第55話:鳥撮りの利点と問題点に気付く
「でも、公園の東側にあるのに、なんで『西池』なんだろう?」
サシバさんが飛び去ってしまい、西池のほとり。
ぼそっと零れたわたしのひとり言を方菜ちゃんが拾う。
「あぁ、公園は関係あらへンやろ。この辺の地区の西っ側にある池、ちゃうか?」
「方菜ちゃん、正解」
カワサキさんが回答。
「工場の横に少し大きな道路があるでしょ? あそこで住所が分かれてるからね。ここらへんはこっちの住所の西側」
「なるほど」
そんなどうでもいいような話をしていると。
キキキキーーーッ!
「あ、カワセミや」
方菜ちゃんが指さす池の水面。
「あれかっ!」
カカカカカっ
カワサキさんがカワセミさんに向けて発砲……じゃなくて、連続撮影。
「え? どこですのっ!?」
蘭先輩、きょろきょろ。
わたしはカワサキさんのカメラの向きから、水面すれすれを飛ぶカワセミさんの姿を肉眼では捕らえたものの。
「あー……行っちゃいましたねぇ……」
反応できず。
カワサキさん、結構なお歳のハズなのに、その反射神経はスゴ過ぎ。
「おーっし。撮ったどー」
どや顔のカワサキさん。液晶に撮った写真を映して見せてくれる。
「遠かったから、ちっちゃいケドねー」
それでも、はっきりとカワセミさんとわかるくらいには写ってる。
んー、やっぱり年の功か、慣れか。
「そろそろ、戻るかー」
と、そのカワサキさんの音頭で、西池を離れる事に。
いつもの『公園』へ戻る途中。
さっき話題に出た少し大きな道路と、工場。
その工場の建物の屋上に。
「何か居ますわね……」
今度は蘭先輩が何かを見つけたらしく、自転車を降りてカメラを構える。
「あれやな」
自転車に乗ったまま、方菜ちゃんが双眼鏡を片手に。
「ん? どれ?」
カワサキさんも自転車から、蘭先輩のカメラの方を見る。
わたしも自転車を片足で支えながら、腰にぶら下げたカメラを取り上げて構える。
「イソヒヨやな」
「ええ、イソヒヨドリみたいですわ……あっ!」
なんか、飛んだ。飛んで、こっちに来る!?
その鳥さんは、目の前の木にとまった。
「ぉう、こいつか」
カワサキさんもさすがに気付いて、自転車から降りてカメラをセット。
「こンな場所にイソヒヨとか……珍しいンちゃう?」
「ええ、私も始めて見ましたわ」
「そうだね、ウチもここら辺で見るのは初めてかも……」
ほぅほぅ。そんなに珍しい鳥さんなのか。
とりあえず、撮れるものは撮れる時に撮る!
ぱしゃぱしゃ
「あ」
木の上で、何度か枝を渡り歩いたかと思うと、また工場の屋上へ。
そのまま見えなくなってしまった。
ささっと図鑑を取り出して『イソヒヨドリ』さんを探す。
ふむ。本来は海辺に近いところに居らっしゃる、と。
なるほど、だから『磯ヒヨドリ』さん、か。
わりと内陸にあるここら辺りに居るのは、珍しいのね。
行くところに行けばいっぱい居るけど、居ないところには全然居ないタイプの鳥さん、かぁ。
ふむふむ。
何故ここに居たか?
それこそ、そこに居たイソヒヨドリさん自身に訊く他無いけど、訊くに訊けず。
そんな不思議も、鳥さんの不思議。滅多に無いケド、無くは、無い。
だそうで。
そして、ふと、思う。
「これ、わたし一人だったらほとんど見落としてるだろうなぁ……」
またぽろっと零れたわたしのひとり言。
「せやな……人数居った方が、色々見つけやすいし、見落としにくぅなるな……」
方菜ちゃんがちょっと神妙な顔で、拾ってくれる。
「うん。皆で居る方が、いいね」
「……」
方菜ちゃん、何やら思案顔。何か思うところがあるんだろうか。
あるんだろうな、きっと。
そしてまたいつもの公園に戻る。
オオタカ島は、公園の東端にある。
なので、『西池』から公園に戻ると一番最初に辿り着くポイント。
「ウチ、ちょっとトイレ行ってくる」
戻って早々、カワサキさんがオオタカ島のすぐ近くにあるトイレへ。
「『西池』の付近にはトイレが無いんですわ……冬場は特にあまり長く居られないのが難点ですわね」
と、蘭先輩の解説。
な、なるほど……それは大きな問題だわ。
この公園にはあちこちにトイレがあるので、その点では便利。
そっか……撮影場所によってはトイレの問題もあるのね。
最初からこの公園がメインだったから気にならなかったけど。
それもあってこの公園から外にはあまり行かないのかー、と、納得なるるん。
★オマケ写真
上:イソヒヨドリさん 永依夢ちゃん撮影風
下:飛行カワセミさん カワサキさん撮影風 夏羽なので、あんまりキレイじゃないです……
んー。写真サルベージしてたら、色々出て来るるん。
イソヒヨは、リアルで撮影した当時は工場じゃなくて家電量販店の屋上にいらっしゃいました。
当時関東方面では『石〇電気』だった関西の『ミ〇リ電化』。別の二軒の家電量販店と合併して『EDI〇N』に変わっちゃったケド。
時代は移り行く……




