第38話:夏の遠征④~またうなぎ? そしてオレンジ色の憎いヤツ
四人乗りトラックから降ろされた自分の自転車の後ろの荷台部分、何やら見覚えのないモノが付いてる。
そういえば、車で移動中にカワサキさんに『永依夢ちゃんの自転車の荷台空いてるみたいだから、ちょっと荷物載せちゃってよい?』と確認されて『いいですよ~』と軽く答えたっけか。
近付いてよく見てみると、それは『クーラーボックス』だった。
「買って来た氷と飲み物、ここに入れてね~」
カワサキさんがそのクーラーボックスの蓋を開ける。
「自販機はあちこちにあるから何処でも飲み物買えるとは思うけど、念のためね」
なるほど。
「あと、ウチに余ってたペットボトルホルダーも付けといたから」
なぬ?
自転車のハンドル部分を見ると、確かに見慣れないモノが。
「それから、これ、保冷ケースね」
と、ペットボトルをそのまま入れられるケースまで。
至れりー、尽くせりー。
わたしの三脚は軽いから前かごでもOK。
カワサキさんと蘭先輩の三脚は重いので後ろの荷台に取り付けたカゴに居れている。
カメラはバッグから出して、肩にかける。
片方の肩だと滑って落っこちる可能性があるので、たすき掛けに。右肩からかけてカメラを左手側の腰あたりにぶら下げる感じ。そうすれば、とっさの時に右手でカメラを掴んでそのまま撮影できるんだけど……
「永依夢、何? 私の顔に何か付いてまして?」
「あ、いや、何でもない、何でもない」
カメラの重さも違うから、蘭先輩がカメラをたすき掛けにすると、反則です。卑怯です。許し難いです。
……とりあえず、見なかった事にしておきましょう。
そんな感じで準備をしていると涼子さんが『ほなウチはホテル戻るさかい。帰りん時、電話くれたら迎えに行くよって』と言って車で去って行った。
ちょうど、日の出。
「じゃあ、行こか」
「ええ、参りましょう」
「はいっ!」
コンビニの駐車場から自転車でスタート。
幹線道路を渡って反対側の狭い道へ。少し進んだ先を左に曲がると……
「わっ」
住宅の間を抜けてすぐ、田んぼが広がっていた。
道はその田んぼの間をくねくねと曲がりながら続いている。
その道を自転車でキーコキーコ。いや、ちゃんと整備したからそんなサビついたような音はしないんだけどね。
ところどころ田んぼの中に真っ白な鳥さんが居るのが見える。
「あれはダイサギだな……コサギも居るか」
ダイサギさん、コサギさん。大きな真っ白な鳥さん。シラサギの名前はチュウサギさんも含めた総称で正しい名前じゃない。
特に珍しい鳥さんではなく、いつもの公園だけでなく、わりとどこにでもいらっしゃる感じ。
なので、わざわざ停まって撮る事も無い。
走っていると時々、目の前や上空を小鳥さんが横切る。
スズメさん、ムクドリさん、ハトさん。わたしが見てもわかる。
んー。そうそう珍しい鳥さんには出会えない、か。
ちょっと期待し過ぎていた感もあり。
少し走って、十字路。
全方位、田んぼ。緑の稲穂が緩やかに波打っている。その十字路の脇に自転車を停めて、一息。
陽が昇ると一気に暑くなって来た。ペットボトルのお茶をぐびる。
「んー。すぐ見つかるかと思ったけど、手強いな」
「みたいですわね」
「ケリさん以外も珍しい子は居ない感じですね……」
「さて、どっちに行くかな」
カワサキさんが、三方の道路を見比べる。
「ここはビギナーズラックに期待して永依夢が選んでみてはいかがかしら?」
「えー」
蘭先輩、丸投げデスカ?
今来た道からまっすぐ進むか、右に折れるか、左に曲がるか。
左に折れるとすぐに大きな通りに戻ってしまいそう。
まっすぐ進むと、田んぼの先が住宅街。
「んー、そうだなぁ……」
ここは、なんとなく、右、かな?
