第49話:謎の少女に言い負かされる!?
公園の『野鳥写真展示会』本日、二日目。
昨日の一日目、午後から施設前で見張り番とその後はチラシ配りを予定通り。
夏休みも後半を過ぎ、帰省から戻った小さなお子様連れのファミリーがわりと多かった。子供向けの施設を中心にチラシを配って歩いてみたりした。
天気が良すぎて、暑すぎて、ヘロヘロになりつつ。
二日目の今日は逆に、朝からチラシ配りでその後、見張り番と会場案内。午後からは一旦フリーになって、最後、撤収のお片付け。
ってことで、結構キつかったりするので、早朝の鳥撮りはお休み。どうせ鳥さんもほとんど居なくて空振り多いいしねぇ~。
蘭先輩たちと八時に施設前集合で、会場の鍵を開けてもらってチラシを取り出して、いざ。
八時とは言え、陽はもう既に高く昇り、もう猛暑。
「さてー。どこから配りますかねぇ」
蘭と二人、園路を歩きながらどこを目指すか?
「まだ、朝早いですから、人が少ないですわね……」
「だよねぇ」
居るのはだいたい、ランニングやら体操やらのトレーニング中の方々か、散歩の年配の方とか。後はわたし達みたいな鳥撮りさんか。
トレーニング中の人にはいい迷惑っぽいのでスルーして、散歩のおじさん、おばさん達には声をかけてチラシを渡す。このパターンは、わりと受け取ってもらえたりする。
まあ、迷惑そうにスルーされるパターンも泣きにしもあらず。誤字だけど、言い得てミョー。
「また何か『しょーもない事』を考えてますわね?」
「え? え? なんでわかるの?」
「顔に書いてありますわよ?」
「ええええ!? 顔洗わなきゃっ!」
「ホントに……永依夢と居ると飽きないですわね……」
「えへへーっ(照れっ)」
「褒めてませんわよ?」
「!?」
とかなんとか、蘭先輩と漫才つつ、子供向けの遊具がある広場を目指していると。
「あれ? あの子……?」
「見かけない顔ですわね……」
園路の交差点はところどころロータリーになっていて、交差点の中央に花壇があり、その周囲にベンチがある。そのベンチの一つ。木の陰の涼しそうなところに女の子が座っていた。
歳の頃は、わたし達より、少し小さい……中学生? 真夏ではあるけど、長そで長ズボンで、首から双眼鏡ぶら下げている。
その女の子は座ったまま上を向いて、ペットボトルをおでこに当てている。どうやら頭を冷やしているっぽい感じ。
「具合でも悪いのかな?」
「鳥見に来て、歩き回って熱射病か熱中症にでもなりましたですかね?」
「とりあえず、行ってみよう。具合悪いなら介抱しないと」
とてとて、と女の子の座っているベンチに近寄って。
「おはようございます。どうかされましたか?」
「ンぁ~?」
ペットボトルをおでこから外して、気怠そうにこっちを……睨みつけられた!
「なンや? アンタら? ウチになんぞ用でもあンのンか?」
うわあああ、涼子さんだ! いや、違う。単に関西の子か……?
「あ、いえ。なんか、具合悪そうに見えたんで、気になって」
「あー……、暑ぅてヘバってるだけゃ。気にせンでえぇ、放っといて」
「その双眼鏡……もしかして、バードウォッチング、ですか?」
「せや……ン? なンや、それ?」
やっぱり。バードウォッチャーのようだ。わたしが手に持ってるチラシに興味を持ってくれたみたい。
「今日、この公園の野鳥の写真展をやってるんですよ。わたし達の撮った写真も展示してるんで、よかったら観に来てくださいっ!」
昨日もだったけど、同じように早口にアピールしつつ、チラシを手渡す。
「……」
関西弁の女の子はチラシを受け取って、しばらくじっと見て。
ぽぃっ。
捨てたっ!?
「えええええっ」
あわてて、回収。
「ななな、な、何するんですかっ!?」
女の子は、ぷいっ、と横を向いて。
「ふンっ。どーせ、えげつないことシて無理矢理撮ったンばっかなンやろ? そンなもン、観とぅないわ」
「そ、そんなことっ!」
「無いとは言わさへンで」
こっちを見据えて来る。
「そんなこと、無いです!」
わたしだって、言い返す。
「ウチ、知っとンねンで? アンタらカメラマンが、どない悪ドぃコトして撮っとンのか」
「え……?」
女の子が、語る……。
「写すンに、木ぃが邪魔ゃ言ぅて天然記念物の木ぃ、切ってモぅたり」
「……」
「入ったらアカン、そこは私有地ゃ言ぅてンのに聴かンと入ってったり」
「……」
「雛鳥の写真撮るぅ、言ぅて営巣場所入って、巣ぅ壊してモぅたり」
「そ……!」
蘭せんぱあああい! ちょっと泣きそう。と、言うか、そんな事する人が居るの!? って、驚きを隠し得ない。
蘭先輩を見ると、苦虫を噛み潰したような表情で足元を見ている。
「……貴女の仰る通りですわね……」
「蘭!?」
蘭先輩は、わたしを遮って続ける。
「でもそれは、ほんの僅か一握りのマナーのなっていないヤカラの仕業であって、カメラマン全員がそうではありませんわ」
「せやな」
女の子はまた上を向いて、ペットボトルをおでこに当てながら話を続ける。
「アンタの言ぅ通ぉり、確かにみンながみンな、言ぅ訳ゃあらへンのやろな……」
「ええ、ですから……」
蘭先輩を遮って、女の子が続ける。
「せやったら、自分らかて、そンなヤカラ止めなアカンやろ? 黙って見過ごすンやったら、そいつらも、アンタらも、同罪ゃで?」
「……」「……」
わたしは、そんな人達が居る、なんて事を、今、初めて知った。
蘭先輩は、きっと知っていたんだろう。
蘭先輩もわたしは何も言い返せない。
女の子は『あぢぃー』と言いながらペットボトルをおでこにぐりぐりしている。
…………!
「とりあえずっ!」
「ナ、ナンやっ、いきなシ大っかぃ声出しよって!?」
「とりあえず、会場、クーラー効いてて涼しいんで、そこで涼みましょう!」
「はぁ?」
「さぁ、こっちです!」
「待テゃ、こらっ! 待たンかいっ! ゥわァ! ドコ連れてクねン! イやァ! 拉致られるぅううう」
いや、もう、とりあえず、クールダウン! クールダウン!
頭冷やしてもらおうっ!
まさかの新キャラ登場。
てか、涼子とキャラかぶってるしなぁ。
ゲストで終わるか、レギュラー入りするのか、なるるにもわかりまへん!




