片付きました
朝。
窓を開けて、柏手二つ。
うん、今日もお日さまおはようございます!
風も気持ちいいよ〜。
そよそよいい感じだよ〜。
緑のふよふよがくるくる通っていく。
いっそのこと、びゅ〜んって吹いちゃおうか!
ひゅ〜んっ。
風が吹き込んで、カーテンをバサバサ揺らす。
うん、今じゃないの。合図したらね。
どう? 楽しそうでしょ!
《ヤナリーズ》があそこまで意思疎通ができるなら、《テングー》もどうだと試してみた。うん、どうやら大丈夫っぽい。
で。
四歳児ぶりっこしてみました。
今までみたいなオートマチックじゃないのよ。
意識して、意図的に!
いやー、恥ずかしかったわ。
「みんなとおそとであそびたいの〜」
しがみついて泣いてみました。様子見に来たパウリーネさんに。
だって、明日みんないなくなっちゃうんですよ?
名言されてなくても、なんか察しちゃって不安になっちゃうわけですよ、四歳児。きっと多分そういうこともある。
朝から、アーデルハイドちゃんにベッタリして、クララちゃんに髪のセットねだって、ハロルトくんと五目並べして、シローくんのあとついて回る。
で、泣いてみた。
ものすっごい同情的な視線が痛いわ。
「そうよね、最後ですものね…………」
よし! 外行くぞ!
パウリーネさんと連れ立って建物の中を移動して裏庭を目指す。
「中庭の方がお花が綺麗よ」と言われたけど、「遊びたいから」と裏庭へ誘導。
ところが、さあ、いよいよ外に出るとなった時に同僚らしき人にパウリーネさんが呼び止められた。どうやら仕事がらみの要件らしく、
「困ったわね………… あ、ちょうどいいわ! ちょっと、クルト!」
そして、バトンタッチされたのは、わたしを迎えに来た新人くんだった。
そう、圧迫面接でガタブルしていた彼である。…………これは、ラッキーではないだろうか。彼の方が扱いやすい、絶対に。
花を摘んだり木登りしたり、追っかけっこしたり。
全力で遊んだのなんて何年ぶりだろう。走っても息切れしないの、腰も痛くならないの。
凄いよね〜
「お〜い、あまり遠く行かないでね〜。なんか壊してもダメだからね〜」
木陰に座ってクルトくんが言ってる。うん、サボりだね。やる気なし。
さあて、そろそろ…………
走りながら髪を結んでいたリボンを引っ張る。
テングー、お願いします!
ぴゅうっと風が吹いた。
狙い通りにリボンが飛ぶ。全然、自然な風に飛ばされた感じじゃないけど、まあいいか。
「あー、リボンがー!」
棒読み。
全員の注意がリボンに集まった。
リボンはヒューンと舞って飛んで行く。
「やーん、まって〜」
棒読み。
追いかけて走る。進行方向には、小屋。そして、昨日のまま、ドアが半開き! 突入だ!
「ちょっと待って! そっち行かないで!」
クルトくん、案外早かった。襟首掴んで引き戻される。グエっとなった。
「だって〜、あれだいにのおねえちゃんにもらったのに〜」
「だ、第二…………?」
クルトくんの表情がわかりやすく強張る。
「お姉ちゃんって、まさか…………」
「カチュアおねえちゃんにもらったの」
「ひいっ! 三女帝!!」
叫んだ途端にわたしを投げ出して走り出した。どらいは…………? よく聞き取れなかったけれど、よほどの大事だったらしい。その間にリボンが一直線にドアの隙間に飛び込んでいって、その悲鳴が大きくなる。
「ぎゃー! なんでそこに入るかな! な、なくなったりしたら、今度こそ殺される! おい! 君たちも一緒に探して!」
あら、勢いで入り込むつもりが公認になったわ。
仰せのままに小屋に駆け込んだ。
中には壊れた机や本棚。鍋釜の類から衣類や紙の束。木箱に絵画。焦げたものからきれいなものまで、それこそ適当を絵に描いたように、種々雑多に積み上げられている。
これって一応証拠物品よね? いいの、こんなに雑で。
クルトくんに言われるがままに小屋に入ってきたアーデルハイドちゃんたちもキョロキョロ周りを見回している。
「たからさがしみたい! たのしーね!」
「宝じゃないよ、これ、君らを売ろうとしてた奴らの持ち物だから。ほら、さっさとリボン探して! 見つからなかったら殺されるんだよ、僕が!」
そしてクルト君はせかせかとあちこち引っ掻き回し始めた。
なんでリボン一つで命の問題になるのかわからないんだけど、とりあえず、潜入は成功。アーデルハイドちゃんたちも、なんだか普通にリボンを探してくれている。そしてドアは開けっぱなし。ふと視線を上にあげると、リボンが落ちずに天井あたりでくるくる踊っている。
まだ時間稼ぎに協力してくれているらしい。チーム・ハウスと意思疎通でもしてるのかな? と言うことは、まだ手伝ってくれるだろうか。
「りぼんどこー」なんて言いながら、ちょっと隅に移動。
「テングーしゃん」
ふよっと、薄緑色のふよふよがやって来た。
「もうひとちゅおねがいいーい?」
ふよふよは、くるんと頭の周りを一周して、開いてるドアから出て行った。
大丈夫かな〜…………
なんて思わなくて良かった。
次の瞬間、ドアが壊れそうな勢いで、突風が小屋に吹き込んできたから!
いや、わたしがお願いしたのは、ちょっと風でみんなの服をバタバタさせて、手紙とか落として、ってだけだったんだけど。
調べていく内に見つけてもらえると思うし。
それが今や、紙どころか、木箱はひっくり返る、絵は倒れる。
「嘘だろー!」
クルトくんの悲鳴が聞こえる。
その中に、「手紙っ!」とスカートを押さえるアーデルハイドちゃんとクララちゃんの声。そしてすぐ後に、「ぶへっ、なんだよ、もう!」。
顔に! 顔に張りついてる! ノリノリだな、テングー!
と、とりあえず、うまく…………
え。
横を何か過ぎて行ったと思ったら、シローくん、自分から服の下から書類引っ張り出して、クルトくんの顔に叩きつけに行った!
やったこと凄いけど、空気読んだ! えらい!
よし、これで紙類の始末は済んだ。
あとはハロルトくんの鍵だけだから、このちっちゃい体でも持ち運べる。後で預かってどうにか…………
「ってー!」
クルトくんが頭を押さえてうずくまる。
その後ろの少し離れたところで、今力一杯投げました!っていう体勢のハロルトくんがいた。
…………なんか、片づいた?
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《チーム・ハウス》を《ヤナリーズ》に改名いたしました。
拙作を評価していただきありがとうございます!




