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まずは設定からですか?  作者: 天野 陽羽
〜い〜
14/72

名前がつきました



 ーー名前は、エルシア。


 エルシア。


 おお! 名前がついた!

 ダルマクさんが言ったとおりだ。うふってしてれば名前が付いた!

 

 驚いて団長さんを見ると、ふふんと得意そうな顔してた。

 どうだ、驚いただろう、と。


 うん! 驚いた!


 エルシア。

 なんかいかにもな名前でくすぐったいけれど、この見目だ。山本道子よりよっぽどしっくりくる。

 にまにましたまま、うんうんと何度も首を縦に振る。

 周りがなんか口元押さえて唸っているけれど、今は無視。

「エルシア………… なんてラブリー………… 団長、珍しくナイス!」

 後ろでカチュアさんが小さくガッツポーズしてるけど、これもスルーしておこう。


「あ、あ、そ、そうなんですね。エルシア、っと。じゃ、じゃあ、保護していただきありがとうございました。回収が遅くなって申し訳ありませんでした。今日からはこちらで管理しますので、もうご迷惑をおかけすることは、ない、と…………」


 資料を訂正しつつ、お兄さんがセリフを繋げるに従い、ほこほこしていた空気の温度がどんどん下がっていく。


 それに気がついたお兄さんの表情も、安堵のそれからまた強張っていった。


「あ、あの…………?」

 

 

 だから、言葉の選び方よ。

 新人研修ってないのかな。



++++



 「こ、怖かった怖かった怖かった! だからあんなところ行くの嫌だったんだ! もう、もう二度とカードで賭けなんてしないからな〜っ!」


 馬車の中に絶叫が響き渡っている。

 お迎えに来たクルトさんが、半泣きで喚き倒しているのだ。うるさすぎて耳が痛い。


 あの後大変だったのだ。

 団長さんの手の中でペンが折れる。ゲレオンさんがナイフを出す。少なくとも4本はあった。パリパリと電気がショートするような音が室内に響き、背後のお姉さんたちからは地を這うような笑い声がした。


 血を見る。


 そう確信した瞬間だった。


 美幼女のあざとさマシマシ能力フル活用したわよ!

 むっちゃ疲れた。




 クルトさんがジタバタするたびに、かばんにしまい忘れた書類がひらひら舞い上がる。一枚が膝の上に落ちてきたので見てみたら、私についての書類だった。


 ―――


 被害児童 (ヨット)


 女児

 年齢不明


 当日、第二騎士団演習場前の庭園に落下。同隊に保護を依頼。

 保護者、被保護者ともに問題行動無しとの報告。

 諸事情を鑑みて早急なる引き取りが必要と思われる。



 ―――


 『J』ってのは、通し番号だったのか。名前がわかんないんだもん、しょうがないよね。

 それにしても、なぜ『保護者』の『問題行動』がメンションされているのかな。他の子が、虐待とかされてたのかしら。


「あ、こらこら、いたずらしちゃだめだぞ! 返しなさい」

 するりと書類が手から消えた。

「それにしても、お前も災難だったよなあ。よりにもよって第二なんかに落ちてさ。厩舎に落ちた奴の方がなんぼかマシだっての」

「……さいなん?」

「ああ、わかんないか。つまり、不幸ってことだよ。あんな血に飢えた獣みたいな集団、近寄りたくないっての。怖かっただろう? 怒鳴られたり叩かれたりしてないか? 向こう着いたら、まず医者に診てもらおうな。痣とか怪我とかあったら報告しなきゃ……」


 …………


「あ!」

「え?」


 わたしの指につられて馬車の窓へと向いたクルトさんの後頭部を、ポシェット振り回してひっぱたいた。


「て!? え?」

 頭押さえてきょろきょろしてるけど、知らんぷりである。



 これぐらい許されるだろう。


 ばーか。ばーか。あっかんべ!!!



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