挨拶しました
「なんだか聞きたいことがいっぱいあるんだけど、あたしもいっぱいでちょっと整理するから、とりあえずここに居てね!」
と、なんだかテンパったパウリーネさんに、とある部屋に置き去りにされた。
十畳くらいの部屋で、子供が四人。全員、わたしよりは年上っぽい。
うん、だから、紹介とかしていこうか。そういう気遣いがないな、ここの人。
唐突に追加されたわたしに、視線が集まる。金髪って言っても色合いが違うのね。赤っぽい女の子が一人、白っぽい男の子が一人。栗毛でチリチリの子が一人と、黒………… 黒っ!?
思わずガン見した。
初めて見た、黒の人。
近づいてよくよく見たら、男の子の目も黒っぽい。肌もそんなに白くないし、ものすっごい親近感。
「な、なに」
のけぞっている。
食いつきすぎた。
「ごめんなしゃい。なつかしかっちゃのでちゅい」
ぺこりと頭を下げる。
「なちゅか………… 懐かしい? この色が?」
「うん!」
疑わしい視線に全肯定した。
「あ、はじめまちて。エルシアでしゅ。4しゃいでしゅ。よろしくおねがいしまちゅ」
深々とお辞儀をする。あいさつ大事。
「あ、うん」
「ずいぶん礼儀正しい子ね〜。あなたもあそこに居たの? あ、わたしはアーデルハイド。12になるわ」
「わたしはクララよ。10歳」
「ぼくはハロルト。11」
「…………シャイロー、9」
…………感動していいかな。
アルムの山が呼びそうな二人がいたよ。ペーターが居ないのが惜しい。
赤っぽい金髪の女の子がアーデルハイドちゃん、栗毛の女の子がクララちゃん、白金の男の子がハロルトくんで、黒髪の子がシャイローくん。
「あーでるはいどちゃん、くりゃりゃちゃん、はろるとくんとしろーくん」
「そうそう。一回で覚えられてえらいわね」
復唱すると褒められた。
「オレだけなんか違う………」
「ちっちゃいんだから大目に見なさいよ。でもあなた、もしかして大人が言ってた『怖いところに飛ばされちゃったけど、怖すぎて引き取りに行けない可哀想な子』? やっと助けてもらえたのね」
またあ…………
第三、口縫っちゃおうかな!
++++
「え~? 怖くないの? 魔獣切り刻んで血まみれで高笑いしてるって噂だったけど」
「あ、ぼくも聞いた。盗賊笑いながら蹴り飛ばして行くって」
あれからすぐにお昼御飯が出た。
パンとスクランブルエッグとスープ。
5人分、ぽいと置いて行かれたので、クララちゃんが椅子に積み木を積んで高さを調節してくれた。
「一人で食べれる?」
「たべれましゅ!」
この気遣いよ。第三、見習え。
そして出たのがこの会話だった。言わずもがな、第二の噂である。後者は団長さんだな。
「こわくないよ。だりゃしないだけのやしゃしいおにいちゃんたちだよ?」
「だりゃ…… だらしないの?」
「うん」
寝ぐせついてるし、ボタン掛け違えるし、水たらしながらシャワーから出てきて水浸しにするし、床で寝てるし、ごはんこぼすし。
「でもやしゃしいよ?」
あそんでくれるし、ほめてくれるし、いろんなことをさせてくれる。時々、胸押さえてうずくまってるのが意味不明だが。
「ここより、楽しそうね」
アーデルハイドちゃんが口を尖らせた。 ハイジって呼んでいい? 長いから。
「ちゅまらない?」
「つまらないわよ。ずっとここに閉じ込められてるもの」
「おねえちゃんたちだけ?」
「ほかの子たちは、身元わかったり、わからなかったら孤児院に移されたりしたからね。残ってるのはぼくたちだけだよ」
「どして?」
「年が上だから、何か覚えていることないかしつこく聞かれてる。捜査の情報欲しいんだろうけど、ぼくらだってうす暗いとこに押し込められて、いつ売られるのかドキドキしてて、他になんか目が回らないかもってこと、全然考えてないんだよね」
「……なあ、なんかチビ相手に会話成立してない?」
最後のシロー君の疑問は置いといて、つまりは課長の横暴か。
なんとか見返してやりたいものである。
「腹が立つから、見つけた証拠、まだ出してやらないのよね」
「ね」
「そうそう。あとどれくらいにする?」
「十日くらいか。おでこの面積もう少し増えてから」
「着実に広がってるもんね~」
「くすくすくす」
「!」
驚いて顔をあげると、シロー君が
「やっぱり、理解してるだろ、おまえ」
あきれたように、服の下からバサバサと紙の束を出した。
「呼び出して質問するだけで、身の回りのこと放置だもんね。持ってたって全然ばれないのよ」
「最初っから頭ごなしに怒鳴られたら、出す気もなくなるっての」
アルプス少女たちが、スカートのフリルの間から封筒を引っ張り出す。
「しーだよ、しー」
最後にハロルト君が靴の中敷きの下からカギをつまみ上げた。
「ばれないって思ってる大人も、隠してるって思っていない大人も、子供バカにしすぎなんだよ」
……お子様、おそるべし!




