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バード・ガール~鳥撮り少女  作者: なるるん
第一章:冬休み
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第14話:おじさまの照準器



 カワサキさんと自転車で、カワセミさんの居る小さな池に到着。


 池の周囲を枯れた(あし)が取り囲むけど、一部は葦が無くて池全体を見渡せるエリアがある。

 前回もそこでカワセミさんを初めて見て、初めて撮った。

 自転車を停めてそこへ向かう。


 すでに何人かの鳥撮りカメラマンさんが居るんだけど、いつもとちょっと様子が違う。


 髪の長い若い女性が居る。

 すらりと長身で、頭には黒茶のニット帽。上は迷彩のダウン。ボトムは黒デニム。ブーツは……ブランドとかわかんないけど、なんかお高そうな。


「よう、ラン」


 カワサキさんが三脚を降ろしながら声をかけると、その女性が振り返った。


 若っ。


 って言うか、わたしと同じぐらい? 高校生か大学生か。かなりの美人さん。


「おじさま! 明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い致します」

「ああ、ラン、あけおめ」

「年始にご挨拶に伺えず、申し訳ございませんでした。こちらにいらっしゃると伺ったので、初撮りを兼ねて参りました」


 きっちり腰を折って年始の挨拶。

 言葉遣いといい、わりとお嬢様っぽい感じ?


「どうも、ご丁寧に。年末年始は親戚巡りだっけ?」

「はい。親戚が多いのも考え物ですよね……」

「あはは。お疲れさん。でも、お年玉はいっぱいもらえたんじゃない?」

「はい。ある意味、そのために行脚したようなものですわ」


 カワサキさんと『ラン』と呼ばれた若い女性が会話している横で、わたしも三脚をセットする。

 内容からしてご家族と言うか、おじさまとか、叔父と姪?。

 あ。カワサキさんからお年玉もらってる。いいなぁ。


 とりあえず、知らんぷりして対岸の葦に留まっているカワセミさんを何枚か撮ってみる。


「おじさまはずっとこちらで?」

「ああ。盆も正月も関係ないからね、ウチは」

「いつもの事とは言え、あいかわらずマイペースですわね」

「あはは。ウチはそれだけが取り柄」


 カワセミさんを撮りつつ、聞き耳。

 若干気になって、ちらちらと二人の方を見てしまう。


 ふと、視界に入ったカワサキさんのカメラを見て違和感。レンズ先端とカメラの上になんか『変なの』が付いてる。

 見ていると、カワサキさんはカメラの上の『変なの』と照準器とファインダーの三か所を見比べている様子。


「ん? あ、これ?」

 じっと見てたらカワサキさんがこちらに気付いた模様。


「あ、すみません。ちょっと気になって」

「ああ、そうだそうだ。永依夢ちゃん、ありがとう。コレ、教えてもらった君の照準器を改良して付けてみたんだ。いや、コレ、電池不要で精度もそこそこで、結構いいよ。普通の照準器が要らなくなりそう。ホント、ありがとう」


 おぉう。まくしたてられてちょっとタジタジ。


 だけど、そうか。わたしの、と言うか、お父さんの『割りばし照準器』。

 割りばしは使ってないけど、同じ原理でアレンジして作ったってことね。


「ちょっと見せてもらっていいですか?」

「おぅ、いいよ、どうぞ」



挿絵(By みてみん)



 カワサキさんがわざわざ三脚の高さを低くしてわたしの身長に合わせてくれた。

 ありがとうございます。

 ごめんなさい、ちっちゃくて。


「この手前の小さな窓から覗いて、レンズの上の窓に被写体を入れる感じで」


 カメラの上に付いている『変なの』に、とっても小さな穴が開いてる。その穴から先端の『変なの』にある窓を通して、カワセミさんを狙ってみる。わたしのと違って、ちょっと見辛いけど、どうにか。

 って言うか、カワサキさんのビデオ雲台、すごくスムーズに動く。いいなあ、コレ。


「被写体が真ん中に入った?」

「はい」

「じゃあ、ここでロックするから、ファインダー見てみて」

 言われた通りにファインダーの方に視線を移すと、カワセミさんがほぼ真ん中にいらっしゃいました。


「永依夢ちゃんの方式だとね、左右はいいんだけど、高さが不安定でさ。眼の位置によってはズレが大きくなるんだよね。だから、高さも強制的にまっすぐになるように、前も後ろも窓の形にしてみたんよ」


 なるほど!

