第57話:チョウゲンボウさんが親指立てて『イイネ!』してる!?
「ねぇねぇ、蘭、蘭」
「その呼び方はやめてくださいまし……」
「? 蘭先輩!」
「それもヤメロ」
「あはははは。ホンマ、おもろいな、あンたら」
爆笑する鈴木方菜ちゃん。
今日は連休の中日。
日中はまだまだ暑い日が続いてるけど、早朝はずいぶんと涼しくなってきたかな。
そんな早朝の公園で。
「それで、何なんですの? 永依夢」
そうそう。
「以前に撮った写真、見返しててさ、ちょっと面白いの見つけたの」
「どれですの?」
それは、チョウゲンボウさんの写真。
チョウゲンボウさんのお母さんが巣のすぐ側に着地する瞬間の写真。
「ここのとこ、チョウゲンボウさんが親指立てて『イイネ』してるでしょ?」
スマホに転送した写真を表示して二人に見せる。
「ん?」
「んん?」
蘭先輩も方菜ちゃんも、ぽかん。
「小翼羽やな」
「小翼羽ですわね」
「しょうよくう??」
「小さな翼の羽、で、小翼羽」
「この親指んとこ?」
「親指、ちゃう、て」
方菜ちゃん大笑い。むー。
「ふへへ……蘭はン、説明したって」
「私も、上手く説明できるかどうか……」
と、そこへ。
「どうした? 何、盛り上がってるん?」
カワサキさん。
「おじさま、永依夢に小翼羽の説明をしてあげて頂けません?」
「小翼羽? ああ……これは、ねぇ」
カワサキさんの説明によると。
鳥は、翼を使って飛行する。
翼は、空気の流れを制御して、浮かび上がる……飛ぶ事が出来る。
ただし、進行方向に対して、翼が水平の場合。
着地の時等、進行方向に対して翼が垂直方向に傾いた場合。
この空気の流れが無くなって、浮かぶ……飛ぶ事が出来なくなる。
つまり、落っこちちゃう。
これを『失速』と呼ぶそうな。
進行方向に対して翼が傾く角度の事を『迎角』『迎え角』と呼ぶんだって。
迎え角がきつくなる、つまり垂直に近くなるほど、翼が、翼としての役割を果たしてくれなくなる訳ね。
ただ、その時。
この親指……もとい、『小翼羽』を立てる事で、その空気の流れを強制的に捉まえて、浮いていられる時間を少し長くできる。
だ、そうで。
「これに限らずだけど、鳥の飛行の仕組みは飛行機とか新幹線とかに応用されてるんだよ」
「へええ!」
この、小翼羽の働きは戦闘機の翼にも応用されてるんだとか。
まあ、飛行機自体が、『鳥のように空を飛びたい』って、作られたって言うしねー。
「フクロウの翼の消音機能とか、新幹線に応用されてるんだってね」
フクロウは、夜行性で、夜に狩りをする。
獲物となる側の動物も夜行性で、目よりも耳が発達している。
そんな獲物の耳に、翼の音が届かないように、飛ぶ時に翼が風を切る音を軽減する機能が、フクロウの翼にはある、らしい。
それを新幹線に応用して、新幹線が高速で走る時に出る風切り音を軽減してるんだとかなんとか。
カワサキさんが色々と(端折ってだけど)教えてくれた。
詳しい事は、ネットで調べられるんだって。
ちょっと興味が沸いたので、調べてみよっかな!
と、思って、『小翼羽』を検索してみたら、すんごいレポートが出てきた。
実験とか考察とかまでしてあって、大学生のレポートかと思ったら、なんと、中学生のレポートだった……すごすぎっ!?




