朝凪に消える戀
※フィクションです。
わたしはすぐに絶望する
キミに逢えなくて絶望する
キミの声が聞きたくて絶望する
キミに触れたくて絶望する
キミが他の誰かといるから絶望する
この想いは届くことはない
だから朝凪にそっと沈める
蒼と白に溶ければ
誰にも知られることなくこの戀は終わる
わたしが勝手に好きになり
勝手に願い
勝手に絶望した
何も知らないキミは悪くない
キミの前で不機嫌な態度をとり
声を荒げ睨みつけたわたしを
どうか許してほしい
本当はちゃんと伝えたかった
素直に笑いたかった
わたしを見てほしかった
キミの特別になりたかった
でも……
わたしにできることは
あのコと笑うキミを追いかけるだけ
ねぇ……
あのコとわたし何が違うのか教えて
わたしの方がキミも想っているのに
どうしてわたしじゃないの?
なんて……
つくづく自分が嫌になる
そう……もう嫌なんだ
――こんなわたしも
――きみが好きなあのコも
――わたしを見てくれないキミも
雫は落とせば気持ちが少しだけ楽になる
まだキミへの想いが残っているのがわかるから
朝焼けの中で雫は光となり
わたしを焦がすから
それでも少しずつ摩耗するわたしは
いずれ失うかもしれない想いにすがり
今はまだ前に進みたくない……
ハコで六弦を奏でる
わたしは願い、祈り、嫉妬、全てを乗せ奏でる
凍った瞳でわずかな観客たちを睨む
暗闇と歓声がわたしへの福音となる
もう終わりでいいのかもしれない
次に逢った時に
サヨナラと花束を渡そう
今までありがとう
そう思った
そう願った
でも……
わたしはまた絶望する
出番を終えたわたしの目の前に
幼さを残すその笑顔があるから
鼻にかかるその声に絶望する
朝露が残りそうな長い睫毛に絶望する
淡い唇に触れたくて絶望する
キミにつながる全てに絶望する
サヨナラを告げる事も
花束を渡すこともできない
それどころか
もう抑えることができない
理から外れたわたしは
ただのケダモノになる
誰にも気づかれないように
息をひそめ
手を重ねて
唇を奪い
やがて全てを奪う
最初からこうすれば良かった
その瞳から落ちる雫は
わたしをますます黒く堕とす
――この刹那こそ
――この偽りこそ
わたしの願いそのもの
なんて醜く愚かしいのだろう
ごめんね……
さよなら……
遠くで一人暮らすことになった
知人のいないこの街で
ただ穏やかなだけの日々を過ごす
キミに逢うことはもうない
戀は蒼になり白に返す
わたしはやがて朝凪になる
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