取り調べを受けました
「エルシアちゃん、ちょっといいかしら?」
昼食後、5目並べに発展し、バトっていたらノックの後にドアが開いた。顔をのぞかせたのはパウリーネさんである。
「はい、なんでしゅか?」
「返事までいい子ね! え、ええとね。ちょっとお話聞かせてもらいたいから、来てくれるかな?」
「え? 私じゃないんですか? いっつも一番でしたよね?」
アーデルハイドちゃんが手をあげつつ訊いた。
「あ、うん。今日はあなたたちはお休みですって。エルシアちゃんだけでいいそうよ」
「じゃ、じゃあ、私もいっしょに行きます! まだちっちゃいし!」
ハイジ…… やっぱり君はいい子だ! おばさん感動!
「わかりまちた。いきましゅ!」
すっくと立ちあがり、歩き出す。
「ちょっと、エルシアちゃん、待って!」
「だいじょうぶ! はげちょびんとたたかってくる!」
親指立てて不敵なスマイル!
パウリーネさんについて部屋を出た。
「な、なに? いまの、可愛かったんだけど!?」
「ねえ、はげって言ってたよね?」
「うしろに変なのついてたけど、言ってたね」
「…………面白いやつ」
そして来ました取調室!
…………じゃなかった。
どう見ても、刑事物で見る「捜査第一課」みたいに、机が並び人が出入りしざわざわ会話が飛び交う部屋の中。しかも中央、課長の机のど真ん前に座らされましたよ?
まだ前に連れて行かれた部屋の方がソレっぽかったわ。
正面には課長さん。隣の小机にはこの間と同じ書記さん。わたしの後ろにはパウリーネさん。机の上には、資料?
うん、4歳児仕様は見当たらないね! 椅子でさえも、大人と同じ椅子だもの。相手からはわたしの首しか見えないだろう。
「さあ、話してもらおうか」
課長が見下ろしながらにやりと笑う。
……怖いって泣いてやろうか? 許される案件だと思うわよ。
「これじゃあ、おはなしできないの。だいにでしてくれてたみたいにくっしょんおいて」
「な!」
一瞬で課長の顔が真っ赤になった。第二の方がきちんと対応してくれたと言ってるようなものだもの。
戦いのゴングが鳴らしてやったぜ!
「こ、このっ、ガキの分際で! えらそうな口を叩くんじゃない! お前は訊かれたことを答えればいいんだ! おとなしく座ってろ!」
簡単に乗せられて、切れた課長。うん、小物だ。社会人って笑顔張り付けてなんぼよ? 本当の笑顔がわからなくなるくらい、スマイルで武装するのが処世術なのよ! それもできないってまだまだじゃん。
でもって、課長が怒鳴ったのに、周りが誰も気にしてないってのがね。
いつもこうなんだな、きっと。
「お前はいつ捕まった」
「何をしていた時に捕まった」
「捕まえた奴はどんな奴だ」
「どこに連れていかれた」
「見たことを何でもいいから話せ」
「聞いたことを何でもいいから話せ」
つらつらつらつら、次から次へと頭ごなしに訊いてくるけど、わたしは、だまって首傾げておいた。
だって知らないし~。
そもそも、『笑って首をかしげておけばいい』って、神様から許してもらってるし~。ねえ?
だんだん、課長の顔が鬼瓦に変わり、舌打ちとかも増えてきた。課長が舌打ちするたびに、書記さんのペンも動いているので、もしかしたら、一言一句全部書き留めているのかもしれない。腱鞘炎にならないかな?
「第二にはどうやって落ちた」
「バシャッておちました」
「どうやって回収された」
「しんぱいしてくれておいしゃしゃんがみてくれました」
「飯は! どうせ奴らは酒しか……」
「いっしょにしゃらだやぱんたべました。ジューシュおいしかったです」
「風呂はどうした! どうせ薄汚れたまま……」
「おねえちゃんたちといっしょにはいりました」
「寝床はどうだ! 床にでも転がされたか!」
「おねえちゃんがゆかにねちぇ、わたしがベッド」
いつの間にか第二の弾劾にシフトしていたが、こっちに関しては反論したわよ。
事実言っただけだけどね!
「嘘をつくな! あいつらが! あんな低能な奴らが! 子供をちゃんと扱うはずがない!」
バンバン机を叩きながら、わめいている。
すごいブーメランよね?
わたしはため息をつきつつ、後ろのパウリーネさんを振り返った。
「おねえしゃん。これってどれいしょうのじじょうちょうしゅよね? なんでパパやみんなのこときくの?」
「事情聴取ってまた難しい言葉知ってるわね。後がないのと、鏡を見る回数が増えてるのと…… 大人の事情かしら」
「ふ~ん」
ちらっと課長を見ると、両肩には10本ずつぐらい髪が落ちている。机を叩くたびに、パラパラと舞っている。
十日も要らないんじゃないかな?
30分くらいで解放された。
最後の方は何をわめいているのかわからなくなってたから、再びパウリーネさんによる退場となった。
会議室に戻ると、おねえちゃんたちが心配してくれたけど、髪の毛の話をすると大うけしていた。
えらいえらいと頭を撫でられた。
その翌日、またパウリーネさんがやってきた。とても浮かない顔をしている。
「二日後に、みんなここから出てもらうことになったわ」
その言葉にみんなきょとんとなる。
「アーデルハイドちゃんは、元の孤児院に。クララちゃんはおうちの人が迎えに来てくれることになってるわ」
「わー! 誰が来てくれるのかな!」
「やっと帰れる〜!」
女の子二人が手を取り合って飛び跳ねている。
「ハロルト君はアーデルハイドちゃんの孤児院ね」
「元のところじゃないの?」
ますますきょとんとしたハロルトくん。
「あそこはさすがにないわね。戻すわけないじゃない。いい機会でしょ?」
「そっかー。いいんだ、戻らなくて」
嬉しそうにへにゃっと笑った。
「シャイロー君は……」
「おれもそこ?」
「いいえ? お迎えに来てくださるそうよ」
「え… あ、そうなんだ」
シローくんが少し複雑な顔になる。
「良かったじゃない。お家に帰れるわ」
「あ、うん、そうだね」
なんだか少年二人は複雑な背景がありそうね。
でも、まあ、ここから出てしまえばもう関わることもないから、詮索してもしょうがないことだ。
「以上よ」
「え?」
その一言で、みんなの視線が一斉にこっちに向いた。
「エルシアちゃんは!?」
「まだ訊きたいことがあるそうなの」
……何を訊きたいんだ、あの課長。




