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まずは設定からですか?  作者: 天野 陽羽
〜い〜
28/72

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 ガラガラガラガラ。


 車輪の音が小さくなって、やがてその姿も門の向こうに消えた。

 わたしはパウリーネさんとともに裏門が見える広場に立っている。お昼までにはまだ一時間くらい。


「シローくん、くびいたくない?」

「さあねえ。結構思いっきりくいってなってたから…… まあ、大丈夫でしょ」






 今日は子供たちがここから去る日だった。


 朝一番にクララちゃんのご両親がやってきた。朝一に野菜を卸してきた帰りだという。買い込んだらしき食べ物を満載にしてものすごい勢いで待っていたわたしたちのところに荷馬車が走ってきて。停まったと思ったら御者台からクララちゃんによく似たおじさんと、ふっくらしたおばさんが降りてきてクララちゃんに抱き着いた。良かった良かった無事でよかったさあ早く帰ろう今日はごちそうだ! 抱きしめたまま馬車に引きずり込む。

「ちょ、ちょっとまってお父さん! みんな、また会おうね! 元気でね!」

 腕の隙間から顔を出したクララちゃんが叫びながら遠ざかっていく。


 まあ、あっという間だった。


 次にやってきたのは簡素な馬車だった。

 扉が開いておりてきたのは優しそうな老婦人。

 そこに居たパウリーネさんに頭を下げ、孤児院の院長だと挨拶をする。

「この度は、うちの子たちを助けていただきありがとうございました。もう一度このように会うことができたのも皆様のおかげでございます。感謝の念に堪えません」

「あ、いえいえ。本当なら、もう少し早くお返しできたのですが、こちらの捜査の関係上、遅くなってしまって…… できたら、ゆっくりさせてあげてください」

 パウリーネさんもさっきし損ねた挨拶を、仕事モードで返している。

「ええ、もちろんです。それと、そちらがハロルトかしら?」

 アーデルハイドちゃんの横で緊張した顔で立っているハロルト君に笑いかけた。

「あ、はい。ハロルト、です。あの、ぼく、本当に……」

「いらっしゃい。そしてみんなで楽しく暮らしましょう。いろいろとお手伝いをしてくれると嬉しいわ」

「は、はい!」

 院長先生に続いてアーデルハイドちゃんとハロルトくんが馬車に乗り込んで、そして、こっちを見る。

「シャイロー君元気でね。エルシアちゃん、頑張ってね」

「また、会おうね」

「ああ」

「ありやとーなの!」


「「何本残ったか教えてよ〜!」」

 窓から顔を出して、叫びながら手を振って叫んでた。

 

 できるなら、ゼロどころかマイナスと報告したい。毛根死滅だ。願わくば。



 そして、もう一台馬車が来た。さっきの物よりもう少し上等そうな、くすんだ色の馬車。

 品のよさそうなおじさんが降りてきて、パウリーネさんに頭を下げる。

「お手数をおかけしました。迎えに来ましたよ、シャイロー」

 おじさんを見るシロー君は、なにか言いたそうに口を何度か開閉したけれど、結局そのままきゅっと閉じた。

「じゃあ」

 おじさんに続いて、シロー君もステップを上がる。

「あたっ」

 次に聞こえたただならぬ声に、わたしはシロー君の髪を握っていることに気が付いた。急に引っ張られて、首がのけぞったらしい。

「ご、ごごごごごごめんなしゃいなのっ!」

 慌てて離した私を、首の後ろをさすりながら苦笑しつつ見下ろした。

「帰れるといいな」

「あい!」



 そして、馬車は消えていった。




「しっぱいしたでしゅ」

 髪を握ってしまった右手をグーパーしながらがっくりと肩を落とす。

 基本的に短くつんつんしているのに、後ろの一房だけが長くて三つ編みになってゆらゆら揺れている。それが、ちょうど私の目の前のわけよ、身長差的に。気になるじゃない? 揺れるし、黒いし。

 だいたい、黒一色の世界で生きてきた私には、こちらの髪色はきらびやかすぎるのよ。ラノベの世界よろしく、緑やピンクがないのは助かるけれど、金銀赤茶のグラデーションしかないのだ。唯一の黒はどうにも惹かれてしまうのである。

 滞在中、気が付けばつついたりつまんだりするようになってしまって、最初のうちはすっと抜かれていたんだけど、最近はあきらめたのか放っておかれるようになっていた。でも、つかんだことはなかったんだよ! ほんとに!

 なぜ最後でつかむ。しかものけぞるほど。むち打ちになってなかったらいいなあ。ごめんよ、シロー君。

 

「まあ、寂しいわよね。さあ、これからお昼一緒に食べに行きましょうか。特別にデザートもつけてあげるわ」

「ほんとでしゅか!」

 デザート! 甘味! ここに来てからすっかりご無沙汰! やったー!



「あ、パウリーネさ~ん!」

 そこに空気を読まないペーペーがやってきた。



「どうしたの、クルト」

「ちょっと、見てほしいんですよ。これなんだと思いますっ? 気が付いたら僕のローブのポケットに入ってたんですけど!」

 目をキラキラさせて、手にはくしゃくしゃになった紙を持っている。


 ん?

 あれって……


「なんか、変なことが書いてあるんですよ! えーと、ほら、モーラーって人の名前の4歳から6歳までの綺麗な男の子の注文書でしょ? カペルって商会の5歳の子供を5年ごとに5人納品っていう定期契約書でしょ。5ばっかりってなんか狙ってんですかね。ウケる。デデキントって人は13歳の金髪の女の子の領収書。あと手紙で~、どういう意味でしょうね、これ。15は好きに処分してくれて構わないので、13もよろしくお願いしま………」

「ちょ~っと、まったあああああああ!」

 ぱし~ん!とパウリーネさんがもってたファイルでクルト君の口をひっ叩いた!


 勘弁しろ新人類!

 気が付いたらって、自分で突っ込んだんでしょうが!

 しかも、また言い方! 物か? 子供は物か!?


「いひゃい、パウリーネしゃん、なにを……」

「何をじゃないわ! 時と場所とボリュームを考えてしゃべんなさい! 課に戻るわよ! そこでちゃんと……! あ」

 襟首つかんで引きずっていこうとして、思い出したようにこちらを見る。


「まちゃこんどおねがいしましゅ……」

「ごめんね! 一人でお部屋戻れるかしら。あとでお昼持って行ってもらうから!」

「は~い」


 手を振って見送った。


 なかなかやばい内容だったわね。ショタにロリに使い捨て疑惑の人員確保。

 滅びてしまえ。

 


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