第86話:梅雨の晴れ間にオオヨシキリさん、初
「春の渡りも過ぎたっぽいねぇ」
しみじみ。
GWも終わって、季節は、一応、梅雨。
カラ梅雨なのか、梅雨入り宣言されるも、雨はまばらで、今日も快晴。
公園から、鳥さんが一気に、居なくなる。
せっかくの、月いちの、公園なのに。
受験の関係もあり、許可された月に一度だけの、午前中。
毎日、三人で集まってお勉強会。
意外なコトに、方菜ちゃんもそこそこの学力。
ウチ高校の編入試験も楽々だったらしい。
そんな方菜ちゃんから。
「この時期ゆーたらギョギョシやけど、公園おれへンなぁ。どっかで見れませンのン?」
「ギョギョシ?」
なんだそれ? 変な名前の、鳥さん?
「ギョギョシ? あぁ、オオヨシキリか」
って、カワサキさんには解かったらしい。
「北池なら居るかもですね……そういえばしばらくと言うか、全然行ってませんでしたが」
蘭先輩もさすがにご存知らしいし、居場所まで。
「んだな……ちょっと遠いケド、行ってみるかぁ」
てな訳で。
公道に出るため、いったん三脚をたたんで自転車のカゴに積み込んで。
カメラはいつものたすき掛け。
蘭先輩を見てはいけない。絶対に見てはいけない。
「うわっ、蘭はン、めっちゃエロっ!」
うわぁああああ。
しかし。
きょとんフェイスの、蘭先輩。
「何がエロいですって?」
無自覚、蘭先輩。
「方菜ちゃんっ! それダメっ! 見ちゃダメ言っちゃダメっ!」
わたしが叫ぶと。
「あー……」
なんとか、察してくれた、方菜ちゃん。
「大変ぉ、すンませン」
「だから何がエロ!?」
「あぁ、関西弁で『えらく』とか『えらい』ってのを『えろぉ』って言うのよ。『えらく、もうしわけないです』が『えろぉ、すんまへん』って感じ」
カワサキさん、ナイス解説っ!
そんな与太話をしつつ、公園を出て、公道を少し走って。
クルマがいっぱい走っている、片側三車線ぐらいある、『えろぉ』大きな通りを超えて。
しばらく住宅街を走行して、その住宅街を抜けた先。
聞こえて来た。
『ギョギョシ、ギョギョシ、ギョシギョシギョシ』
うわぁ。
なるほど。
方菜ちゃんが、『ギョギョシ』って言ってた意味が一発でわかっちゃったわよ。
鳴き声が、その通りだったわ。
一羽だけでは、なさそう。
葦原の中で、いっぱい、沢山、鳴かれてますね……。
でも、姿は見えず。
どんな鳥さんなんだろう?
図鑑で見たコトはあるハズだけど、どんな鳥さんだったか。
実際には見たコトが無い鳥さんなので、ちょっとピンと来ない。
ピントが来ない、は、ピントが合わないコトだけど。
意味的には、似たり、寄ったり。
自転車を止めて、三脚を出しながら、葦原を眺めて、声のする方を探してみるけど。
ステレオ放送よろしく、あちこちから聞こえて来るので、狙いが定まらず。
でも。
「あ、あれかな?」
うす茶色っぽい、小鳥さんが葦原の上をすーっと飛んで移動して、また葦の中へと消えてゆく。
「そうそう、あれあれ」
三脚にカメラをセットしてから、図鑑を取り出して、ギョギョシさんを探す。
ギョ、ギョ、ギ、キ……。
「じゃなくて!」
オオヨシキリ。『オ』か。最初の方かな?
ぺろぺろと頁を捲って。
「おぉ、この子かぁ……」
葦の幹にとまって、大きくクチバシを開いてる姿。
身体はうすい茶色? なんだけど、クチの中が、真っ赤と言うか、真オレンジ?
ほぉほぉ。
ただ、図鑑のように、上の方に出て来てはおらず、下の方に居るらしく姿は見えず……。
「ちょっと遠いですけど、あそこに見えてるのがそうじゃなくて?」
蘭先輩の示す先。
確かに。
手前から池の方に向かって葦が広がっているんだけど、その池側の端の方。
遠い上に手前の葦で狙いにくいけども……。
照準器でアタリを付けて、ファインダに導入して。
カメラの機能で拡大ズームしてみると。
「おぉ、これがぁ」
オオヨシキリさん、はじめましてのゲット。
と、思ったら。
「あっ! 飛んだっ!」
どこへ行ったかと、カメラから離れて、飛び去った方角を見てみると。
そのオオヨシキリさんは、少し高く、まっすぐ飛んで。
即座に照準器で捕捉しつつ、シャッター切ってみる。
すると、オオヨシキリさんは、わたしたちが居る道路の脇にある街灯の上に!?
「えらいとこ、とまンなぁ……」
「たまに電線とかにはとまるけど、これは初めて見たな、ウチも」
わりと詳しい方菜ちゃんもカワサキさんも驚きの光景、らしい。
しばらく、その街灯の上で盛大に鳴いた後、また葦原の方へと戻り。
葦の上の方で、またひとしきり鳴いて。
今度は、下方向へと飛んだかと思ったら。
「おぉっ?」
追いかけっこ。
別のオオヨシキリさんと、激しいドッグファイト。
鳥さんだけど、犬ファイト。
空中戦。
葦の上スレスレを、右へ左へ。
一瞬の出来事だったけど。
どうやら、追い払った? みたいで、また元の場所に戻って、鳴く。
「ああやって鳴いて、メスが来るのを待ってるんだろうね。縄張りに入った別のオスを追い払ったのかも?」
とは、カワサキさん。
なるほど。
場所を変えて鳴いているのは『ここがオレさまの陣地だぞー』ってコトでもあるのかしら?
「時期的にはもうペアリング終わって、営巣はじめてる時期だから……行き遅れ、かも?」
おぉっと。
そういう事もあるのか、と。
笑っちゃいけないんだろうけど、笑っちゃいそうになったわ。
そんな、こんなで。
オオヨシキリさん。
堪能、させていただきましたっ!
まぁ、羽もキレイ、とか、顔もカワイイ、とかって系統ではありませんでしたが。
鳴き声も、ウグイスさんとかオオルリさんみたく、キレイじゃないし?
これは、これで!




