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ブラックシープ~人形姫との下僕契約~  作者: 狭山ひびき
Act.1 人形姫との下僕契約

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蛇の意味 8

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「ずいぶん飲んだのね」


 帰りの馬車の中で、シュゼットがあきれたように言った。


 酒には強いシオンだが、苛立った様子で飲み続けるローデル男爵につき合って、結構な量を飲んでいた。思考ははっきりしているが、顔が熱い。


「それで、何かわかったの?」


 シュゼットが内緒話をするように声を落とす。


 シオンは肩をすくめると、


「ローデル男爵と夫人の夫婦仲は良好だったという話だが、どうにも様子がおかしかった。あと、どうもキャロルは貴族の出ではないらしい。身寄りのない女性だというから、身内を早くに亡くしたのか、孤児だったのか……、どちらにせよ、そういう女性を妻にするというのは、少し珍しいね。少し調べてみてもいいかもしれないよ」


「ふぅん……。なんだか解剖どころの話ではなくなりそうね。まあいいわ、面白そうなことには変わりないもの」


 そう言いながら、シュゼットはドレスの袖の中に隠していた手紙を持ち出した。


「シュゼット、それは?」


「男爵の書斎にあったの」


「持ち出してきちゃったの!?」


「だって、全部読み終えていなかったんですもの」


 シュゼットはけろりと答えて、手紙をシオンに差し出す。


「そんなことより、この封蝋に見覚えってある?」


「封蝋……、げ、蛇? こんな趣味の悪い封蝋なんて、少なくとも俺が知る限り一つもないよ」


「そうよね。わたしも知らないもの。アークも知らないのよね」


「はい。見たこともありません」


「ね、見るからに怪しそうでしょう?」


「そうだけど……」


「それに、日付を見て」


「日付?」


 シオンは言われるまま手紙の面に書いてある日付を見て眉を寄せた。日付は二年前――キャロルが他界する少し前だ。


 シオンは手紙を取り出すと、無言で中に目を走らせる。そして、徐々に表情を険しくした。


「……なんだこれ」


 シオンはシュゼットに手紙を返す。


 手紙には、キャロルの容態を訊ねる内容と、それから―――、キャロルが死んだら、金を渡すから指定された場所へ来いと書いてあった。


「まるで……、キャロルの死が金になるような言い方だ。まさか、ローデル男爵が自ら自分の妻を殺したとでも? ばかな……」


「そうと決まったわけではないでしょうけど、キャロルの死に何らかの関係があるのは確かね。もしかして、死体が腐らないことにも関係しているのかもしれないわ。……ねえ、アーク、ここ知っている?」


 シュゼットは手紙に書かれている金の受け渡し場所に指定された、貧民街の中にある歓楽街の酒場の名前を見せた。


「『ジプシー』ですか。……聞いたことはあります。褒められたことではありませんが、近衛隊の人間はこのあたりに詳しいですから。城に帰って、知り合いにでも聞いてみましょう」


「お願い。誰にでも入れそうな場所なら、少し調べてほしいわ」


「わかりました」


 アークが頷くと、シュゼットはシオンに視線を投げた。その、何か企んでいそうな目に、シオンは嫌な予感を覚えて視線を逸らす。だが、シュゼットは気にせずに、にこっと純真無垢な表情を浮かべてこう言った。


「それから、シオン。キャロルのことを詳しく調べたいの。できればローデル男爵と出会う前から死ぬまでの間のことを詳しく。……『帽子屋マッドハッター』は元気かしら?」


 げっとシオンは思わずうめいた。


 嫌な予感的中。ろくでもない名前が出てきて、シオンは聞こえなかったふりをして、馬車の窓外の景色に視線を移す。


 帽子屋――、そう名乗る男が、シオンは大の苦手だった。


 彼は情報屋で、下手をすれば国の機密事項にまで精通しているのかと思われるほど、ありとあらゆる情報を持っていて――または、集めて、それを他人に売って金を稼いでいる男だった。


 神出鬼没で、シオンもどこの誰なのかは詳しくは知らない。


 わかっているのは、彼はいつも帽子をかぶっており、ひょろりとした優男だと言うことだけだ。


 そして、帽子屋はなぜかシュゼットを敬愛しており、「我が君(ユアーマジェスティ―)」と呼んでいた。


 また、シオンには非常に迷惑な話だが、シオンもなぜか彼に気に入られて、「情報料」と称していかがわしいことをされそうになったという嫌な過去がある。もちろん全力で逃げたが、その時のことを思い出すとどうしても怖気が走って、できることならば一生関わりたくない男だった。


「シオン、聞いているの?」


「聞こえない」


 シオンは両手で耳を塞いだ。


 帽子屋にコンタクトを取るのだけは、絶対に嫌だ。死んでも嫌だ。今回ばかりはどうやったって聞かないぞという拒絶を込めて耳を塞いで目も閉じる。


 そんなシオンにシュゼットはあきれた視線を向けたが、目を閉じているシオンは気がつかなかった。


「まあいいわ、彼のことだから餌をまいておけば勝手に来そうだもの。……あら、アーク、あなたも顔色が悪いのね」


「……いえ」


 アークは小さく首を振って、こっそりとため息をつく。実はアークも帽子屋には嫌な思いをさせられている一人だったのだ。


「とりあえず、先に『ジプシー』のことを調べてちょうだい。……ふふっ、面白くなってきたじゃないの」


 シュゼットは今にも鼻歌を歌いそうなほど機嫌のよさそうな声で言い、もう一度ローデル男爵の書斎から無断で拝借してきた手紙に視線を落としたのだった。



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