第92話:アオバトの海岸へ
ホテルに到着して。
ホテルと言っても、豪華なものではなく、お値打ちなビジネスホテル。
各自各部屋へ入って、荷物を置いて。
わたしは。
「シャワぁっ、シャワぁっ!」
冷たいシャワーを、手先足先と、頭に当てて、熱くなった身体を少し冷やす。
ちなみに、全身に冷たいのを浴びちゃうと危険なので、身体、特に心臓近くの胸とかには、当てないように。
末端を少し冷やしたら、お湯に変えて、全身の汗を流して、ボディシャンプーで身体を洗って、シャンプーで髪も洗う。
髪を乾かすのが面倒だけど、しょうがない。
シャワーを終えて、髪を乾かしてると、端末にメッセージ。
カワサキさんから。
『七時にロビー集合、朝ごはんに行ってそのまま現地行くよ』
時計を見ると、六時三十五分。
まだ早朝と言っても良い時間。
なにせ四時半集合だったからねぇ。
なんとか髪を乾かし切って、お着換えして、荷物を揃える。
カメラバックに三脚と、タオルやらの小荷物はポーチに入れて、と。
わたしや方菜ちゃんはそんなに髪が長くないからいいけど。
蘭先輩のあの金髪ロングは、乾かすの大変じゃないのかな?
とか、思いつつ、ロビーに行ってみると。
その蘭先輩も先に来ていた。
金髪ロングをポニーテールにして、しっぽ部分をタオルで巻いている……。
やっぱり、乾ききってないっぽいね。
髪、痛んじゃうよ……。
「おまたせやでー」
最後、方菜ちゃんが合流して、出発。
バイクには乗らず、涼子さんの車に乗せてもらって。
先ずは、朝ごはん!
こんな早朝から空いてる食事場所と、言えば……。
二十四時間営業の、牛丼チェーン店!
各自、それぞれお好みのメニューで。
わたしは、朝定食!
を、ささっと食べて、すぐ。
目的地である『アオバトが見れる海岸』を、目指すべく、再度涼子さんの車に乗り込む。
「おっけー、涼、ナビに目的地セットしたから、この通りにオネ」
「へいへい、了解やでー行くでー」
助手席のカワサキさんが、運転手で妹の涼子さんに、指示。
この兄妹、お年のわりにすごく仲良いなぁ。
ちなみに、この涼子さんの、車。
結構大きくて、運転席の横の助手席の後ろ、後部座席が二列。
後部座席の前側は、二つシートがあって、蘭先輩と、わたし。
最後部の三人掛けシートには。
「涼子はンっ、スロットル全開で行きまひょっ!」
ノリノリの、方菜ちゃん。
「アホボケカス法定速度順守やボケ早よシートベルト締めんかボケ」
あはははは。
ボケ、ボケ、って、ものすごいな、関西のヒト……。
ちなみに、方菜ちゃんのシートの脇には、みんなの荷物が並べられていて、シートベルトをうまくひっかけて荷崩れしないように。
三脚は、方菜ちゃんの足元に、ゴロゴロ。
「ほな、行くでー」
優しく、ふんわりと。
涼子さんの車が、牛丼屋さんの駐車場から、滑り出す。
大きな幹線道路を少し走った後、海岸方面の脇道へ入って、そこからまた少し。
相変わらず、涼子さんの安全運転。
見ていると、せわしなく左右、後方を首を曲げ、場合によっては、上半身を回して周囲を確認しながらの、走行。
車とバイクの違いはあれど、見習うポイントは、多い。
ついつい、わたしも一緒になって左右後方、確認してしまう。
左折ウインカーから、左方向へ曲がる直前。
左後方から、すり抜けスクーター!?
「あっ!」
言うのと同時に、カクン、と、車体が止まる。
もちろんの事、涼子さんもスクーターに気が付いて、左折を中断してブレーキ。
その左脇をスクーターがノンストップで過ぎて行く。
「アホがすり抜けしよってからに……ホンマ、アホばっかしやな、ホンマに」
愚痴愚痴、言いながらも、再度、左右後方確認しつつ、左折。
さらに脇道へと入れば、もうすぐそこが。
ナビの案内も『目的周辺ですガイドを終了します』と。
「到着やでー」
「はい、お疲れサンキューな」
「かまへんかまへん」
また、ご高齢兄妹の、やりとり。
わたしと蘭先輩も車から降りて、最後部の方菜ちゃんが降りられるように、荷物を取り出せるように、スペースを開ける。
荷物と方菜ちゃんを車から降ろして。
「忘れもん、無いかー?」
「大丈夫」
「ほな、ウチはちょっと流してくるよって。帰る一時間くらい前にメッセしてや」
「ほいほい。気ぃつけて、な」
「ほななー」
さて、ささーっと去る涼子さんの車を見送って。
潮の香、海の香の漂う海岸近く。
とっとと、三脚、カメラのセットアップして、さあ、アオバトを探しに。
「あ? なんか変わった鳴き声が聞こえてくる……」
言われると、確かに、何やら、聞きなれない鳥さんの声が。
はて、いずこ??




