消えた姫君 5
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妻であるキャロルが死んで少しして、ローデル男爵は邸に働いていた使用人たちのほとんどを解雇したが、住み込みで働いていたジルともう一人のキッチンメイドだけは邸に残った。
その日、ジルは仕事を終え、与えられている邸の屋根裏にある部屋にいた。
夕方から降りはじめた雨が屋根を叩く音を聞きながら、小さなランプに明りをつけて、ジルは読みかけの本を開く。
しかし、ジルは本の内容に集中できずに、すぐにそれを閉ざした。
最近、ローデル男爵――旦那様の様子がおかしい。
何やらイライラしている様子で、飲む酒の量も増えた。
旦那様が十代前半の時から知っているジルは、旦那様のことを主人であると同時に弟のようにも思っていたので、最近の彼が心配でならなかった。
酒ばかり飲んでいては体にも悪いし、寝つきがよくなるハーブティーでも入れて差し上げよう――、ジルは思い立ち、屋根裏部屋から出てキッチンに向かうことにした。
しかし、屋根裏部屋から二階に降りたとき、ふと怒鳴り声が聞こえてきた。
声は、旦那様の声だった。
誰に向かって怒鳴っているのかはわからないが、ひどく興奮しているようだった。
ジルは、興奮している旦那様のそばに行くのは得策ではないし、誰かと話しているのであれば邪魔をしてもいけないと思い、すごすごと屋根裏部屋に引き返す。
そして次の日、キッチンメイドとともに朝食の準備を終え、朝が苦手な旦那様を起こしに行こうと寝室の扉を叩いた。
しかし、何度叩いても返事はなく、ジルは仕方なく部屋の中に入った。旦那様は朝が弱く、こうして廊下から呼びかけても起きないことがしばしばあった。そういう時は、ジルはいつも部屋に入り、旦那様を揺すり起こす。
いつもと同じようにジルは旦那様の寝室に入りベッドのそばまで歩いていき――違和感に気づいた。
「旦那様?」
ベッドの上には誰もいなかったのだ。
すでに目覚めていたのかと驚き、ジルは執事のトムキンスに旦那様の居場所を訊ねた。
朝早く用事があり、朝食が不要な時はいつも事前に連絡があったからだ。だからきっと、外出ではなく、邸のどこかにいるのだと思った。
しかしトムキンスは、旦那様を見ていないという。
ジルはますます不審に思ったが、こういう日もあるかもしれないと思い、その時は深く考えなかった。
けれども旦那様は夜になっても、次の日になっても戻らなかった――
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