蛇の意味 6
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「そういえば、奥さんはどうして亡くなったんだったっけか。急だったよなぁ。病死だったのかい?」
ウイスキーを舐めながらグレイがローデル男爵に訊ねた。
グレイはだいぶ酔っているようで、顔が赤くなっている。呂律も少し怪しそうだ。
シオンはポーカーが中断されたためカードを裏返してテーブルの上におくと、二階から戻って来たトムキンスに紅茶を頼んだ。
ローデル男爵は亡くなった妻のキャロルの話は早々に切り上げたそうだったが、酔って空気の読めなくなっているグレイには不機嫌オーラも通用しないらしい。
「そんなようなものだ」
ローデル男爵は投げやりに答えて、手酌でグラスにウイスキーを注いだ。
「まだ若かったのになぁ。あんな美人、どこで手に入れたのかは知れないけど、本当にいい女だった」
「そんなにお綺麗な方だったんですか?」
シオンは機嫌の悪いローデル男爵を気にしながらも、ここは何も知らないふりをして話の乗っておくことにした。何か情報が得られるかもしれない。
「ああ、エドワードにはじめて奥さんを紹介されてときは危うく惚れるところだった。でも、奥さんがこいつにベタ惚れでなぁ、付け入る隙なんてどこにもなさそうだから、無謀な恋はやめたのさ」
「へえ」
「そして中身もいい女だったよ。日曜日のミサには必ず出かけていたらしいし、チャリティーバザーにも積極的、孤児院にまで顔を出しては、自分で焼いたクッキーなんかも配ったりしてなぁ。ほんと、エドワードはうまくやったよ。残念なのは、いい女すぎたからかねぇ、神様が早くに天へ連れ帰っちまったことだけだろうよ」
グレイがおどけてそう言えば、ローデル男爵がぐいっとウイスキーをあおった。
「もう妻の話はよさないか。二年も前のことだ」
「まだ二年だろう。……なあ、奥さんとはどこで知り合ったんだ? 貴族の出じゃないってのは聞いたんだが、あんな美人だ、どこかの富豪のお嬢さんとかかい?」
「……そんなんじゃない。妻は身よりがない女だった」
「へえ、だから孤児院の子供に優しかったのかな」
「さあな。よく、かわいそうだとは言っていたが、詳しくは知らない」
ローデル男爵はトムキンスが用意した紅茶にもウイスキーを落とす。酒の減りが早いことが気になったが、シオンは黙って様子を見た。
(……そんなに、キャロルの話をしたくないのか?)
愛する妻が忘れられなくて、話をするのがつらい――そういうのではなく、ただ話を避けたがっている。ローデルの男爵の苦々しそうな表情を見ながら、シオンは不思議に思う。
これは、キャロルとローデル男爵のことをもう少し探った方がよさそうだ。だが、この場でこれ以上の情報を聞き出すのは不可能だろう。すでに話を切り上げたがっている様子だった。
(これは……、解剖の許可を取り付けるなんて到底無理じゃないのか?)
シュゼットは納得しないだろうか。
シオンはこっそりとため息をついた。




