしていることに。
もしかして、ここって例の倉庫の真正面〜?
ふ、ふふふ…………
椅子に乗った。立たないよ? 座るだけね。それでも十分上半身は敷居から上だから。
んで、息を思い切り吸って〜〜〜
「クルトおにいちゃ〜ん! なにかみちゅかった〜〜〜!!!!?」
叫んだ瞬間、鍵は地面に落ちたがクルトの体は軽く20センチは飛び上がった。
「へ? へ?」
「ここ〜! ねえ〜、あのピカピカしてちゃカギって〜、やっぱりたかりゃばこのかぎなんでしょ〜!? おはなしとかしょうだもん! なにがでてきちゃの〜〜〜っ? ほうせき〜? たかりゃのちじゅ〜?」
「え? あ、きみ! え? 子どもみんな引き取られたんじゃ……… ばっ、し〜っ、し〜っ」
むっちゃ慌てて、指を口に前に立てているが、もう遅いのだよ。
「なんだ? 子供の声がするぞ!」
「わ、子供があんなとこに!」
「危ない! 危ない! ちょっと誰か…… って、クルト、お前こんなところでなにを。 なんだ、そのカギ!」
「え、あ、あの、これは……」
「しょのかぎね〜、まえにおにいちゃんといっしょに、しょこのしょーこでみちゅけた、たかりゃばこのかぎなにょ〜! もうあけちゃの〜!?」
倉庫から駆けつけてきた同僚に、鍵が見つかって問い詰められているクルトに追い討ちをかける。
「なんだと? そんなの聞いてないぞ? ちょっと貸せ!」
「あ、あ〜、それは僕が……」
「うるさい。%%¥s〜%%!」
鍵を取り上げた人が呪文を唱えると、鍵は手のひらから浮き上がり、すーっと真っ直ぐに倉庫の方へと飛んでいった。
そこにいた人の大半が、その後を追って走っていき、半泣きのクルトは呪文を唱えた人に引きずっていかれた。
あれは、対になる鍵目指して飛んでいく魔法だったんだろうか。思うに、自分で開けて自分が発見したとか言いたかったのかなあ。
『ウラメシヤ! カギアイタ! ワルイヤツアツマル。シカエシスルイッテル!』
ラメくんがぴょんぴょん跳ねてる。
「ラメくん、ラメくん。しかえしするときりくえすとしちぇいい?」
『ウラメシヤ! ナンデモイエ!』
「ちゅいでにあのうっしゃいおっちゃん、はげちょびんにしちぇ」
なにしろ、みんなの悲願であるからして。
「あちょ、だれかけがするのもなしね」
そういうのは法に任せるべきだとおもうのよ、うん。
『ウラメシヤ! マカセル!』
そして、すっと消えてった。
おし。
あ〜、疲れた。
寝よ。




