エピローグ
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オークション会場から救出された少女たちは、国立病院に入院することになった。
壊れた精神を元に戻す方法はわかってはいないが、オルフェリウスの要請で、フォリオが薬の研究を続けている。
フランク神父の証言から、シュゼットが推理したこととほぼ同じ回答が得られ、彼は裁判ののちに刑を言い渡されるだろう。極刑は免れないだろうと思われる。
ローデル男爵は爵位と領地を没収され、田舎に移り住むことになった。
彼が爵位と領地の没収だけですんだのは、彼が加害者と同時に被害者でもあったことと、あわせて今回の事件の収拾に自ら進んですべてを自供したこともあるだろう。
キャロルの遺体は、彼が移り住んだ田舎に運ばれ、近くの墓地に埋葬しなおされることとなった。
彼は、田舎で小さな土地を借り、そこを耕して自給自足の生活をおくるそうだ。
一方シュゼットは――
「博物館から、百カラットもあるルビーが盗まれたらしいわ」
ソファにふんぞり返り、新聞を広げて、お菓子を頬張りながらそんなことを言っていた。
薬を飲んだふりをして吐き出した彼女は、薬の影響で人形のようになったふりをして犯人たちの目を欺いていた。
その時、ほんの少し喉に薬が流れ込んだそうだが、もともと毒に耐性があるらしく、検査の結果、体への影響はまったくないとのことだ。
(……少しくらい、おとなしくなる薬ってないものかな)
シオンは心の中で嘆息しながら、シュゼットの言葉を聞かなかったふりをする。
相変わらず、窓の外からは子供たちの謳う歌が聞こえてきていた。
「聞いているの、シオン」
シュゼットが新聞から顔をあげて、不満そうに眉を寄せる。
シオンは仕方なく読んでいた新聞をおいて、シュゼットに向きなおった。
「ルビーが盗まれたって、博物館にあるのはレプリカだろう?」
「残念ながら違うわね。今回は特別に本物の『貴婦人の涙』が展示されていたらしいわ」
「まさか……、それが盗まれたっていうの!?」
シオンはシュゼットの手から慌てて新聞を受け取ると、文面に視線を這わせる。
シュゼットの言う『貴婦人の涙』は通称『エリザベート王妃の首飾り』と呼ばれる百カラットのルビーの首飾りだ。
エリザベート王妃は、先の戦争で植民地となったエルドーリア国の最後の王妃で、王家の人間がすべて斬首となったのち、王家が所有していた宝物はすべてロゼインブルク国に回収された。その中にあった一つが、『貴婦人の涙』だ。
普段は城の宝物庫に眠っているそれが、どうやら今回、博物館の展示の目玉として貸し出されていたらしい。
「……最悪じゃないか」
新聞を読み終えたシオンは頭を抱えた。犯人はまだ捕まっておらず、以前、『貴婦人の涙』も発見されていないそうだ。
「犯人は、最近巷をにぎわせている、『怪盗J』らしいわね」
怪盗J――、一年ほど前から騒がれている、神出鬼没で、正体不明の怪盗だ。
たまに新聞に予告状が掲載され、その予告状の左下に黒い羊のマークが描かれていることから、通称『ブラック・シープ』と呼ばれている。
「また……、ろくでもないものを盗んだな」
オルフェリウスが怒り狂っている様子を想像して、シオンは頭が痛くなった。
「そうね。警備が厳重なはずの博物館から、どうやって盗み出したのかしら」
シュゼットの楽しそうな声に、シオンは嫌な予感を覚えて新聞から顔をあげる。
「……シュゼット、まさか……」
「盗まれた時の情報、調べてきて」
「やっぱり……」
シオンはがっくりと肩を落とした。
元の君に戻ってくれるなら何でもする――、シュゼットが人形のようになってしまったと思って口走ってしまった一言は、しっかりと彼女の脳に記憶されている。
そのせいで、シオンはすっかり彼女の下僕のような扱いだ。
シオンはため息をついて、歌が漏れ聞こえてくる窓に視線を向けた。
女の子って何でできてるの?
砂糖とスパイス
それと素敵な何か
そういうものでできてるの
今日も元気よく響いてくる歌。
(砂糖とスパイス――、スパイス、多すぎだろう……)
きっとこれからも、この小生意気な少女にシオンは振り回されるのだろう。
もう少し砂糖の割合が多くてもいいのではないかと思いながら、シオンは新聞を片手に席を立ったのだった。
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