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まずは設定からですか?  作者: 天野 陽羽
〜い〜
19/72

取り調べを受けました


 「エルシアちゃん、ちょっといいかしら?」

 

 昼食後、5目並べに発展し、バトっていたらノックの後にドアが開いた。顔をのぞかせたのはパウリーネさんである。

「はい、なんでしゅか?」

「返事までいい子ね! え、ええとね。ちょっとお話聞かせてもらいたいから、来てくれるかな?」


「え? 私じゃないんですか? いっつも一番でしたよね?」

 アーデルハイドちゃんが手をあげつつ訊いた。

「あ、うん。今日はあなたたちはお休みですって。エルシアちゃんだけでいいそうよ」

「じゃ、じゃあ、私もいっしょに行きます! まだちっちゃいし!」

 ハイジ…… やっぱり君はいい子だ! おばさん感動!

「わかりまちた。いきましゅ!」

 すっくと立ちあがり、歩き出す。

「ちょっと、エルシアちゃん、待って!」

「だいじょうぶ! はげちょびんとたたかってくる!」

 親指立てて不敵なスマイル!

 パウリーネさんについて部屋を出た。



「な、なに? いまの、可愛かったんだけど!?」

「ねえ、はげって言ってたよね?」

「うしろに変なのついてたけど、言ってたね」

「…………面白いやつ」





 そして来ました取調室!

 

 …………じゃなかった。


 どう見ても、刑事物で見る「捜査第一課」みたいに、机が並び人が出入りしざわざわ会話が飛び交う部屋の中。しかも中央、課長の机のど真ん前に座らされましたよ?

 まだ前に連れて行かれた部屋の方がソレっぽかったわ。



 正面には課長さん。隣の小机にはこの間と同じ書記さん。わたしの後ろにはパウリーネさん。机の上には、資料?

 うん、4歳児仕様は見当たらないね! 椅子でさえも、大人と同じ椅子だもの。相手からはわたしの首しか見えないだろう。


「さあ、話してもらおうか」

 課長が見下ろしながらにやりと笑う。


 ……怖いって泣いてやろうか? 許される案件だと思うわよ。


「これじゃあ、おはなしできないの。だいにでしてくれてたみたいにくっしょんおいて」


「な!」


 一瞬で課長の顔が真っ赤になった。第二の方がきちんと対応してくれたと言ってるようなものだもの。

 戦いのゴングが鳴らしてやったぜ!


「こ、このっ、ガキの分際で! えらそうな口を叩くんじゃない! お前は訊かれたことを答えればいいんだ! おとなしく座ってろ!」

 簡単に乗せられて、切れた課長。うん、小物だ。社会人って笑顔張り付けてなんぼよ? 本当の笑顔がわからなくなるくらい、スマイルで武装するのが処世術なのよ! それもできないってまだまだじゃん。


 でもって、課長が怒鳴ったのに、周りが誰も気にしてないってのがね。


 いつもこうなんだな、きっと。



「お前はいつ捕まった」

「何をしていた時に捕まった」

「捕まえた奴はどんな奴だ」

「どこに連れていかれた」

「見たことを何でもいいから話せ」

「聞いたことを何でもいいから話せ」


 つらつらつらつら、次から次へと頭ごなしに訊いてくるけど、わたしは、だまって首傾げておいた。

 だって知らないし~。

 そもそも、『笑って首をかしげておけばいい』って、神様から許してもらってるし~。ねえ?


 だんだん、課長の顔が鬼瓦に変わり、舌打ちとかも増えてきた。課長が舌打ちするたびに、書記さんのペンも動いているので、もしかしたら、一言一句全部書き留めているのかもしれない。腱鞘炎にならないかな?


「第二にはどうやって落ちた」

「バシャッておちました」

「どうやって回収された」

「しんぱいしてくれておいしゃしゃんがみてくれました」

「飯は! どうせ奴らは酒しか……」

「いっしょにしゃらだやぱんたべました。ジューシュおいしかったです」

「風呂はどうした! どうせ薄汚れたまま……」

「おねえちゃんたちといっしょにはいりました」

「寝床はどうだ! 床にでも転がされたか!」

「おねえちゃんがゆかにねちぇ、わたしがベッド」


 いつの間にか第二の弾劾にシフトしていたが、こっちに関しては反論したわよ。

 事実言っただけだけどね!


「嘘をつくな! あいつらが! あんな低能な奴らが! 子供をちゃんと扱うはずがない!」


 バンバン机を叩きながら、わめいている。

 すごいブーメランよね?


 わたしはため息をつきつつ、後ろのパウリーネさんを振り返った。


「おねえしゃん。これってどれいしょうのじじょうちょうしゅよね? なんでパパやみんなのこときくの?」

「事情聴取ってまた難しい言葉知ってるわね。後がないのと、鏡を見る回数が増えてるのと…… 大人の事情かしら」

「ふ~ん」

 ちらっと課長を見ると、両肩には10本ずつぐらい髪が落ちている。机を叩くたびに、パラパラと舞っている。


 十日も要らないんじゃないかな?



 30分くらいで解放された。

 最後の方は何をわめいているのかわからなくなってたから、再びパウリーネさんによる退場となった。

 会議室に戻ると、おねえちゃんたちが心配してくれたけど、髪の毛の話をすると大うけしていた。

 えらいえらいと頭を撫でられた。



 その翌日、またパウリーネさんがやってきた。とても浮かない顔をしている。

「二日後に、みんなここから出てもらうことになったわ」

 その言葉にみんなきょとんとなる。

「アーデルハイドちゃんは、元の孤児院に。クララちゃんはおうちの人が迎えに来てくれることになってるわ」

「わー! 誰が来てくれるのかな!」

「やっと帰れる〜!」 

 女の子二人が手を取り合って飛び跳ねている。

「ハロルト君はアーデルハイドちゃんの孤児院ね」

「元のところじゃないの?」

 ますますきょとんとしたハロルトくん。

「あそこはさすがにないわね。戻すわけないじゃない。いい機会でしょ?」

「そっかー。いいんだ、戻らなくて」

 嬉しそうにへにゃっと笑った。

「シャイロー君は……」

「おれもそこ?」

「いいえ? お迎えに来てくださるそうよ」

「え… あ、そうなんだ」

 シローくんが少し複雑な顔になる。

「良かったじゃない。お家に帰れるわ」

「あ、うん、そうだね」


 なんだか少年二人は複雑な背景がありそうね。

 でも、まあ、ここから出てしまえばもう関わることもないから、詮索してもしょうがないことだ。


「以上よ」


「え?」


 その一言で、みんなの視線が一斉にこっちに向いた。


「エルシアちゃんは!?」

「まだ訊きたいことがあるそうなの」


 ……何を訊きたいんだ、あの課長。


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