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まずは設定からですか?  作者: 天野 陽羽
〜い〜
23/72

片付きました



 朝。

 窓を開けて、柏手二つ。

 うん、今日もお日さまおはようございます!

 風も気持ちいいよ〜。

 そよそよいい感じだよ〜。

 緑のふよふよがくるくる通っていく。

 いっそのこと、びゅ〜んって吹いちゃおうか!

 ひゅ〜んっ。

 風が吹き込んで、カーテンをバサバサ揺らす。

 うん、今じゃないの。合図したらね。

 どう? 楽しそうでしょ!


 《ヤナリーズ》があそこまで意思疎通ができるなら、《テングー》もどうだと試してみた。うん、どうやら大丈夫っぽい。


 

 




 で。

 四歳児ぶりっこしてみました。

 今までみたいなオートマチックじゃないのよ。

 意識して、意図的に!

 いやー、恥ずかしかったわ。


「みんなとおそとであそびたいの〜」

 しがみついて泣いてみました。様子見に来たパウリーネさんに。

 だって、明日みんないなくなっちゃうんですよ?

 名言されてなくても、なんか察しちゃって不安になっちゃうわけですよ、四歳児。きっと多分そういうこともある。

 朝から、アーデルハイドちゃんにベッタリして、クララちゃんに髪のセットねだって、ハロルトくんと五目並べして、シローくんのあとついて回る。

 で、泣いてみた。


 ものすっごい同情的な視線が痛いわ。


「そうよね、最後ですものね…………」


 よし! 外行くぞ!


 パウリーネさんと連れ立って建物の中を移動して裏庭を目指す。

「中庭の方がお花が綺麗よ」と言われたけど、「遊びたいから」と裏庭へ誘導。

 ところが、さあ、いよいよ外に出るとなった時に同僚らしき人にパウリーネさんが呼び止められた。どうやら仕事がらみの要件らしく、

「困ったわね………… あ、ちょうどいいわ! ちょっと、クルト!」

 そして、バトンタッチされたのは、わたしを迎えに来た新人くんだった。

 そう、圧迫面接でガタブルしていた彼である。…………これは、ラッキーではないだろうか。彼の方が扱いやすい、絶対に。



 花を摘んだり木登りしたり、追っかけっこしたり。

 全力で遊んだのなんて何年ぶりだろう。走っても息切れしないの、腰も痛くならないの。

 凄いよね〜


「お〜い、あまり遠く行かないでね〜。なんか壊してもダメだからね〜」

 木陰に座ってクルトくんが言ってる。うん、サボりだね。やる気なし。


 さあて、そろそろ…………


 走りながら髪を結んでいたリボンを引っ張る。


 テングー、お願いします!


 ぴゅうっと風が吹いた。

 狙い通りにリボンが飛ぶ。全然、自然な風に飛ばされた感じじゃないけど、まあいいか。


「あー、リボンがー!」


 棒読み。


 全員の注意がリボンに集まった。

 リボンはヒューンと舞って飛んで行く。


「やーん、まって〜」


 棒読み。


 追いかけて走る。進行方向には、小屋。そして、昨日のまま、ドアが半開き! 突入だ!

「ちょっと待って! そっち行かないで!」

 クルトくん、案外早かった。襟首掴んで引き戻される。グエっとなった。

「だって〜、あれだいにのおねえちゃんにもらったのに〜」

「だ、第二…………?」

 クルトくんの表情がわかりやすく強張る。

「お姉ちゃんって、まさか…………」

「カチュアおねえちゃんにもらったの」

「ひいっ! 三女帝!!」

 叫んだ途端にわたしを投げ出して走り出した。どらいは…………? よく聞き取れなかったけれど、よほどの大事だったらしい。その間にリボンが一直線にドアの隙間に飛び込んでいって、その悲鳴が大きくなる。

「ぎゃー! なんでそこに入るかな! な、なくなったりしたら、今度こそ殺される! おい! 君たちも一緒に探して!」

 あら、勢いで入り込むつもりが公認になったわ。

 仰せのままに小屋に駆け込んだ。


 中には壊れた机や本棚。鍋釜の類から衣類や紙の束。木箱に絵画。焦げたものからきれいなものまで、それこそ適当を絵に描いたように、種々雑多に積み上げられている。

 これって一応証拠物品よね? いいの、こんなに雑で。

 クルトくんに言われるがままに小屋に入ってきたアーデルハイドちゃんたちもキョロキョロ周りを見回している。

「たからさがしみたい! たのしーね!」

「宝じゃないよ、これ、君らを売ろうとしてた奴らの持ち物だから。ほら、さっさとリボン探して! 見つからなかったら殺されるんだよ、僕が!」

 そしてクルト君はせかせかとあちこち引っ掻き回し始めた。


 なんでリボン一つで命の問題になるのかわからないんだけど、とりあえず、潜入は成功。アーデルハイドちゃんたちも、なんだか普通にリボンを探してくれている。そしてドアは開けっぱなし。ふと視線を上にあげると、リボンが落ちずに天井あたりでくるくる踊っている。

 まだ時間稼ぎに協力してくれているらしい。チーム・ハウスと意思疎通でもしてるのかな? と言うことは、まだ手伝ってくれるだろうか。


「りぼんどこー」なんて言いながら、ちょっと隅に移動。

「テングーしゃん」

 ふよっと、薄緑色のふよふよがやって来た。

「もうひとちゅおねがいいーい?」

 ふよふよは、くるんと頭の周りを一周して、開いてるドアから出て行った。


 大丈夫かな〜…………


 なんて思わなくて良かった。

 次の瞬間、ドアが壊れそうな勢いで、突風が小屋に吹き込んできたから!

 いや、わたしがお願いしたのは、ちょっと風でみんなの服をバタバタさせて、手紙とか落として、ってだけだったんだけど。

 調べていく内に見つけてもらえると思うし。

 それが今や、紙どころか、木箱はひっくり返る、絵は倒れる。

「嘘だろー!」

 クルトくんの悲鳴が聞こえる。

 その中に、「手紙っ!」とスカートを押さえるアーデルハイドちゃんとクララちゃんの声。そしてすぐ後に、「ぶへっ、なんだよ、もう!」。

 顔に! 顔に張りついてる! ノリノリだな、テングー!


 と、とりあえず、うまく…………

 え。

 横を何か過ぎて行ったと思ったら、シローくん、自分から服の下から書類引っ張り出して、クルトくんの顔に叩きつけに行った!

 やったこと凄いけど、空気読んだ! えらい!


 よし、これで紙類の始末は済んだ。

 あとはハロルトくんの鍵だけだから、このちっちゃい体でも持ち運べる。後で預かってどうにか…………


「ってー!」

 クルトくんが頭を押さえてうずくまる。

 その後ろの少し離れたところで、今力一杯投げました!っていう体勢のハロルトくんがいた。


 …………なんか、片づいた?



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《チーム・ハウス》を《ヤナリーズ》に改名いたしました。


 拙作を評価していただきありがとうございます!

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