帽子屋と消えた遺体 9
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子爵が帰った後、応接室に残っていたルドルフ警部がちっと舌打ちした。
「あの親父、俺だけの時と明らかに態度が違う」
よほど厭味を言われ続けていたのか、ルドルフはしかめ面でポケットからシガレットケースを取り出した。だが、葉巻を口にくわえたところでハッとすると、葉巻をシガレットケースに戻す。今年十二歳になる次女に禁煙すると約束したのだ。
「しかし、娘の交友関係も知らねぇなんて、よくあれで父親を名乗れるもんだ」
「まあ、知っていたとしても言えないでしょうね」
「……どういうことです?」
葉巻のかわりに応接室の机の上においてある飴を口に入れて、ルドルフは不思議そうな顔をする。
「子爵はマルグリート嬢を娼館に売りに行ったそうです。その途中で行方不明になった。彼女が行方不明になる前に会っていた人物なんて、普通に考えて出したくない名前でしょうね。まあ、それでも彼女の友人の名前くらいは言えたかもしれませんが、おそらくそのあたりは本当に知らないのかもしれませんね」
シオンが声を落として告げれば、ルドルフが目を剥いた。
「なんだって!?」
「警部、声が大きいですよ」
「しかし! ……このことが本当なら……」
「この情報に間違いはないでしょうが、だからといってどうすることもできませんよ。下手に騒げば逆にあなた方が不利になる。証拠もありませんしね。それに、別に法に触れているわけではありません。人身売買は確かに違法ですが、自分の身内をどこで働かせようと、残念ながらそれは、法に触れるわけではありませんからね」
このことが明るみに出たところで、せいぜい、子爵の家名に泥を塗るくらいの効果しかありませんよ――、シオンはそう言って肩をすくめる。
「さて、いつまでもここにいても仕方ありませんから、戻りませんか。子爵の情報は全く役に立ちませんが、シャルルさんが調べたという、被害者が会っていたという人物リストに興味があります」
シオンは部屋を出て行ったが、ルドルフはまだ納得がいかないという顔で腕を組んだ。




