再会
静かな夜道。さわさわと葉の擦れる音がこだまする。
夏を運んでくる蒸し暑い空気がまとわりついて離れない。
今日はちょっと寄り道したくなって、星空がよく見える公園に来た。
幼い頃、幼馴染とよく遊びに来ていた場所だ。
今でも、悩んだ時は必ずと言って良いほどここに来る。
自分の汚れた感情を、全てリセットできる気がするのだ。
この場所に詰まった色とりどりの思い出が、私を励ますように頭の中を駆け巡る。
ここにいる時だけは、自分の存在をなんとか見出せている気がした。
さっそくいつものベンチに座って、空を見上げながらふーっと深く息を吐く。
「星きれい。いっそあの星空に吸い込まれて、どこかに消えてしまいたい…。」
大学生活も残り1年を切った。そんな中、自分には何ができるのかと悩む日々。
周りはやりたいことを見つけて、それに向かってただがむしゃらに進んでいるというのに。
…私は空っぽだ。
考えれば考えるほど、負の思考の連鎖に追い込まれる。
「大丈夫。俺がお前の笑顔を取り戻してみせる。そのために俺はここに来たんだ。」
「えっ?」
ぐるぐると不安が膨らむ暗闇の中へ思考を吸い込まれていた矢先。
どこからか男性の声が聞こえた。
その声は、静かながらも、熱のこもっている感じがした。
まさに今、私が言われたい台詞だった。
疲れすぎているがゆえの幻聴かと思いつつ、少しだけ夢見た私は、声の主を知りたくて、咄嗟に周囲を見渡した。
すると、ベンチの後ろで、ガサゴソと慌ただしい物音がした。
その方向に目を向けると、長身で細身のシルエットが浮かんでいる。
そして、心なしかそれは、物音以上におろおろしているようにも見えた。
「あの、えっと、大丈夫ですか?」
こんな夜に不用心だと思いつつ、どこか放っておけない雰囲気を感じた私は、
一定の距離を保ちながらも、はっきりと話しかけてしまった。
「あ、え?うそ?聞こえている?本当に話せているのか?」
ここにいるのは間違いなく、声の主と私だけだ。
つまり、先ほど男前な言葉を発していた人と、今、目の前でブツブツ言っている人が同一人物であるとしか考えられないだけに、こちらまで動揺してきた。
だが、ちょっとした正義感のようなものが芽生え始めてきた私は、この状況をはっきりと理解すべく、冷静になって話を続けてみることにした。
「話せていますよ。今、私はあなたの声を聞いて話しかけましたから。」
「うわ!本当なんだ!やった、成功したんだ!」
急に元気になった声に思わず驚き後ずさる。
成功とは何のことか。
一瞬疑問に感じたが、打って変わって嬉しそうにばっと上げたその顔を確認するやいなや、その疑問は勢いよく彼方へと吹っ飛んでいった。
「久しぶりだね、音羽。会えて良かった。」
落ち着きを取り戻した彼は、ほっとしたようにそっと微笑み挨拶を交わす。
目の前に現れたのは、10年前、音沙汰もなく疎遠になった温田奏太。私の幼馴染だった。
驚きと興奮が入り乱れ、自分の感情の拠り所がわからなくなった私の頬からは、
気づけば一筋の涙が零れていた。