蛇の意味 1
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日曜日――
「どうして君までついてくるんだ」
馬車の中で、シオンは城を出るときにも言った言葉をもう一度繰り返した。
向かい合う席に座っているシュゼットはツンと顎をそらして、これまた城を出るときと同じ答えを返す。
「面白そうだもの」
空色のフリルたっぷりのドレスに鍔の広い白い帽子、紺色の靴を履き、頭の先から足の先までオシャレをしたシュゼットは、好奇心を隠し切れない瞳をしている。
シオンはシュゼットの隣で相変わらず無表情で黙り込んでいるアークに視線を投げたのち、はあ、と息を吐きだした。
ローデル男爵の邸に行くとシオンが告げると、彼女は嬉々として自分もついて行くと言い出した。
――彼女は邸のベッドの上で亡くなったんでしょう? もしかしたら、腐らない遺体の手掛かりがあるかもしれないわ!
シュゼットはそう言ってシオンがダメだと言っても聞かず、果ては自身で国王オルフェリウスに許可まで取り付けてきたのだ。妹を溺愛しているオルフェリウスが否と言うはずがない。
ただ、目の笑っていない笑みを浮かべて、シオンをこう脅すだけだ。
――私の可愛いシュゼットに何かあったら、わかっているね?
あの外面だけいい腹黒国王は、こうも言った。
――そうそう、アナスタシアはまだ独身らしいよ。
シオンはその言葉を聞いた瞬間、心の中でオルフェリウスのための墓を掘り、その中に彼を生き埋めにした。そして少しばかりスッキリすると、渋々シュゼットを連れて行くことを了承したのだ。
そう、渋々。もちろん、納得なんてしていない。
「いいかい? 君は僕の母方の従妹の更に従妹で、最近王都に着たばかり。わけあって昨日から俺の家で預かっていて、今日はどうしてもついて行くと言ってきかないから連れてきた。アークは心配性なシュゼットの両親がつけている護衛。そういうことだから、くれぐれもいつものような横柄な態度を取らないように!」
城を出る際に念入りに打ち合わせした設定を再確認する。
シュゼットは面倒そうに「はいはい」と頷いた。
「わかっているわよ、しつこいわね。おとなしくしておけばいいんでしょう」
(本当にわかっているのか?)
シオンは胡乱そうにシュゼットを見やるが、彼女は馬車の窓の外の景色に目を奪われて、これ以上何を言っても真面目に聞きそうにない雰囲気だ。
シオンは仕方なくアークに視線を移したが、彼もまた相変わらず仮面をかぶっているのかと言いたくなるほど表情を変えないので、打ち合わせ内容を理解しているのか判断ができない。表情筋が死んでいると言ってもシオンは絶対疑わないだろう。
(まあ……、アークの場合は、余計なことは言わないからな)
アークは無駄口は叩かない。会話で他人とコミュニケーションを取るという選択肢は彼になく、「必要」だと判断したこと以外はほぼ喋らないと言っても過言ではない。
(……生まれてから今まで、笑ったことってあるんだろうか?)
謎の多い五歳年上の「子守」の先輩を見つめながら、シオンはふとそんなことを思った。
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