 確かに、言われてみると、左右はいいけど、上下にずれてる事が多かった。


 もう一度、カワサキさん式の『電池不要の照準器』を見てみる。

 窓と窓が重ならないと対象が見えないので、これならズレは最小限にできそう。


 でも。


「ちょっと見辛くないですか、これ……」

 手前の窓が小さすぎるので、窓の中しか見えない。

 まわりが見えなくて、被写体を探す事自体が難しい。


「あー。片目だけで見ようとすると、多分、見辛いよ」

「両目で、ってことです?」

「そうそう。ファインダー使う時もそうだけど、両目使うようにした方がいいね」


 そんな器用な事……


 意識して両目を開けつつ、右目だけ照準器の窓を見る。


 ううーーーーん。難しい?


「おじさま。ダイブしましたわよ?」


 周りからシャッター音が聞こえたかと思うと、隣の女性からも声がかかった。


「あああ! ごめんなさい!」

「あはは。いいよいいよ。よくあるよくある」


 カワサキさんのカメラから離れて、返却。


 うう。


 気を取り直して、自分のカメラの照準器で『両目でエイム』を試してみる。


 意識しないとどうしても左目を閉じてしまう。

 両目を開けたまま、右目だけで照準を合わせようとすると、先端のつまようじを見失ってしまう。


 む、難しい。


 あ。


 ちょうど、カワセミさんを狙って試していたら、水面に向かって飛んだ。無意識にカワセミさんを追いかけるけど、水の中に飛び込んだ後。

 水面に波紋が広がる。

 すぐに水の中からカワセミさんが飛び出して来る。

 あわててそれを追いかける。


 あ。


 なんかできたかも。なんとなく、わかったかも。

 葦の上に戻ったカワセミさんを両目でエイム。

 両方、見える。照準器も、まわりの景色も。


 よしよし、これでちょっとやってみよう。


 水面には他にもカモさんがいらっしゃるので、そっちに照準を合わせてから、またカワセミさんに戻す。

 上空を飛び去るカラスさんやヒヨドリさんも狙ってみる。


 ふむ、ふむ。なるほど、なるほど。


「ところで、おじさま。そこの()()()()()()はお知り合いですの?」


 はい?


 ちんちくりん?


 キレイな顔して、えらいこと言ってくれちゃってますね、この人!


 いや、まあ、確かに、ちっちゃいですけど!?


「年末からココに来てる、えっと、高校生、だっけ?」

「あ、はい。高一です」

「ふぅん……やけに馴れ馴れしいですわね」


 む。どうやらカワサキさんと仲良くしてるのが気に入らない模様?


「えっと、カワ()()さん、こちらの方は?」


「あ? え? カワセミ?? いや、ウチ、カワ()()……」


「あああ! ごめんなさい、カワ()()さん! こちらの方は!?」


 女の子の方を意識してたら、どえらい間違いを。うう、すみません。


「ウチの妹の孫で、(ラン)。鈴木蘭。蘭も高一だっけ?」

「もぅ、おじさま。フルネームは止めてくださいまし。おじさまだって本名は……。ええ。そう、高校一年ですわ。それで、貴女は?」


 孫? マゴ?

 孫がわたしと同じ高一、ってことは、カワサキさんって、ウチのおじいちゃんとかと同じ世代?

 お父さんよりはちょっと上かなとは思ったけど。

 おぅ……。


「えっと、ややこしいけど、わたしも河崎(カワサキ)。河崎永依夢(エイム)。カワサキさんと同じ河崎だけど、発音がちょっと違うの。年末にこの公園に来て初めてオオタカさんを見て、写真撮り始めて……」


「エイム? エイムって、FPSとかでよく使われる、あの、エイム?」

「あ……わかるんだ……そう、らしい、です、ハイ」


 まさかわたしと同い歳の女の子が『エイム』を知ってるなんて。


 お嬢様かと思いきや、この子、一体、何者!?




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