消えた姫君 4
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シオンは、ルドルフ警部とともにローデル男爵邸を訪れていた。
再び邸を訪れたシオンたちに、しつこく主を疑われていることが不快なのか、少し嫌な顔をしたが、それでもシオンたちを拒みはしなかった。国王からの令状が発行されているので逆らうことはできないからである。
前回と同じように、ルドルフ警部と別れて部屋を捜査することにしたシオンは、キャロルが生前使っていた部屋から調べることにした。
部屋中にあふれていた薔薇はさすがにもう片付けられ、主人のいない部屋特有の、ガランとした雰囲気がある。
淡いクリーム色の絨毯に、同色のカーテン。真っ白なレースのカーテンの天蓋付きベッドに花柄の壁紙。白いドレッサーに、同じく白いカバーのかかった小さなソファ。
部屋の角においてある小さな本棚には数冊の本棚と、陶器でできたオルゴールがあった。
(可愛い人だったんだな)
部屋を見ればなんとなく、そこに住んでいた人の印象がわかる。もちろん、部屋の印象がそのまま当人を表すとも限らないが、シオンは柔らかい色合いの女性的な部屋に、キャロルの生前の姿が垣間見えた気がした。
シオンは本棚に近寄ると、オルゴールを手に取った。ゼンマイが巻かれていないのか、ふたを開けても何の音も聞こえない。オルゴール付きの小物入れだったが、中にはオレンジ色のポピーの押し花が入っていた。古いものなのか、触れるとバラバラになってしまいそうで、シオンはそっとオルゴールの蓋を閉じる。
そして、何気なく本棚にあった本を一冊取って拍子をめくり、――シオンはそれが、本ではなくキャロルの日記帳であったことに気がつく。
ほかのものも手に取ったが、本棚にあったものはすべてキャロルの日記だった。数にすると、なかなか分厚いものが六冊もある。
シオンはそれらの日記帳を、何かの役に立つかもしれないと持って帰ることにした。日記帳を両手に抱えて、いったんルドルフと合流しようと思った、そのとき。
静かに部屋の扉が開いて、シオンが振り返れば、四十も半ばだろうか――、少しふくよかな女性が、あたりを伺うように左右に目を走らせながら、部屋の中に入ってくる。
「あなたは――」
「し!」
女性は口元に指をあてると、開けたときと同じく静かに部屋の扉を閉めて、ほっと息をついた。
シオンはその何かを警戒しているような様子に眉を顰め、抱えた日記帳をソファの近くにあるローテーブルにおいて女性に向きなおる。
女性は紺色の踝までのワンピースを身に着けて、その上に飾り気のない白いエプロンをつけていた。まるでメイドのような――、そう思っていると、小声で、この家に努めているメイド頭だと名乗る。
「メイド頭だって言っても、もうこのお屋敷には、あたしともう一人しかいませんけどね。あたしはジルと言います。このお屋敷に努めてもう二十年になりますかね」
「それで……、ジルさんはどうしてこの部屋に?」
シオンが訊ねると、ジルは思いつめたような表情をして、自分よりも頭一つ半は高いシオンを見上げた。
「お願いです、旦那様を――、旦那様を探してください!」
ジルは、今にも泣きだしそうな顔をして、そう言った。




