第78話:ハンドガン・ガール~肌色のプリンセス①
『こちら【肌色の刃】そのまま樹に隠れながら前進して』
『【肌色の牙】了解』
骨伝導式のヘッドセットから聞こえるお母さんとお父さんの声に。
「ぷ、ぷ、【肌色の姫】、りょ、了解?」
戸惑いながらも、ヘッドセットのマイクに応答する。
『プリンセスはファングの後に着いて、絶対離れちゃだめよ?』
「りょ、了解」
先を歩くお父さんの後を着いて、樹々の間を進む。
樹々の間からは……。
ヒヨドリさん、シジュウカラさん、それにハシボソガラスさん達の鳴き声。
ヘッドセットをしてるけど、骨伝導式なので補聴器とも干渉しない。
右手には、カメラ……ではなく、拳銃……。
ごっついゴーグルで目を覆い、顔の下半分もフェイスマスクで防護して。
いきなり、何が始まったか?
『春休み・家族対抗サバイバルゲーム』
お話は少し前にさかのぼる。
方菜ちゃんのご両親がカワサキさんにご挨拶を、と、公園を訪れる事になり。
わたしの両親も、と、集合した公園で。
カワサキさんと方菜ちゃんのご両親、それにうちの両親で盛り上がり。
何がどうして、どうなったのか、全く謎展開ながら。
春休みに『家族対抗でサバイバルゲームを』って事になったらしく。
蘭先輩のところは、ご両親は忙しくて参加できないとのことで、カワサキさんと涼子さんでご参加だとか。
会場は、その涼子さんの家が所有している山林。
涼子さんの一族でもサバイバルゲームをする人達が居らっしゃるらしく、すぐにゲームができる状態で、宿泊もできるんだそうで……。いや、もう、何と言いますか。
あはは。
はぁ……。
「なンやそれ。めっちゃ面白そうやン! 教えてぇな」
方菜ちゃんもなんかノリノリで前ノメリで。
経験の無い方菜ちゃんの『鈴木家』は、別途カワサキさんと涼子さんから銃の扱い方や戦場でのマナー、ルール等のレクチャーを受け。
ウチはもう、両親が学生時代にさんざんサバイバルゲームをやっていた事もあり、わたしがそのノウハウのレクチャーを受ける事に……。
いや、以前、既に『銃の構え方』を『カメラの構え方』の参考として教え込まれてはいたけど、さ。
今回、ルールとして『拳銃以外使用禁止』って事で、銃の性能差が出ないように、と、カワサキさんと涼子さんが用意した銃を使用するって事らしく。
銃……空気銃をお借りして……。
「スナイパーライフルが使えないのは痛いわね……」
「いや、幸恵がライフル使ったら勝負にならんだろ……」
お父さん曰く、お母さんのライフル射撃、特に『狙撃』はエグイらしい……見てみたい気もするけど、見ない方がいいよね、多分……。
そんなこんなで、家でもお父さんお母さんから銃の取り扱い方とか、戦場でのルールやマナーを叩き込まれ……。
〇戦場以外での銃の取り扱いについて
・銃口を人に向けない。
・引き金に指をかけない。
・弾倉を外し、スライドオープンにした状態(発砲できない状態)で保持。
(回転式の場合、回転弾倉オープンした状態)
など、など……。あと、戦場内でのルールなど、など……。
ひぃい。
ちなみに、蘭先輩はFPSって、銃撃戦のゲームでその素地はあり、実際の空気銃を使うのもすぐに慣れたらしい。
そして、春休み。二泊三日の旅程で。
わたしのところはお父さん運転の自家用車で。
蘭先輩とカワサキさんは涼子さん運転の……なんかとってもすんごいスポーツカーで。
方菜ちゃんとこの『鈴木家』はご両親ともにその名の通りのバイクに分乗して。
戦場のある山へ。
夕刻に山荘へ到着し、女子部屋ふたつと、男子部屋に分かれ。
広いダイニングキッチンに集合。
お母さんズが作ってくれた夕食を平らげた後。
テーブルに並べられた機材はカワサキさんと涼子さんが用意してくれたモノ。
ゴーグル、フェイスマスク、ヘッドセット、防弾ジャケットならぬ、着弾判定ジャケットと帽子……。
ふぇええ。
ゴーグルは、眼に空気銃の銃弾……BB弾が当たらないように、絶対に外してはいけない、と教え込まれる。
フェイスマスクも同様にBB弾が当たっても痛くないように。ケガをする程でもないけど、地肌に当たるとかなり痛いらしい。
ヘッドセットは家族での音声チャットができるように、との事で、骨伝導式。耳に装着すると、外の音が聞こえなくなるからね。
ブルートゥス接続だとタイムラグが大きくなるので、有線でスマホに繋いで、ケーブルは服の中を通してスマホは内ポケットに。これで線が邪魔になることもない。お父さんお母さんが言うには昔は『無線機』を使っていたそうな。
着弾判定ジャケットと帽子は、BB弾が着弾した事がわかるようになっている特殊な素材で出来たモノだそうで……何やら、涼子さんの一族の企業で開発している試作品らしい……
どうやら今回の家族対抗サバイバルゲームはこの素材の実験も兼ねているらしく。
どうりで装備品や宿泊施設も含めて、至レリーの尽くセリーだった訳ね。
と、言う訳で。
そのジャケットと帽子。
家族単位で色違いに。
琥珀色……アンバーは、方菜ちゃんとこの鈴木家。
黄土色……オーカーは、蘭先輩、カワサキさん、涼子さんのチーム。
そして、うちの『河崎家』は。
「肌色ですか……一番目立ちますね……」
「一番経験豊富みたいだし、ハンデですよ、ハンデ」
そんなハンデいらないよぉ……ぐすん。
「明日は午前中は戦場を確認しながら練習。午後から実戦本番、ってことでヨロシク~」
だ、そうで……。
わたしたち『娘組』で一部屋に集まって。
「なンや、ワクワクすんな、これ」
「はぁ……なんでこんな事に……」
教えられた通り、スライドを後ろにずらした状態で全開にして、銃握を握りつつも、人差し指を伸ばした状態で引き金には指を掛けないよう。
プラスチックの筈なのに、中に金属も入っているのか、意外と重い。
「ふふふ……これでふたりも……」
蘭先輩が何やら不敵な笑みを浮かべていらっしゃいますけど、やりませんよ?
今回は、両親のお願いもあり、やむなく感。
「ホントならサブマシンガンやライフルなんかも使ってみたいところですけどねぇ……」
蘭先輩、さらに物足りない感もあるらしく。
はて、さて。
どうなり、ますやら?