「右で!」
「よっし、行きますかー」
「はい! ですわっ」
また自転車で走り出す。
ゆっくり、きょろきょろ。周りを確認しながら、事故にも注意。
そうすると、道がだんだん狭くなってきた。一応、舗装された道路だけど、道幅がさっきよりずいぶん狭い。
キーっ。
突然、カワサキさんが停まった。あわててわたしも停まる。蘭先輩も。
自転車を降りたカワサキさんが、こっちを向いて人差し指を口の前に立ててから手招き。何か居る模様。カワサキさんはしゃがんで手持ちカメラを田んぼの方に向けた。
そーっと自転車から降りてカメラを手に、カワサキさんに近付いてみると……
「!?」
一瞬、ペンギンさんかと思ったけど、いや、まさか。ずんぐりした感じのわりと大きな白い鳥さん。背中は黒っぽい。
ゴイサギさんだ。すごく近くに居たのも驚いたけど、もっと驚いたのはそのゴイサギさんが咥えている『モノ』。
「うなぎ!?」
ゴイサギさんは自分の体長ほどもある長い『モノ』を口に咥えていた。
「タウナギ、だな」
「あんなのが田んぼの中に居るんですのね」
「今まさに捕まえました! って感じですね」
「どうやって飲み込もうか、悩んでる感じかな……」
などと小声で話しながら三人ともカメラを構えて撮影していると。
「「「あっ!」」」
ゴイサギさんが、飛んだ。
ばっさばっさ。ぶらんぶらん。
咥えたタウナギをぶらぶらさせながら飛び去るゴイサギさん。
「「「あー……」」」
飛び去る姿を撮りながらもため息の合唱。
「あ!?」
飛び去るゴイサギさんをカメラで追いかけていたら、カワサキさんがまた叫んだ。
「アマサギ!?」
「え?」
「どこですの?」
「ゴイサギの行った先のちょい右っ側の、田んぼの中」
言われた方角を見てみると、シラサギさんが複数。
カメラでズームしてファインダーで見ると、普通のシラサギさんとはちょっと違って頭だけオレンジ色になっている。
自転車を押して少し近付く。あまり近付き過ぎると、逃げてしまうかもしれない。ちょうど曲がり角があったので、その角に自転車を停めて、三脚もセットして徒歩でさらに近付く。
肉眼ではまだ少し遠いけど、カメラでズームすると結構、大きく撮れる。
それと、蘭先輩から譲ってもらった『グリップ雲台』もかなりいい。自作の輪ゴム雲台よりはるかにスムーズに捕捉できる。この遠征の前に少し公園で練習して感覚はだいぶ掴めている。
アマサギさんは完全に田んぼの中、稲の間をゆっくり歩く。時々頭を稲の間に突っ込んで……さっきのゴイサギさんみたいに、餌を探してるのかな?
「アマサギの好物はカエルだから、それを探してるんだろうな」
なるほど。カワサキさん、解説ありがとうございます。
しばらく、アマサギさん、撮り放題。
時々少しジャンプしてくれるので、そのシーンも狙ったり。でもいつ飛ぶか分からないし、狙ってる子が飛ばなくて、少し離れたところに居る子が飛んだり。
このあたりも、運と言うか、カンと言うか。
そうこうしていると、道路の反対側から車がやってきた。道路の端に寄って、車をやり過ごしていると……
「「「あっ!」」」
車に驚いたのか、アマサギさんたちが一斉に飛んだ。
群れを成して飛ぶ姿に、あわててシャッターシャッター。
そして、アマサギさんたちは、田んぼの脇にある森を越えて、飛び去ってしまった。
「「「あー……」」」
……残念!
でも、幸先良い初日スタート、かな?
※おまけ写真
上:ゴイサギ(たうなぎ付き) 下:アマサギ
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※カクヨム最新話に追い付きそうですが、日曜サービス、17時にもう一話公開




