蛇の意味 4
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「フラッシュ」
親であるグレイがそう言うと、ローデル男爵がチッと舌打ちする、
本日、グレイは絶好調のようで、すでに四戦勝負して三勝目だった。
「もう一回だ!」
最初はウイスキー入りのコーヒーだったが、すでにテーブルの上はウイスキーのストレートに変わっており、酔いが回ってきたらしいローデル男爵が赤い顔で次の勝負用にカードを配りはじめる。
「ねえ」
カードを配り終わったタイミングで、ソファからシオンのそばにやってきたシュゼットが声をかけた。
「ん? レディは退屈になったかな?」
ローデル男爵が苦笑すると、シュゼットは首を縦に振った。
「何か面白いものはないのかしら?」
「面白いものか……」
ローデル男爵は少し考え、
「二階に骨董品を集めたコレクション部屋があるが……、レディには骨董はまだ早いかな?」
「そんなことはないわ」
「そうか、それなら―――、トムキンス、レディを骨董部屋まで案内してやってくれ」
「かしこまりました」
そのやり取りをシオンはハラハラしながら見ていたが、どうやらローデル男爵はシュゼットのことを少し小生意気な子供と大目に見ているようで、彼女が多少偉そうな態度をとっても気にならないようだった。
シュゼットとアークがトムキンスに案内されてリビングから出て行くと、「さあ、もう一勝負」と次こそ勝つ気でいるローデル男爵に促されて、五枚のカードから不要なカードを捨てて新しいカードを拾っていく。
(あと七か三が一枚出たらフルハウスだな)
手元にあるツーペアのカードを見つめながら、シオンは考える。
今回の親はローデル男爵だった。グレイも調子がよさそうだし、ツーペアだと勝てる気はしない。
七か三が出ることを祈りながらカードを変えていると、ふと、グレイが思い出したように言った。
「そういえば、二週間くらい前の新聞読んだか」
「何の新聞だ?」
ローデル男爵がカードを一枚捨てて新しいカードを手にした。
「ルローズ紙だ」
「あいにくと、そんな三流新聞は読まなくてね」
ローデル男爵が肩をすくめたが、グレイは気にしていない様子で笑う。
「まあ、好き勝手書き立てる三流のゴシップ紙だが、あれはあれでなかなか面白いもんだ」
「それで、そのルローズ紙に何か面白いことでも?」
ルローズ紙と言えば、シュゼットが「腐らない死体」の記事を発見した三流新聞である。
ローデル男爵はウイスキーのカットグラスに口をつけた。
「ルブラン教会の墓地から、まったく腐敗していない死体が発見されたらしい」
「ぶ!」
もったいつけた口調でグレイが言えば、ローデル男爵は口に含んだウイスキーを吹き出しかけ、ケホケホと咳をした。
「おいおい、大丈夫か?」
グレイが目を丸くする。
シオンも、まさかその記事のことがグレイの口から出てくるとは思っていなかったのでびっくりしていた。
だが、おかげで切り出す手間が省け、シオンはさも今知ったように目を輝かせる。
「へえ、ミイラですかね?」
「さて、詳しいことは書かれてなかったがね。そんな珍しいものが出てきたっていうのに、ルローズ紙にしか書いてないし、何の騒ぎにもなっていないところを見ると、デマの可能性が高いが、なかなか面白いじゃないか」
「……そうか?」
ローデル男爵はこの話題に乗り気ではないようだ。ウイスキーをあおると、手元のカードに視線を落とす。
「なんだ、いつもは乗ってくるのに」
グレイは不思議そうな顔をしたが、ふと何かを思い出したように頷いた。
「ああ、そう言えば奥さんの墓があるのもルブラン教会の裏の墓地だったか」
「え、ローデル男爵の奥様は亡くなられているんですか?」
「ん? そうか、シオンは知らないよな。ああ。エドワードの奥さんは二年前に他界しているんだ。これがまたすごい美人でなぁ」
グレイが懐かしそうな顔をしながら、生前のローデル男爵夫人キャロルのことを語りだす。
その間、ローデル男爵は不機嫌そうな顔をしてウイスキーを飲んでいたのが気になった。
(もしかして不仲だったのか……?)
だが、酔っているのかグレイの口は止まらず、勝負を一時中断して、グレイの語るキャロルの話に耳を傾けた。




