名前がつきました
ーー名前は、エルシア。
エルシア。
おお! 名前がついた!
ダルマクさんが言ったとおりだ。うふってしてれば名前が付いた!
驚いて団長さんを見ると、ふふんと得意そうな顔してた。
どうだ、驚いただろう、と。
うん! 驚いた!
エルシア。
なんかいかにもな名前でくすぐったいけれど、この見目だ。山本道子よりよっぽどしっくりくる。
にまにましたまま、うんうんと何度も首を縦に振る。
周りがなんか口元押さえて唸っているけれど、今は無視。
「エルシア………… なんてラブリー………… 団長、珍しくナイス!」
後ろでカチュアさんが小さくガッツポーズしてるけど、これもスルーしておこう。
「あ、あ、そ、そうなんですね。エルシア、っと。じゃ、じゃあ、保護していただきありがとうございました。回収が遅くなって申し訳ありませんでした。今日からはこちらで管理しますので、もうご迷惑をおかけすることは、ない、と…………」
資料を訂正しつつ、お兄さんがセリフを繋げるに従い、ほこほこしていた空気の温度がどんどん下がっていく。
それに気がついたお兄さんの表情も、安堵のそれからまた強張っていった。
「あ、あの…………?」
だから、言葉の選び方よ。
新人研修ってないのかな。
++++
「こ、怖かった怖かった怖かった! だからあんなところ行くの嫌だったんだ! もう、もう二度とカードで賭けなんてしないからな〜っ!」
馬車の中に絶叫が響き渡っている。
お迎えに来たクルトさんが、半泣きで喚き倒しているのだ。うるさすぎて耳が痛い。
あの後大変だったのだ。
団長さんの手の中でペンが折れる。ゲレオンさんがナイフを出す。少なくとも4本はあった。パリパリと電気がショートするような音が室内に響き、背後のお姉さんたちからは地を這うような笑い声がした。
血を見る。
そう確信した瞬間だった。
美幼女のあざとさマシマシ能力フル活用したわよ!
むっちゃ疲れた。
クルトさんがジタバタするたびに、かばんにしまい忘れた書類がひらひら舞い上がる。一枚が膝の上に落ちてきたので見てみたら、私についての書類だった。
―――
被害児童 J
女児
年齢不明
当日、第二騎士団演習場前の庭園に落下。同隊に保護を依頼。
保護者、被保護者ともに問題行動無しとの報告。
諸事情を鑑みて早急なる引き取りが必要と思われる。
―――
『J』ってのは、通し番号だったのか。名前がわかんないんだもん、しょうがないよね。
それにしても、なぜ『保護者』の『問題行動』がメンションされているのかな。他の子が、虐待とかされてたのかしら。
「あ、こらこら、いたずらしちゃだめだぞ! 返しなさい」
するりと書類が手から消えた。
「それにしても、お前も災難だったよなあ。よりにもよって第二なんかに落ちてさ。厩舎に落ちた奴の方がなんぼかマシだっての」
「……さいなん?」
「ああ、わかんないか。つまり、不幸ってことだよ。あんな血に飢えた獣みたいな集団、近寄りたくないっての。怖かっただろう? 怒鳴られたり叩かれたりしてないか? 向こう着いたら、まず医者に診てもらおうな。痣とか怪我とかあったら報告しなきゃ……」
…………
「あ!」
「え?」
わたしの指につられて馬車の窓へと向いたクルトさんの後頭部を、ポシェット振り回してひっぱたいた。
「て!? え?」
頭押さえてきょろきょろしてるけど、知らんぷりである。
これぐらい許されるだろう。
ばーか。ばーか。あっかんべ!!!




